エピローグ
「私は、ある学問について調べました。
あなたは、始祖の学問が何か知っていますか?この世には、数学、歴史学、考古学などたくさんの面白い学問が存在します。そんななかで、私たち人間が一番最初に興味を持ち、考え始めた、学び始めたもの。
なんだと思います?実は、数学でも、化学でもないんですよ。なんと、哲学です。
哲学とは、日常になぜ?どうして?を当てはめて、そのなぜ?を解明するために考える。ということ。
なぜ?どうして?に興味を持って学ぼうとすることは、すべての学問の原点です。だから始祖の学問なんです。
哲学の問題って、この世界に住む人間ならば誰もが共感することができる問題が多いんです。例えば、宇宙はどこから来た?この世界はどうやってできた?人間と動物の違いって?
先人たちが立ててきた永遠に議論が続きそうなほどの大きな問い、そうじゃなくても自分で新しい問いを考えてもいい。それに対して、自分なりの答えを探す。この作業は、とても楽しいですよ。
学校で学べる知識ではなく、考えることが真ん中にあるので、一度考え始めてしまえば止まらない。
だって、自分たちがどこから来たのか。とか、もっと身近なものだったらなぜ私は私なのか。
ほら、哲学の問いはあなたの身近にたくさん転がっている。
日常に、なぜ?どうして?を抱き、考えること。これは、人間であれば一応誰でもできることです。
ちょっと考えることに時間を割くだけで、ただただ繰り返される日常が、ちょっとづつ謎めいたものに思えてきたりするんです。今、あなたはこの世界の状況を当たり前として認識している。でも、その当たり前って、なんで当たり前なの?
あなたは今、世の中にあふれる謎から目を背けていないですか。当たり前というものを信じ切り、自分の日常になんの疑問も抱かず、ただ暮らしていないですか?これで、私の発表を終わります。」
最後に問いかけて、私は発表を終わらせた。この場は、夏休みの自由研究の発表会。
一人1分から1分30秒という中途半端な時間で発表しなければならないため、とってもめんどくさい。
私の名前は榊怜雄。小学5年生だ。食べることと学ぶことと妹が大好き。
食べることに関してはあまりに食べるので食神のあだ名がつき、妹大好きに関してはシスコンのレッテルを張られている。
学ぶことというのは、学校とかの強制的に受けるものじゃなくて、自分から興味をもって何かを考えたり、知ろうとすること。生きていく上で必要なことをすべて満たしたうえで、利益とかのためじゃなくて、ただ知りたいっていう欲に駆り立てられて学ぶこと。それが私の指す学び、学問だ。
その後もほかの子たちがそれぞれ発表をし、無事自由研究発表会は幕を閉じた。
「怜雄ねぇいくよー。」
校門の前でぼうっとしていたら、1年生の妹、楓花から声をかけられた。もう一人、3年生の弟、快斗もいる。
「ごめん、ボーとしてた。いこっか。」
「うん。」
そうして学校を出て、家へ向かって歩き出した。
そのまま5分くらい歩き、横断報道を渡っていた時。急に暴走族のバイクが突っ込んできた。
私は妹と弟を対岸へ突き飛ばし、自分も逃げようとしたが、間に合わない。
それを最後に、私の記憶は途切れた。