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第13話 魔王が守りたかったもの、その理由

ご興味を持っていただきありがとうございます。

この話も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。

 あの光景が脳裏から離れない。


 天を割るような斬撃の痕、神の執行者との激戦の跡。

 あの場所に残っていたのは、【魔王】と呼ばれた存在が最期まで神の理不尽に抗っていたという、確かな証だった。


 そして今、俺はその意志を――受け取ろうとしている。


「……あなたを案内したい場所があります。来てくれますか?」


「俺を?」


「はい。あなたに、見てほしいものがあります」


 少し迷ったように視線を揺らしたあと、彼は名乗った。


「……俺はクルス。この村で生まれ育ちました。昔、魔王様に命を救われたんです」


 その名には覚えがなかったが、語る言葉には濁りがなかった。


 少し離れた場所にいたティナが、こちらをちらりと見ていた。

 先日、祈りの紙を渡してきたあの少女だ。まだ何かを気にしているのかもしれない。


クルスは彼女に向き直り、穏やかに声をかけた。


「ティナ、ごめん。少しだけ、レオンさんと二人で出かけたい。村の人たちには、僕から伝えておくから」


 ティナは驚いたように瞬きをし、それからこくんと頷いた。

 何か言いかけたが、結局、言葉にはせずに踵を返して歩き出す。


 その背中を見送りながら、俺は息を吐いた。


「……案内してくれ、クルス」


「はい」


 村の外れ、森の奥へと続く獣道を、クルスが先導する。


 しばらく歩いた先、崖沿いの岩陰にひっそりと開いた小さな洞穴にたどり着いた。

 祠のように石で囲われたその空間は、外からでは見つけにくい。

 よく見れば、入り口は手で隠されていたらしき痕跡がある。


「ここです。……この奥に、【魔王様】が残したものがあります」


 案内されて奥へ進むと、岩肌に囲まれた中央に、黒い台座が据えられていた。

 その上に、手のひらほどの青い水晶が静かに光を放っている。


「これが……?」


「魔王様が遺したものです。【いつか俺と似た者が現れたら、これを渡してくれ】……そう仰っていました」


 水晶を持つと、手のひら全体が熱を帯びた。

 瞬間、空気が震え、水面のように揺らぐ。


 水晶の中心から、黒衣をまとった人影が浮かび上がる。

 輪郭は曖昧で、顔は見えない。それでも、胸の奥に確信があった。


【魔王】――俺が斬ったはずの、あいつだ。


『よく来たな、選ばれなかった者よ』


 声が響く。

 だがそれは音ではない。心に直接届く、意志そのものだった。


『俺はかつて、神に仕えるただの剣だった。命じられるままに、祝福を与え、不要とされた者を斬ってきた』


 俺は息を呑んだ。


『考えることを許されなかった。だがある日、祈ったのに救われない者の声を聞いた。それでも神は言った。【選ばれなかったからだ】と』


 光が揺らぎ、記憶の映像が周囲に映し出される。


 祝福を与えられずに膝を折る少女。

 血に染まり、神を信じながらも見捨てられた老人。


 そのひとつひとつが、今の村人たちの姿と重なる。


『その時、俺は与えられた剣を捨てた。神の剣であることをやめ、この地に来た。ここには、祈っても報われなかった者たちがいた。見捨てられた命が、まだ必死に生きていた』


 黒い影が微かに笑った気がした。


『俺は、彼らを守ることを選んだ。祝福のないこの地で、ただ“そこに在る命”を守る盾となった』


 魔王の語りにあわせて、水晶の中の光景が揺れる。

 焼け落ちた村にひざまずく子どもたち、毒の霧から逃れ傷を負った女、ひとりで祈り続けていた老人――

 誰もが、祝福を持たぬという理由だけで見捨てられた者たち。


『だが……神はそれさえ許さなかった。執行者を送り、俺を【世界の敵】と定めた』


 一瞬、像がざらついたように歪む。

 空を裂く神の剣、振り下ろされる神罰の光。

 それに立ち向かう黒き影の背に、かすかな焦燥がにじむ。


『それでも、俺は信じた。この地で生きる者たちの命には、守る価値があると』


 魔王の声は、今までで最も静かだった。

 それでも、その一言にはどんな怒号よりも強い意志が――確かに、宿っていた

 映像が、静かに途切れる。


『もしこの記憶を見ている者がいるのなら――その手に、祝福を断つ剣があるなら。どうか、見届けてくれ。俺が何を守り、なぜ戦ったのかを』


 像が溶けるように消えていく。

 水晶の光も、ゆっくりと沈静化していった。

ご覧いただきありがとうございました。

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