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陰陽師物語  作者: 睦月火蓮
陸幕
38/61

陽矢の夢

…その夜。俺は夢を見た。


広い草原。近くには、さっきまでいた筈の陰陽寺家の屋敷。

空を見上げると…眩しいくらいの太陽。

両手を見てみると、どうやら体が透けているらしい。


『ふんふふーん♪』


陽矢「…?」


横を見ると、小さな少年が花を持って歩いている。…スッゲー汚れてるが。

よく見ると頭に葉っぱの他に白い花が…確か、峰薄雪草(ミネウスユキソウ)っていうんだったっけな…。つーかどこ行ってたんだか。

見たところ、俺が見えていないらしい。…まぁ透けてるしな。


『ははさま、よろこんでくれるかなー』


陽矢「…母様?」


嬉しそうに持っている花を眺めている。


『こんなところにいたか!』


『!?う、うわぁ!おねえちゃんだ!!』


『あっ!待て走ったら転ぶぞ!』


少年の姉らしき人物、だけど顔が分からない。


陽矢「…っ…頭が…」


酷い頭痛に襲われたかと思うと、急に目の前の景色が変わった。

さっきとは一変して、明らかに平和ではない世界だった。

顔を正面に戻した時、またあの少年を見つけた。


『ははさまーぁああ!ちちさまーぁああ!…おねえちゃーぁああん…!…ひっくっ…!』


さっきと同じく薄汚れているが、その顔は恐怖で染まっている。

何かに逃げているのか、それとも探しているのかは分からないが…泣きながら走っていた。

だが、俺の目の前で転んだ。そう思った直後…今にも襲いかかろうとする妖怪の姿が見えた。


『いたた…っ…!』


陽矢「!」


目の前にいるのに、透けている俺の体じゃ触れることも出来ない。

だが、代わりに少年を助けた人がいた。


『はぁっ!』


『あ…。…こよみ、おにいちゃん…よるおにいちゃん…』


『大丈夫か!』


『う、うん…』


『!…夜、走るぞ!』


『はい!』


陽矢「暦と…夜…」


あの少年を抱きかかえながら、襲いかかってくる妖怪を蹴散らしていく。

だけど…二人とも体力の限界が近いように見える。


『…ごめん、なさい…っ…ボク…あしでまといだよね…っ』


『何言ってやがるんだ!お前のせいじゃない!…っ…霊力が制御しきれないのは、幼いから仕方ないさ!

 お前は何も言わず落ちないように俺に掴まってろ!』


『っ…うん…』


陽矢「…。…っ」


痛みが激しくなって、膝をついた。

なんだか、この先は見たくない…。

…だけど…。


陽矢「…見なきゃ、いけない気もする…」


俺はあの三人を追いかけようと思ったが…その必要はなかった。

俺が痛みを堪えて顔を上げると…あの、湖下祠に通じた湖の前に変っていた。


『っ…はぁ…はぁ…。…なんとか、妖怪は振り切れたみたい、だな…』


『そう、みたい、ですね…』


『…だいじょう、ぶ…?』


『んー…?なぁに、心配すんなって…こんぐらい、平気だ。…!』


『?…あっ、ちちさま!』


父様。そう呼んだ男性の顔は…やっぱり分からなかった。


『皆!…平気か!』


『ちちさまー!……?』


嬉しそうな顔でその父親の方へ走り出したかと思えば、急に足を止め怯えたような顔をした。


『?…どうしたんだ』


『……ちちさま、じゃない……だれ?』


『…』


少しずつ後退りしていく。

…この光景、確か…俺は…知って…?


『…。…夜』


『?』


『…後のこと、任せたぞ』


『え?…あっ!暦様!』


暦が飛び出した直後、その後ろから本物と思われる「父様」が現れた。

酷く傷ついた姿で。


『…チッ。しぶとい人間だ』


その偽者から…九つの尾が現れたかと思うと、次の瞬間──


『うわぁあっ!!』


『しまった!』


『っ…___!』


尾に絡まれ湖に向かって投げられたあの少年を、二人が助けに向かう。


『御二方!…うわぁああっ!!』


『夜!…ッ!』


二人に続いて飛び込もうとした夜は、他の尾によって近くの大木まで吹き飛ばされた。

おそらく…衝撃で気絶したと思う。

二人が湖に飛び込んだところで…夢が終わった。

誰かに、呼び起されたかのように…──












































──陽矢!」


陽矢「…っ…?」


目を開けると、心配そうな顔をした皆の顔が眼に映った。


夜月「陽矢…よかった…」


妙に体が重い。おまけに貧血みたいに頭がグラつく。

…ん?もしや俺、夜月の膝の上に頭を乗せられ…?


桃芽「動かないで。体力もかなり持っていかれましたので」


陽矢「…何が、起きて…」


倭代「いやいや。これはあたしも予想外だったよー。まさか、『無理矢理夢を見せる』なんてさ」


陽矢「…?」


暦「…ったく、あんの野郎も随分と手の込んだ妖術を仕込んでくれたぜ…」


陽矢「…よう、じゅつ…?」


暦の手を見ると、黒い札が。…赤い文字で、「狐」?

それに倭代さんが別の白い札を張ると、紫色の不気味な炎を上げながら消えた。

つーか熱くないのか?…いや、陰陽師だからそういうのやってるのかもしれない。


暦「……。

 …スイマセン、いきなりやるのやめてくれません?一応火傷しないように術施してますけどスゲーあっついんで…」


夜「…」


前言撤回、結局熱い。


夜月「…」


陽矢「?…!? 夜月この腕…!」


俺を支えている夜月の腕を見ると、俺が無意識に掴んでいたであろう痕がはっきりと残っていた。多分、爪も立ててただろう傷もある。


陽矢「…ごめん」


夜月「謝る必要はない。…この程度、どうてことない」


陽矢「けど」


夜月「これ以上、失いたくなかっただけだ」


陽矢「……」



──…あの方と、重ね合わせているのでしょうね…



最初の頃、夜がそんなことを言っていたのを思い出した。

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