“喪失”
「…ヨウヤ、ヨウヤ」
ヨウヤ「…う…」
目が覚めると俺は父様に抱き抱えられていた。
二人とも、何かに警戒しながら話していた。
吉平「…あの九尾め、私に化けたかと思えば…やはりヨウヤに近付こうとしていたか」
ヨウヤ「づづ、らお…?」
暦「九尾?…ちょっと待ってください、九尾って確か…」
吉平「ああ。…信じたくもないが、アレの手下、妖魔・九尾だ」
「アレとは酷いな。我らが主に向かって」
吉平「!」
そこで初めて奴の姿を見た。
黒い袴姿に目立つ長い白髪で毛先が金。赤い切れ長の目。
白い狐面を腰から下げて、背には大きな剣を持っていた。
九尾「我らの常闇の君主…八岐大蛇様に向かってそんな風に呼ぶとは…」
吉平「…息子に何をするつもりだ」
九尾「フン。分かり切ったことを…その餓鬼を抹殺するに決まっているだろう」
暦「テメェ…」
九尾「その餓鬼の霊力はオロチ様がこの世に君臨するにあたって、邪魔な存在だ。餓鬼のうちに始末しておかねばならん。理解したか、人間。
…『九十九』などといった執行者よ」
奴の手から青い火が出たかと思えば、突然周りに氷柱が突き刺さった。
暦「何しやがる!……!?」
ヨウヤ「こよみおにいちゃんてが!」
九尾「貴様らは此処で氷漬けになっているが良い」
俺達にそう言い残して、その場を去っていく。
暦「まちやがれ!…っ…」
吉平「このままでは…」
ヨウヤ「…どうしよっ…ボク…」
…俺が覚えているのは、ここまでだった。
そのあとは、何故だか分からないが、記憶が無くなっている。
つまりは…俺はここから、日神祀にいた頃の記憶が喪失している。
今でもどうしてそうなったのかは分からない。
微かに覚えているのは…何か妖力を感じた気がすること。
それと…手に持っていた筈の花が全部消えていたこと。
誰かに…抱えられていたこと。
…そのぐらいだった。
目が覚めたら、あの神社にいた。
ヨウヤ「…ここ、は…どこ…?」
「ここは神奉神社。私は神支寺日美子、神主をさせていただいてる者です」
ヨウヤ「…」
日美子「貴方のことは分かっております。…疲れたでしょう、お休みなさい」
ヨウヤ「…うん」
それ以来、記憶を失くした俺は…「道陰陽矢」として神原町で暮らし、ごく普通の少年として育てられた。
それも全て…妖怪どもの目を逃れる為に。




