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陰陽師物語  作者: 睦月火蓮
陸幕
42/61

“悲劇”

ある日、俺が外に出ようとした時…。

父様に呼ばれた。


吉平「…夜月、ヨウヤ。こちらへ来なさい」


お姉ちゃんを呼ぶならともかく、俺を呼ぶなんて珍しかった。

何より…深刻な顔をした父様の顔が気になった。


ヨウヤ「…ちちさま。ボクもよぶなんて、どうしたの?」


吉平「…。今から、夜月に託した神器を、ヨウヤに継承させようと思う」


ヨウヤ「?」


神器。今思えば横笛・巫月夜…宝剣・十六夜のことなんだろう。

幼い俺には何のことか全然わからなかった。

だけど、当時の継承者であるお姉ちゃんはすぐに分かった。


夜月「…ほんきですか、ちちうえ。まだヨウヤはこんなに幼いのに…」


これも今考えれば、俺がもう少し成長した後に継承させるつもりだったんだろう。

よくある話じゃないか。代々続くような家系ほど、男子優先なのは。


吉平「…夜月。これは、どうしても…今日中にヨウヤへやらなければならないんだ。…わかってくれ」


夜月「…まさか、ヨウヤの身に──」


吉平「夜月」


夜月「!……わかりました」


険しい顔、その顔を見てお姉ちゃんもわかってしまったらしい。父様の意図が。

だけど、幼い俺を怖がらせないように父様が言葉を遮った。


ヨウヤ「…どうしたの?」


夜月「……わたしは…どうしたら……、いや…なんでもない…」


笑っているのに、今にも泣きそうだった。

神器の継承にはそれ程時間を使わなかった気がする。幼い頃の記憶だから覚えていないが…唯一覚えているのは、神器をお姉ちゃんから受け取ったことぐらいだった。

…結局その日は俺は外に出ることはなかった。悲しそうなお姉ちゃんの傍を、何となく離れたくなかった。


翌朝。珍しく早起きした俺は、昨日のお姉ちゃんの顔を思い出して、幼い思考で花を見せたら元気になってくれるかな。なんて考えて、一人屋敷を出た。

俺はまたいつものように天照の祠で花を摘んで、皆の所に帰ろうとした。

だけど、見てしまった。突然、目の前で起きた悲劇。


村が妖怪に襲われる光景を。


ヨウヤ「なに…これ…。…!そ、そうだ…みんな…!」


途中何度か転んでも、何度も起き上がって、ただひたすら走った。

いつの間にか手に持っていた花は減っていたけれど、それどころじゃなかった。


ヨウヤ「ははさまーぁああ!ちちさまーぁああ!…おねえちゃーぁああん…!…ひっくっ…!」


怖い。

誰もいない。

皆は、どこ?


寂しさと恐怖心から、涙が溢れてきた。

そして、また転んだ。


ヨウヤ「いたた…っ」


不運だったのは、ずっと走っていて体力がなくなったこと。

転んだ直後に感じた妖気に気付いたものの、俺は足の竦みもあって逃げることができない。

妖怪は、もう目の前。


ヨウヤ「…!」


近所にいた、あの妖怪達とは全然違う。

あいつらの悪さは本当に俺もやっていたようなイタズラ程度で、目の前にいるのは…

恐怖から、目を閉じていた。


「──はぁっ!」


聞き覚えのある声。俺は目を開けて見た。

そこには、所々に傷を負っていた暦お兄ちゃんと夜お兄ちゃんの姿。


ヨウヤ「あ…。…こよみ、おにいちゃん…よるおにいちゃん…」


暦「大丈夫か!」


ヨウヤ「う、うん…」


暦「!…夜、走るぞ!」


夜「はい!」


暦お兄ちゃんに抱きかかえられて、妖怪どもから逃げた。

そこからは、以前見た夢と同じだった。


ヨウヤ「…ごめん、なさい…っ…ボク…あしでまといだよね…っ」


暦「何言ってやがるんだ!お前のせいじゃない!…っ…霊力が制御しきれないのは、幼いから仕方ないさ!

 お前は何も言わず落ちないように俺に掴まってろ!」


ヨウヤ「っ…うん…」


昔、父様に教えてもらったことがあった。妖怪は強い霊力に引かれるらしい。

元々陰陽寺家の者は生まれ付き霊力が強いらしいが、俺はその中でも特に強く…あまりの強さ故に制御できず、よく猫又とか小さな妖怪が周りにウロウロしていた。

寂しさを感じることはなかったのだが、今回はそれが仇となって唯でさえ多い妖怪どもを余計に引き付けていた。


逃げているうちに、あの湖下祠に通じる湖の前まで逃げてこられた。


暦「っ…はぁ…はぁ…。…なんとか、妖怪は振り切れたみたい、だな…」


夜「そう、みたい、ですね…」


ヨウヤ「…だいじょう、ぶ…?」


暦「んー…?なぁに、心配すんなって…こんぐらい、平気だ」


息切れしているのに、辛い筈なのに、それでも無理して…小さい子供の俺を気遣ってくれていた。

暦お兄ちゃんが俺の方から別の方向を見た。


暦「…!」


ヨウヤ「?…あっ、ちちさま!」


「皆!…平気か!」


ヨウヤ「ちちさまー!……?」


姿は確かに父様だった。だが…何かが違う。

いつもの優しくて強い気配が、どこにもなかった。

それどころか…禍々しさ。恐怖を感じた。


「?…どうしたんだ」


ヨウヤ「……ちちさま、じゃない……だれ?」


「…」


暦「…。…夜」


夜「?」


暦「…後のこと、任せたぞ」


夜「え?…あっ!暦様!」


暦お兄ちゃんが俺のすぐ横に出てくると同時に、酷く傷ついた様子の本物の父様が出てきた。

二人ともそいつに向かって刃先を向けている。


「…チッ。しぶとい人間だ」


偽物の背後から九つの尾が出てくると、俺は尾に絡まれて湖に落とされた。


ヨウヤ「うわぁあっ!!」


暦「しまった!」


吉平「っ…ヨウヤ!」


夜「御二方!…うわぁああっ!!」


暦「夜!…ッ!」


三人とも俺を助けに向かおうとしたが、夜は奴の尾に阻まれて近くの大木まで弾き飛ばされて、気絶したんだと思う。

そこで俺も意識を失ったのか、記憶がない。

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