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はじまり
佐藤愛未は終電に間に合うよう髪を振り乱して走っていた。
ここ最近は残業ばかりだ。
彼氏の祐にもほとんど会えていない。ほとんど・・・ではないな。最後に会ったのは2か月前だ。
休日は疲れて寝ていたり、休日出勤もあった。祐は土日関係ない仕事であり、タイミングが合わなかった。
メッセージのやり取りはかろうじてしていたが、週に数えるほどだ。
今朝、祐から通知が来ていた。
「7日後の土曜日話をしたい」
愛未は「わかった」としか返せなかった。
走りながら、「別れ話かな・・・こんな彼女・・・目移りされてもしかたないでしょ・・・」
と考えていた時、歩行者用信号の青色が点滅していた。
ここで止まったら間に合わないっ、と急いで横断歩道を走る愛未だったが、
「○△◻️…!」
急に体に衝撃が走った。
トラックが見えた。
どうやら左折してきた車にはねられたらしい。
身体が痛い
頭が痛い
血が流れ出てるのがわかる
焦点が定まらない
ぼんやりと闇の中に吸い込まれているようだった
「祐・・・ごめん行けなくなっちゃった」
愛未の意識はそこで途絶えた。