父
父グラントは、朝食後執務に取り掛かるもあまり進まなかった。集中ができなかった。
フルールの笑顔を見たのは何年ぶりだろう。
フルールは妹が異母妹と知ってから変わってしまった。
それは私たち夫婦のせいだ。
家庭内のことはすべて妻に任せていたが、あまりにもフルールとリゼへの対応の違いに違和感を持ち、なぜそうするのか話しているところだった。
リゼは私のこどもではない、と妻が言ったのは、自分の子供ではないが、親友だったカレンと私の子どもであり、すでにカレンは亡くなっているから、リゼを幸せにすることが自分の使命と考えているようからだ。
しかし、私の子供ではない、という言葉のみを聞いただけで、その後の話しははいらず、年齢的にも気持ちを汲み取ることはできないだろう。そして、案の定、異母妹よりも好かれていない、本当の娘なのに愛されていない、と思い込んでしまった。
リゼを幸せにしてあげたい気持ちはわかる。だが、フルールにも同様に幸せにしてほしかった。
私は妻に何も言えなかった。
私たちの結婚はいわゆる政略結婚である。
しかし、わたしはマリアに以前から好意を抱いていた。婚約が決まった時はとてもうれしかった。舞い上がりつい踊ってしまった。
リゼとは幼いころからの幼馴染で、そのこともリゼは知っている。
だが、なぜかマリアに会いに行くと、親友のためよくいつも一緒にいるリゼと二人にされることが多かった。
そのたびに、マリアは私に好意を抱いてはくれないのだ、と落胆した。
結婚したときは、堂々とマリアを愛し、愛されるよう努力しようと思っていた。そして結婚し、妊娠がわかった時はとてもうれしかった。
だが、その後リゼを妾にするよう説得された。
マリアは、やはり私のことを愛してはくれないのだと思った。それからは表面上の付き合いのみになった。愛されるように努力することができなくなった。リゼとの初夜もするよう言われた。
僕との営みも嫌だったのかと思った。
僕と妻の子であるフルールにも、リゼ以上に愛してあげなかった。僕との子はそんなに嫌なのかと、絶望した。
もう何も言えなくなった。
しかし、あまりにもと思い不憫、あの夜妻と話をしようとした。
フルールは、リゼは母の子供ではないのに愛され、本当の娘の私は愛されないという事実により感情を失った。笑いも泣きもしない人形になった。
ただ、異母妹にはきつく当たるようになった。
異母妹に対する増悪、それだけが唯一残った感情だった。
私は何もできなかった。私が代わりにフルールを愛すると妻に憎まれると思ってしまった。
かといって、どう接したらいいかわからなかった。
そのフルールが笑った。
リゼと学園へ向かった。
妻が泣いていた。
もう一度やり直してもいいのだろうか。妻と、フルールと、リゼと4人で、愛し愛される家庭を築けるだろうか。
期待と不安が入り混じり、午前中は何もはかどらなかった。
さすがに執事に注意された。
昼食をとり、執務室へ向かう。今日の遅れを取り戻し、夕飯でちゃんとフルールと話そう、そして、妻とも夜ゆっくりしっかり話そう、そう決意した。