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第32話 Drive & Shot

「マジでやるのかよ……」


「体育館のど真ん中で1on1なんて、どっちも負ける気ゼロって感じだな」


「でもバスケで立花先輩に勝つのは無理だろ……」


「いや、篠宮神楽だぜ? スポーツ得意ってテレビで言ってたし、ただの芸能人って思ってると、痛い目見るかも」


生徒たちのざわめきが体育館に広がる。

二人の周りには自然と人だかりができ、すでにスマホを構える者までいた。


コートの中央で、神楽は余裕たっぷりに微笑みながら葵を見つめている。


「勝負の条件、忘れてないわよね?」


「もちろん。私が勝ったら、神楽さんは私の言うことを何でも聞く。逆に神楽さんが勝ったら……」


「はじめが私のお願いを一つ聞いてくれる、よね?」


「そんな勝手なこと、啓が承諾するわけないでしょ」


「ふふ、勝ってから言ってくれる?」


神楽は軽く髪を指で巻きながら、挑発するような笑みを見せた。


「大丈夫よ、私が勝ったら、はじめには《《ちゃんと納得》》してもらうから」


「……調子に乗らないで」


葵がグッとボールを床に叩きつけると、周囲の観戦者から「おお……」とどよめきが起こった。


「ルールは三点先取。言い訳なしのガチ勝負、始めるよ!」


試合開始と同時に、葵が素早く動いた。


「速っ!」


「立花先輩、やっぱエースだな……!」


観客の声も耳に入らないほど、葵は全力で攻めた。

軽快なドリブルで神楽を翻弄し、一瞬の隙を突いてゴールへ駆け込む。


「まずは一本!」


「へ~、さすがね?」


神楽は軽く肩をすくめながら、余裕の笑みを浮かべる。


ボールを受け取ると、ゆっくりとドリブルしながら葵を見つめた。


「じゃあ、お返ししようかな?」


次の瞬間、神楽は鋭いフェイントを入れ、体のバランスを一瞬崩したかに見えた。


「チャンス!」


葵がすかさず詰め寄る。しかし、それは神楽の計算のうちだった。


素早く体勢を立て直し、一気に方向転換。完全に振り切り、華麗なジャンプシュートを決める。


「くっ、読まれてた……?」


「一対一ね」


「でも、まだ私の方が有利。次は簡単に抜かせないから!」


葵は気を引き締め、攻撃に転じた。だが、神楽は少しずつ彼女の動きを読み、ペースをつかんでいく。


スコアは二対二。


「これ……どっちが勝つかわかんないな……」


「てか、篠宮神楽、普通にバスケ上手くね?」


「葵先輩がこんなに真剣になってるの、初めて見たかも……」


試合の行方に、生徒たちも息を呑む。


「最後の一点……」


「ここで決める!」


葵が一気に加速した。


神楽は動じずに構えるが、葵はスピードを活かして鋭く切り込んでくる。


「このままゴール下に持ち込めば……!」


だが、神楽の目が冷静に葵の動きを追っていた。


「なるほど、強引にいく気ね?」


次の瞬間、神楽はわざと一歩後ろに下がった。


「は?」


観客も、葵も、一瞬の違和感を覚える。


バスケの1on1において、ディフェンスが下がるのは普通ならあり得ない行動だ。


しかし、その「違和感」が葵のリズムを狂わせた。


「……!」


少しでも動揺すれば、その隙を神楽は見逃さない。


下がったと見せかけて、次の瞬間、一気に前へ踏み込む。


「しまっ──」


ボールをカット。


そのまま神楽はゴール下に駆け込むが、葵も即座に追いかけた。


「絶対に止める!」


そして、神楽がシュートモーションに入った瞬間──


「……やっぱやめた」


神楽はニヤリと笑い、シュートモーションを途中で止め、葵を飛ばせた。


「なっ……!」


完全に空振り。


その一瞬の隙を逃さず、神楽は軽やかにシュートを決めた。


「決まったぁぁぁ!!!」


ボールがネットを揺らす。


「うそ……やられた……!」


葵は悔しそうに拳を握る。


「最後のフェイント……ずるい……」


「ずるくないわよ? バスケは技術だけじゃなくて、頭も使うスポーツだからね」


神楽は余裕の笑みを浮かべ、指先でボールを回した。


「はい、これで私の勝ちね」


「くっ……!」


観客たちの間からも驚きの声が上がる。


「篠宮神楽すげぇ……!」


「立花先輩がフェイントに引っかかるなんて……」


葵は悔しさを噛みしめながら、神楽を睨んだ。


「じゃあ、約束通り……はじめには私のお願いを聞いてもらうわね?」


「……啓が承諾するかどうかは別でしょ」


「ふふ、そこは私の腕の見せどころよ?」


神楽は挑発的に微笑み、くるりと踵を返した。


葵は唇を噛みしめ、まだ納得がいかない様子だったが、それ以上何も言えなかった。


「次は、絶対負けないから……!」


ボールを強く握りしめ、葵は悔しそうに呟いた。


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