謎の声…陽矢の笛
屋敷の戸を開けた瞬間、目の前に刃物が飛んできた。
どうやら刀を突き付けられたようだ。
陽矢「うおっ!?」
驚いた拍子に、尻もちをついてしまった。
顔を上げると、そこには右神がいた。
陽矢を見下すかのように、刀を構えて立っていた。
陽矢「いってー…何すんだよ!」
右神「…貴様がお嬢たちを助けに行くだと…?
…ふざけるな…貴様ごときに何が出来る…」
その一言に腹が立った陽矢は立ち上がって、右神に言い返した。
陽矢「んなもん…やってみなきゃ分からないだろ!」
右神「たわけが。貴様のような子供が行ってなんになる」
陽矢「んだと…!」
左神「…お二人方、いい加減に…」
二人「「アンタ(お前)は黙ってろ!」」
左神「…息ぴったりですこと」
左神が呆れ気味に言うと、右神が刀を構え直す。
右神「言って分からぬのなら…力ずくで分からしてやろう」
陽矢に向け、刀を振りかざした。
間一髪、毛先が多少切れたが避けた。
陽矢「…オイアンタ! 危ないじゃないか!!
…って、うおっ!?」
なんと右神は…もう片手に刀を所持していた。
陽矢「ッ…ズリィぞアンタ!二刀流なんてよっ!」
右神「問答無用ッ…!」
一方的に攻撃をされるも、寸前でかわす。
それを繰り返している最中…
『まったく…ムキになりやがって、しょうがねえな』
陽矢「…?」
何処からか声が聞こえた。
どうやら自分にだけ聞こえているようだ。
『よし。俺もすこーし手伝ってやるから、さっさと終わらせな』
陽矢「(な、何だ…?)」
〝声〟は、陽矢に指示を出す。
『お前笛持ってるな。それを出してみろ。…おっと、木でできた横笛だぜ』
陽矢「(なんでこんな時に…しかもよりによって…)」
右神の攻撃をかわしながら、学生鞄の中から眼鏡ケースに似た物を出す。
そこから笛を取り出し、手に持った瞬間。
右神「…どこを見ておる!」
陽矢「…!」
『ゲッ……やばっ…』
右神が刀を振りかざし、突風が陽矢を吹き飛ばして壁に打ち付けた。
痛みでしばらくまともに動けそうにない。
陽矢「いってェー…」
『お、おいおい…まさかここまでムキになんてんのかよ!?
…って、早く体勢を立て直せ!さもないと…』
〝声〟が言うと同時に、顔のすぐ横に刀を突き付けられた。
右神の手を見ると、陽矢の笛が握られている。
『うわマズッ…』
右神「…これは…!?」
陽矢「それを返せッ…!」
笛を見た右神は、陽矢をキッと睨み付けて目先に刀を突き付けた。
右神「貴様…どこでこれを手に入れた」
陽矢「はあ…!?」
右神「どこで手に入れたと聞いておる…答えろ。
何故貴様がこの笛を持っておる…この笛は…」
陽矢「いいから返せ…!その笛は…
──父さんと母さんへの唯一の手掛かりなんだ…!」
右神「何…?」
「…そこまでにしてください。右神」
気が付くと右神の背後に、車椅子に座った日美子がいた。
どうやら左神が連れてきたようだ。
日美子「陽矢君の言っていることは本当です。返してあげてください」
右神「…クッ…」
渋々陽矢に笛を返す。
日美子はその様子を見て、一安心したような顔を見せる。
日美子「…陽矢君。日神祀に向かう前に…貴方に渡す物があります。
右神、左神、二人もついてきてください」