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第49話 終わらない悪夢(*閲覧注意*)

 地下に続く階段を下りると、湿った空気が鼻を突いた。じめじめとした独特の匂いが立ち込めていて、気分が悪くなる。古びたカラオケ店のネオンが薄暗い光を放ち、外の世界とは隔絶されたような異様な雰囲気が漂っていた。


伍代と鷹松に促されるまま、私は奥の部屋へと足を踏み入れた。そこは意外にも広かったが、壁紙はところどころ剥がれ、ソファーも年季が入っている。嫌な予感が胸を締め付ける。


伍代は奥のソファーにどっかりと腰を下ろし、鷹松もそれに続く。私は警戒しながら、入り口に一番近い手前のソファーに座った。


話では、伍代の友人に「彼女」として紹介するため、それに話を合わせればいいということだった。その約束を守れば、あの写真は消してくれる——そういう取引だった。


しかし、伍代も鷹松もニヤニヤと笑うばかりで、一向に友人たちとやらが現れる気配はない。


堪えかねて口を開いた。


「お友達とやらはいつ来るのかしら?」


伍代は何も答えず、代わりに電子タバコを取り出して吸い始めた。紫煙がゆっくりと宙に溶けていく。その匂いに眉をひそめた瞬間、鷹松がわざとらしく尋ねる。


「友達って誰だよ?」


伍代もまた、ふざけたように答えた。


「友達? 誰か呼んだっけか? あぁ、見張りなら二人ほど外で待たせてるけどな」


その言葉に、心臓が跳ねた。


私はすぐさま立ち上がり、部屋の入り口に向かった。しかし、ドアの小窓に映った見知らぬ男の顔と、それとほぼ同時に聞こえた鍵がかかる音に、背筋が凍りつく。


「なっ……!」


慌ててドアノブに手をかけるが、細工されているのかロックを外す取っ手がない。


「ありゃ~、鍵掛かっちゃったねぇ、雅ちゃん」


伍代のゲラゲラとした笑い声が耳に障る。


私は振り向き、彼らを鋭く睨みつけた。


「何がしたいんですか……?」


伍代は肩をすくめ、薄笑いを浮かべる。


「何って、それぐらい分かるでしょ? 子供じゃないんだからさ」


「……はなっから約束を守るつもりはなかった。そして最初から私が狙いだったってことですか?」


「察しが良くて助かるよ。なあ?」


伍代は鷹松に目配せをする。


「あぁ、手間が省けるしな。で? それが分かったんだから、今から何をするか分かってるよな?」


鷹松の言葉には露骨な威圧感が滲んでいた。しかし、私はひるまず睨み返す。


「さあ……一緒に歌でも歌いますか?」


「……あぁ?」


次の瞬間、伍代の足がテーブルを蹴り飛ばした。大きな音が響き、私は思わず肩を震わせる。


「……あんまり調子に乗らない方がいいぞ、雅……」


先ほどまでの軽薄な笑顔は消え、伍代の目が獰猛な色を帯びる。


「調子に乗ると、どうなるんですか?」


必死に強がるが、手が震えるのを抑えられない。


そして——伍代は一気に間合いを詰め、片手で私の両腕を掴み、壁に押しつけた。


「こうなるんだよ……」


伍代の顔が近づき、私は目を逸らさずに睨み続けた。


「やっと言ってくれましたね……」


私は口角を持ち上げ、挑発するように笑った。


一瞬、伍代と鷹松の表情が変わる。


何かを察した伍代が、私を見回し——ポケットに妙な角度で飛び出したスマホに気がついた。


「……チッ!」


すぐにポケットからスマホを奪い取り、私を突き飛ばす。


「こいつ……録音してやがった……!」


「マジかよ、このクソアマ!」


鷹松が怒りを露わにする。


伍代は取り上げたスマホを見せつけ、勝ち誇ったように笑った。


「録音か……ま、こうして取り上げちまったら意味ないよねぇ?」


しかし、私は微笑んだまま毅然と告げる。


「録音、止めちゃったんですね……ふふ、それ、自動的にクラウド保存されるアプリで動かしてるんですよね……残念ですけど、そのスマホを取り上げても意味ないですよ? 先輩」


その瞬間——


「あっぶね~!」


伍代が笑いながら言った。


「え……」


混乱する私に、鷹松が愉快そうに肩を揺らした。


「だからこの部屋にして正解だっただろ、雄二? 残念だけどさ、ここは地下で、この部屋だけ電波が届かないんだよ」


血の気が引き、心臓が強く脈打つ。


「はははははっ! やべぇ、笑いすぎて腹痛い!」


鷹松の乾いた笑い声が壁に反響し、まるで空間全体がそれを嘲笑っているかのようだった。


膝から崩れ落ち、私はその場に座り込んだ。


体の芯が凍りつくような感覚に襲われる。


胸が強く締めつけられ、息が思うように吸えない。喉の奥が熱くなり、何かを言おうとしても声が出なかった。


何もかもが遠のいていくような感覚。抵抗する力も、思考さえも。身体の奥底から絶望が這い上がり、私の全てを飲み込んでいく。


——その時、突然、コン、コン、と無機質なノックの音が響いた。


その音が、凍りついた空気にわずかな波紋を広げた。息を詰めるような緊張が場を支配し、私は反射的に音の方向を見つめた。


間を置かず、ギィ……と重々しく扉が軋む音が響いた。


外で何か揉み合うような気配がし、続いて低く荒んだ声が投げかけられる。


「こいつだろ? 圭太君の言ってた女。?」


次の瞬間、乱暴に押し込まれるようにして現れたのは——腕を背後にねじ上げられた葵だった。


男の手に強く掴まれ、バランスを崩しそうになりながらも必死に踏みとどまる葵。その瞳には怒りと恐怖が交錯していた。


「葵!?」


私は息を呑んだ。信じられない光景が目の前に広がる。


葵を連れてきた男が、薄ら笑いを浮かべながら言った。


「ろ店の外でコソコソしてたから捕まえといたぜ。気が強そうだけど、いい女じゃん」


鷹松が勝ち誇ったように笑う。


「な? 言っただろ? 葵は絶対後をつけてくるって。こいつらの友情ごっこ、マジで見てて飽きねえぜ」


葵の目から一筋の涙がこぼれた。


「葵……なんで……?」


私は思わず彼女のそばへ駆け寄ろうとした。


だが、葵を押さえていた男が邪魔するように立ち、ニヤリと笑う。


「ちょっとコンビニ行ってくるわ。ゴムとかいる?」


下品な笑いが部屋に響く。


伍代は肩をすくめ、ニヤついた顔で答えた。


「そんなもんいらねえだろ」


男は軽く笑うと、部屋を出ていき、直後に鍵のかかる音が響いた。


「さてと……楽しもうか」


鷹松がゆっくりと立ち上がりながら、不敵な笑みを浮かべる。


「だな……」


彼は葵の腕を乱暴に引き寄せ、彼女の小さな抵抗を嘲笑うように力を込める。


葵は息を詰まらせながらも、必死に腕を振りほどこうとする。


「放せっ……!」


葵の声が震えていた。しかし、抵抗すればするほど、彼の笑みは深くなるばかりだった。


「時間はたっぷりあるんだからさ……焦るなって」


 伍代もそれに続き、私の腕を無理やり引く。冷たい指が肌に食い込み、痛みが走る。


私は涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げ、喉を震わせながら伍代を見た。必死の思いで懇願する。


「お願い……このことは……啓には言わないで。お願いだから……啓にだけは……知られたくない……」


言葉を絞り出すように訴えた。しかし——


「だ~め」


伍代の口元が、心底楽しそうに歪む。


「むしろ、特別に動画付きで教えてやるよ。あいつの反応、楽しみだな」


その瞬間、私の悲痛な叫び声が、静まり返った空間に響き渡った。その声に続くように、葵の苦しげな叫びも重なった。


冷たい空気の中で、私たちの声だけが虚しく反響する。

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― 新着の感想 ―
うわぁぁぁぁぁ(脳破壊)
長引いて結局手遅れなのかいw クズ後輩これどうやって責任取るんだよ……主人公とメイン出番少なめでコイツらのグダグダというか頭の弱さにストレスw メインヒロインに心浄化されたい…… ところで、これレイプ…
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