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interval 「密談」

 日暮れた旅宿の灯りの陰に、男が二人たたずんでいた。

 ランプのゆれる円卓に一人。肩でもたれた窓辺から、階下の街路をながめる一人。

 円卓で優美に足を組む、絹のシャツをまとった男が、揶揄まじりの視線を窓辺へ向けた。

「それで、どうだ。例の首尾は」

「──いけねえな。どうにも守りが固くてよ」

 窓辺の男は苦虫かみつぶして首を振り、投げやりな仕草で顔をしかめる。その容貌は、ランプの灯かりの届かない、隅の暗がりに沈んでいる。

「さっそく勘付きやがったようで、しじゅう標的(まと)に張りついていやがる。ま、一筋縄じゃいかねえことだけは確かだな」

「手強いか?」

「手強いね」

 間髪を容れずに鋭く返し、窓辺の男は口ひげをしごく。

 琥珀のグラスを灯火で揺らして、円卓の男が苦笑いした。

「お前が弱音を吐くとはな」

 その手のグラスが卓に置かれ、しなやかな指が天板を叩く。「音に聞こえたお前の腕を、よもや、そうまで(わずら)わせるとは。俺の息子は優秀だな」

「笑い事じゃねえだろ、代理」

 窓辺の"口ひげ"が憮然と睨んだ。

「あんた、本当にわかっているか? まかり間違ってバレてみろ。こっちの首が危ういぜ」

「その時は、あいつに取り成してやるさ」

 どことなく愉しげな風情で、円卓の"代理"は、事もなげに微笑う。

「なぜ、じかに命じない」

 たまりかねた面持ちで、"口ひげ"が"代理"を振り向いた。

「ひとこと言や済む話だろう。まして在り処は、すぐそこだ。手をこまねいているなんざ、あんたらしくもない」

「あいつが素直に聞くと思うか? この俺の言うことを」

 "代理" は苦笑いでグラスを弾く。「あの(・・)一件については聞いているか」

「──ああ。まったく、どんな茶番だ」

「あいつのお陰で散々だ。余計な真似をしてくれたばかりに、後始末やら調整やらで、どれだけ手間が増えたことか」

「そう言うわりには、さほどこたえたふうでもないがな」

「そりゃ、かわいい(せがれ)のすることだ」

「──ああ、あんたも親馬鹿ってクチかよ」

 "口ひげ"はやれやれと腕を組み、呆れはてた視線を向ける。「言っておくが、あんたの倅は、そう可愛げのある代物でもねえぞ。本当にあんた、わかっているんだろうな。下手すりゃ、こっちはお陀仏だ。あんたが出張りゃ、どれ程のことでもねえんだろうによ」

「当然だ。我が子の我がままくらい、押さえられなくてどうする」

「だから、そいつは、あんただからこそ(・・・・・・・・)、って話だろ。あのじゃじゃ馬さえ確保しておきゃ、それで済んだ話だろうによ。それをわざわざ、あんな大ごとにしやがって。降ってわいたあの騒ぎで、どれだけ死人が出たと思う。あのでかい図体で、今ごろ反抗期でもあるめえによ」

「反抗期、ね」

 何事か思い出したようで、くすり、と"代理"は相好を崩す。「それを言うなら、ガキの頃から、ずっとだな。むしろ、俺に一度でも、笑ったことなんてあったかな。母親のスカートにへばり付いて、少しでも近寄ると睨むんだ」

「どうしても、やる気かよ」

 どうにも気乗りのしない様子で、"口ひげ"は顔をしかめた。

「今さら言うまでもないことだが、あんたの倅は手強いぜ」

「だからこそ、お前に頼んでいる。その素晴らしい腕を見こんで。"依頼の品が、この世に在るなら──"」

 (たた)えるようにグラスをあげ、"代理"は薄っすら微笑んだ。

「"なんであろうが、調達してみせる"んだろう?」


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