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陰陽師物語  作者: 睦月火蓮
陸幕
43/61

“喪失”

「…ヨウヤ、ヨウヤ」


ヨウヤ「…う…」


目が覚めると俺は父様に抱き抱えられていた。

二人とも、何かに警戒しながら話していた。


吉平「…あの九尾め、私に化けたかと思えば…やはりヨウヤに近付こうとしていたか」


ヨウヤ「づづ、らお…?」


暦「九尾?…ちょっと待ってください、九尾って確か…」


吉平「ああ。…信じたくもないが、アレの手下、妖魔・九尾だ」


「アレとは酷いな。我らが主に向かって」


吉平「!」


そこで初めて奴の姿を見た。

黒い袴姿に目立つ長い白髪で毛先が金。赤い切れ長の目。

白い狐面を腰から下げて、背には大きな剣を持っていた。


九尾「我らの常闇の君主…八岐大蛇様に向かってそんな風に呼ぶとは…」


吉平「…息子に何をするつもりだ」


九尾「フン。分かり切ったことを…その餓鬼を抹殺するに決まっているだろう」


暦「テメェ…」


九尾「その餓鬼の霊力はオロチ様がこの世に君臨するにあたって、邪魔な存在だ。餓鬼のうちに始末しておかねばならん。理解したか、人間。

 …『九十九』などといった執行者よ」


奴の手から青い火が出たかと思えば、突然周りに氷柱が突き刺さった。


暦「何しやがる!……!?」


ヨウヤ「こよみおにいちゃんてが!」


九尾「貴様らは此処で氷漬けになっているが良い」


俺達にそう言い残して、その場を去っていく。


暦「まちやがれ!…っ…」


吉平「このままでは…」


ヨウヤ「…どうしよっ…ボク…」



…俺が覚えているのは、ここまでだった。

そのあとは、何故だか分からないが、記憶が無くなっている。


つまりは…俺はここから、日神祀にいた頃の記憶が喪失している。


今でもどうしてそうなったのかは分からない。

微かに覚えているのは…何か妖力を感じた気がすること。

それと…手に持っていた筈の花が全部消えていたこと。

誰かに…抱えられていたこと。

…そのぐらいだった。



目が覚めたら、あの神社にいた。


ヨウヤ「…ここ、は…どこ…?」


「ここは神奉神社。私は神支寺日美子、神主をさせていただいてる者です」


ヨウヤ「…」


日美子「貴方のことは分かっております。…疲れたでしょう、お休みなさい」


ヨウヤ「…うん」


それ以来、記憶を失くした俺は…「道陰陽矢」として神原町で暮らし、ごく普通の少年として育てられた。

それも全て…妖怪どもの目を逃れる為に。

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