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第96話 最終章・小悪魔同盟

 早苗の鋭いツッコミが店内に響く。


 すると、ソファー越しに身を乗り出してきたのは、ニヤニヤとした笑みを浮かべた蘭子だった。


 「あ、ども、先生の愛人、蘭子って言います」


 軽く手を挙げながら、冗談交じりにさらっと言ってのける。


 「……は?」


 一瞬、頭が追いつかなかった。いや、いやいや、冗談にしても言っていいことと悪いことがある。


 「ちょっと待って!何言ってるの!?違うから!」


 慌てて否定する僕をよそに、視線を感じて振り向くと、小夏ちゃんと早苗がじっとこちらを見ていた。


 しかも、明らかに軽蔑の眼差し。


 「いや、本当に違うから!?」


 必死に弁解するが、二人の視線は冷たいままだ。


 「……まあ、それは置いといて」


 蘭子が楽しげに笑いながら、話を続ける。


 「先生、どうしてここにいるの?って顔してるけど、実はチョコレート渡したくて雅さん達に先生の住所を聞いたんですよ。でも道に迷っちゃって、ちょっとここで一休みしてたんですよね~」


 そう言いながら、どこか嬉しそうに付け加える。


 「ていうか先生と私って喫茶店での巡り合わせヤバくないですか?」


 なぜかウキウキした様子の蘭子に、僕はため息をつきながら聞く。


 「いつの間に雅たちとそんなに親しくなったの……?」


 「女の横の繋がり舐めてちゃダメですよ先生~」


 蘭子は悪戯っぽく笑いながら、ふと視線を小夏ちゃんと早苗に向ける。


 「特に浮気する時は注意しなきゃ……?」


 「人聞きの悪いこと言わないでくれるかな……」


 僕は思わずため息交じりに応じる。


 そんな僕たちのやり取りを見ながら、早苗が微笑みながらも鋭い視線を蘭子に向けた。


 「モテる男は大変やなぁ、啓兄さん? ほな、あんた……ウチらの話、どこまで聞いとったん?」


 その横で、小夏ちゃんも同じように鋭い目を向けていた。


 空気が、少し張り詰める。


 冗談めかした空気から、一気に本題へと引き戻される。


 蘭子はその視線を受けながらも、相変わらずの笑みを崩さず、気楽そうに唇を尖らせた。


 「聞いたって言うか、聞こえたって言うかぁ~」


 蘭子は肩をすくめながら、困ったように笑ってみせた。その軽いノリに、早苗がため息混じりに小夏ちゃんへ視線を送る。


 「……どうする、こなっちゃん?」


 「愛人云々は置いといて、あんたはいったい何者なの……?」


 小夏ちゃんが、冷静に問いかける。その瞳は、蘭子のふざけた態度に惑わされることなく、核心を突こうとしていた。


 「え、何者って?」


 僕がどう説明しようか迷っていると、蘭子が手を軽く振って制した。


 「おっと、そんな怖い顔しないでくださいよ~。先生も紹介に困ってるみたいですし」


 少しも焦ることなく、楽しそうに話を続ける。


 「まあ、ざっくり言えば、私はお絵かきしたり動画配信とかしてる人ですね。一応、ちょっとした有名人だったりするんですよ~?」


 その言葉に、僕は思わず驚いた。


 「ちょ、それ言っちゃっていいの?」


 軽く目を見開く僕に対し、蘭子はケロッとした顔で笑う。


 「まあ話しても別に害はなさそうなんで、それに、深刻そうなお話だし、私としては何か役に立てるかな~と」


 「そんな簡単に役に立てるって言ったって……」


 戸惑いながらも、僕は蘭子の言葉を繰り返す。


 そんな僕の反応をよそに、小夏ちゃんが急に身を乗り出した。


 「本当に有名なの? どのくらい?」


 その勢いに、蘭子が一瞬きょとんとする。


 「え? あ、え~と……登録者数四百万くらいですかね?」


 「よ、四百万!?」


 思わず僕は聞き返した。


 「そんなにいたの!?」


 「まあ完全趣味なんで広告付けてないんですけどね、あはは」


 蘭子は気楽に笑うが、その数字はどう考えても尋常じゃない。


 「すごいな、あんた……」


 早苗も驚きの声を漏らす。


 「後でサイン貰おうかな」


 その言葉に、蘭子は「別にいいですよ~」と軽く返した。


 しかし、小夏ちゃんはそんなことよりも、別のことに注目していた。


 「今、役に立てるかもって言ったわよね?」


 真剣な眼差しを蘭子に向ける。


 「え? ああ、うん。先生の役に立てるなら……」


 少し戸惑いながらも、蘭子は頷いた。


 すると、小夏ちゃんがぐっと前のめりになり、強い視線を向ける。


 「お願い……貴女にも協力して欲しい事があるの……」


 その声には、いつもの茶化したような雰囲気はなかった。


 まるで、何かを懇願するような、切実な響きを帯びていた。

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