“記憶”
俺は…毎日、病弱な母様の為に花を摘んでは見せていた。
そのたびに葉っぱや泥だらけになって、「お姉ちゃん」に怒られて…。
「こら『ヨウヤ』!一人で遊びに行くなと何度言えば分かるんだ!」
ヨウヤ「ごめんなさい…」
暦「ははっ。そんぐらいにしてやれよ『夜月』ー」
桃芽「よく簡単に夜月の目を掻い潜れますわね…」
何度お姉ちゃんに怒られても、俺は懲りなかった。
倭代「あっはは。六花とヨシちゃんの子供は可愛いねー」
夜「まったく、面白い発想をしますね、貴方の御子様は」
六花「誰に似たのかしらね…。ヨウヤ、こっちにいらっしゃい」
ヨウヤ「……うん!」
皆の笑顔が、嬉しかったからだ。
いつも、俺が花を採ってきたのは…案外遠くないけれど、子供の足じゃ結構な距離の、…天照の祠の、まさにここで…。
ヨウヤ「……」
俺がここに行くとき、いつも入り口の陰から中の様子を伺ってた。
理由は…
「…~…です」
「…~でー、…だ」
「~…じゃろ」
「…だ」
「…か」
「……~ですか」
大人達が、よく中で話しているからだ。
話している内容は小さな俺には分からなかったが、その話題が終わったかどうかの雰囲気はなんとなく分かった。
ヨウヤ「…わーっ!」
ガクツチ「…ん?おっと、またきたなイタズラ坊主がー」
ヤツヒメ「かかっ、無邪気な童じゃな。お前様とこの御子は兄妹揃っての」
ミクマリ「子供のうちは元気が一番ですからね」
俺が跳び付く相手は父様か、ガクツチさんのどちらかだった。
オオヤマ「…。…前から思っていたのだが、何故私には来ないんだ…」
ヨウヤ「?…だって、おねえちゃんからいわれたの。『おんなのひとにはやさしく』って」
オオヤマ「…」
ミクマリ「…お、女の人…っ」
ヤツヒメ「…くくくっ…」
ガクツチ「あー…お、おう…」
吉平「…ヨウヤ。オオヤマは、その…少し美形なだけで、私とガクツチと同じく、男性だ」
ヨウヤ「?…?」
子供の俺には、全く理解できないことだった。綺麗な人=女の人。格好良い人=男の人。あの頃はそんな思考で生きてきたからな。
吉平「お前が来る時はいつもおおよその話がついている頃だな。…それじゃあ、今日はこれで」
ガクツチ「おう。またな」
ヤツヒメ「次はオオヤマにもひっついてやるのじゃぞー(笑)」
オオヤマ「…お前な」
ミクマリ「ヤツヒメ…」
ヨウヤ「うんっ!またねー」
父様に肩車されながら、家に帰るのが好きだった。
背の高い父様と同じ目線になった気がして…ずっと見上げていた風景が見下ろせて、好きだった。
と、たまに…。
「──あにさまぁあああっ!!」
近所の、花護寺兄妹(主に妹の怒鳴り)声が聞こえてきた。
ヨウヤ「わっ!?」
吉平「…どうやらまたのようだな」
屋敷に戻ると、夜桜お兄ちゃんの行動に怒る桃芽お姉ちゃんをよくお姉ちゃんと暦お兄ちゃんが止めてたな…。
(何故か夜お兄ちゃんは倭代さんとほのぼのと微笑んでいたけれど)
夜桜「あいたたたた…」
暦「や、やめてやれって…。…あっ」
桃芽「あにさまぁあああっ!!いい加減にしてくださいと言ってるでしょうが!!」
夜月「そう言ってやるな。…ほら、ヨウヤも怯えるだろ」
桃芽「なら止めましょう」
暦「止めるんかい」
桃芽「暴力は子供の教育に悪いので」
暦「いや俺らも子供だからな」
倭代「平和だねー」
夜「そうですねー」
和佳「どの辺…主にどの辺で平和…?」
皆が笑っていて、楽しくて…平和な毎日、だった。
そんな日が、突然終わりを告げた。




