陽矢の夢
…その夜。俺は夢を見た。
広い草原。近くには、さっきまでいた筈の陰陽寺家の屋敷。
空を見上げると…眩しいくらいの太陽。
両手を見てみると、どうやら体が透けているらしい。
『ふんふふーん♪』
陽矢「…?」
横を見ると、小さな少年が花を持って歩いている。…スッゲー汚れてるが。
よく見ると頭に葉っぱの他に白い花が…確か、峰薄雪草っていうんだったっけな…。つーかどこ行ってたんだか。
見たところ、俺が見えていないらしい。…まぁ透けてるしな。
『ははさま、よろこんでくれるかなー』
陽矢「…母様?」
嬉しそうに持っている花を眺めている。
『こんなところにいたか!』
『!?う、うわぁ!おねえちゃんだ!!』
『あっ!待て走ったら転ぶぞ!』
少年の姉らしき人物、だけど顔が分からない。
陽矢「…っ…頭が…」
酷い頭痛に襲われたかと思うと、急に目の前の景色が変わった。
さっきとは一変して、明らかに平和ではない世界だった。
顔を正面に戻した時、またあの少年を見つけた。
『ははさまーぁああ!ちちさまーぁああ!…おねえちゃーぁああん…!…ひっくっ…!』
さっきと同じく薄汚れているが、その顔は恐怖で染まっている。
何かに逃げているのか、それとも探しているのかは分からないが…泣きながら走っていた。
だが、俺の目の前で転んだ。そう思った直後…今にも襲いかかろうとする妖怪の姿が見えた。
『いたた…っ…!』
陽矢「!」
目の前にいるのに、透けている俺の体じゃ触れることも出来ない。
だが、代わりに少年を助けた人がいた。
『はぁっ!』
『あ…。…こよみ、おにいちゃん…よるおにいちゃん…』
『大丈夫か!』
『う、うん…』
『!…夜、走るぞ!』
『はい!』
陽矢「暦と…夜…」
あの少年を抱きかかえながら、襲いかかってくる妖怪を蹴散らしていく。
だけど…二人とも体力の限界が近いように見える。
『…ごめん、なさい…っ…ボク…あしでまといだよね…っ』
『何言ってやがるんだ!お前のせいじゃない!…っ…霊力が制御しきれないのは、幼いから仕方ないさ!
お前は何も言わず落ちないように俺に掴まってろ!』
『っ…うん…』
陽矢「…。…っ」
痛みが激しくなって、膝をついた。
なんだか、この先は見たくない…。
…だけど…。
陽矢「…見なきゃ、いけない気もする…」
俺はあの三人を追いかけようと思ったが…その必要はなかった。
俺が痛みを堪えて顔を上げると…あの、湖下祠に通じた湖の前に変っていた。
『っ…はぁ…はぁ…。…なんとか、妖怪は振り切れたみたい、だな…』
『そう、みたい、ですね…』
『…だいじょう、ぶ…?』
『んー…?なぁに、心配すんなって…こんぐらい、平気だ。…!』
『?…あっ、ちちさま!』
父様。そう呼んだ男性の顔は…やっぱり分からなかった。
『皆!…平気か!』
『ちちさまー!……?』
嬉しそうな顔でその父親の方へ走り出したかと思えば、急に足を止め怯えたような顔をした。
『?…どうしたんだ』
『……ちちさま、じゃない……だれ?』
『…』
少しずつ後退りしていく。
…この光景、確か…俺は…知って…?
『…。…夜』
『?』
『…後のこと、任せたぞ』
『え?…あっ!暦様!』
暦が飛び出した直後、その後ろから本物と思われる「父様」が現れた。
酷く傷ついた姿で。
『…チッ。しぶとい人間だ』
その偽者から…九つの尾が現れたかと思うと、次の瞬間──
『うわぁあっ!!』
『しまった!』
『っ…___!』
尾に絡まれ湖に向かって投げられたあの少年を、二人が助けに向かう。
『御二方!…うわぁああっ!!』
『夜!…ッ!』
二人に続いて飛び込もうとした夜は、他の尾によって近くの大木まで吹き飛ばされた。
おそらく…衝撃で気絶したと思う。
二人が湖に飛び込んだところで…夢が終わった。
誰かに、呼び起されたかのように…──
──陽矢!」
陽矢「…っ…?」
目を開けると、心配そうな顔をした皆の顔が眼に映った。
夜月「陽矢…よかった…」
妙に体が重い。おまけに貧血みたいに頭がグラつく。
…ん?もしや俺、夜月の膝の上に頭を乗せられ…?
桃芽「動かないで。体力もかなり持っていかれましたので」
陽矢「…何が、起きて…」
倭代「いやいや。これはあたしも予想外だったよー。まさか、『無理矢理夢を見せる』なんてさ」
陽矢「…?」
暦「…ったく、あんの野郎も随分と手の込んだ妖術を仕込んでくれたぜ…」
陽矢「…よう、じゅつ…?」
暦の手を見ると、黒い札が。…赤い文字で、「狐」?
それに倭代さんが別の白い札を張ると、紫色の不気味な炎を上げながら消えた。
つーか熱くないのか?…いや、陰陽師だからそういうのやってるのかもしれない。
暦「……。
…スイマセン、いきなりやるのやめてくれません?一応火傷しないように術施してますけどスゲーあっついんで…」
夜「…」
前言撤回、結局熱い。
夜月「…」
陽矢「?…!? 夜月この腕…!」
俺を支えている夜月の腕を見ると、俺が無意識に掴んでいたであろう痕がはっきりと残っていた。多分、爪も立ててただろう傷もある。
陽矢「…ごめん」
夜月「謝る必要はない。…この程度、どうてことない」
陽矢「けど」
夜月「これ以上、失いたくなかっただけだ」
陽矢「……」
──…あの方と、重ね合わせているのでしょうね…
最初の頃、夜がそんなことを言っていたのを思い出した。




