表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

Prologue 2 21時までの憂鬱《1》


《1》


 ランドセルって、なんでこんなに不自由なんだろう。まるでボクは十字架を背負って歩いているかのような気分だ。


 深緑の色のランドセルが格好いいと思っていたのに、5年生になったら、永山の野郎がミドリガメみたいだなって笑ってから、ボクのあだ名はカメになった。


 それから6年生の今まで、現実時間リアル・タイムは面白くない。ランドセルは我慢して使えって言われるし、永山は相変わらず生意気だし、はっきり言って学校には行きたくない。


 ・・・でも、別にいいんだ。

 ボクには21時からの異世界時間アナザー・タイムがあるから。


【Prologue 2 21時までの憂鬱】


《2》



 妹が昔遊んでいた新体操用のバトンは今、ボクの部屋にある。寝たフリをしている20時58分。もうすぐ、異世界時間になる。


 ボクはバトンを念入りに磨いた。


 そして、時間になる。21時。


 ボクの部屋の景色はぐちゃぐちゃになる。

 ゆがんで、オーロラみたいになっていく。


 異世界時間の始まり。異世界変換が行われる。


 僕のパイプベッドは、木製のカビ臭いベッドになる。白い勉強机も、木目調のボロい机になって、教科書はよく分からない本になる。読んだ事はない。


 馬鹿にされている深緑のランドセルは、竹製で出来た背負えるただの箱になる。


 ぼやけた景色が、鮮明になる時、僕の部屋は異世界のボロい一室になっている。ボクの住む家も、いつの間にか木造のボロ屋になっているのだ。部屋の構成は変わらない。


 そして、目の絵にあるバトンは、ロッドに様変わりしている。ロッドとはヒーラーが使うような杖のようなものだ。


 ボクはそれを持つ。

 片手でそれを持ちながら、部屋の立て付けの悪い窓を開けると、街の景色が見える。

 コンクリートの道路も、信号もない。


 さっきまで暗かった空は昼間になっている。太陽がレンガの敷き詰められた道に反射して、明るい。


 ボクは深く呼吸をする。


 その、ロッドを窓に向けて振る。


 その先端から、小さな火の球が飛んでいく。窓から外に出て、レンガの敷き詰められた道に火の球が着地して、すぐに消えた。


 うん・・・今日も大丈夫だ。


 ボクは魔法が使える。


 この異世界時間において、未成年の身体には魔力が宿る。

 それを上手く扱えれば魔法が使えるのだ。

 もちろんボクの身体には魔力がある。そして、それをちょっとずつ扱えるようになってきた。


 ・・・例えるならば、ピアノ。

 右手と左手を同時に、細かく動かす、そんな繊細な指さばき。


 それが魔法を使う時の感覚に近い。


 さぁ・・・異世界時間。

 ボクは魔法使いだ。

 ボクの時間が始まる。



《3》


 21時45分。ボクの近所の公園。

 現実世界では滑り台とブランコしかない公園だけど、異世界時間ではちょっとした密林の迷宮になっている。


 時計台が変換された、大きな木の下。

 そこにボクらは集まる。


「おはよう、レッド」先に木の下で剣を磨いている、ブルーが挨拶をしてきた。


「おはようブルー。早いね」ボクはレッドの顔を見て微笑む。

 互いの現実での事はあまり干渉しないようにしている。ブルーは中学生だ。


「じゃあ、今日も異世界パトロールしますか」

 ブルーは磨いた剣を鞘に収めて、それを腰につけた。勇者というより、侍の剣の扱い方だ。

「うん」


 僕はレッド、この剣を持った中学生はブルー。お互いにそう、呼び合っている。


 何がきっかけだったのか、忘れたけど、なんとなくボクたちは似たモノ同士で、知らぬ間にこの世界のパトロールをする仲になっていた。


「どうだ、魔法の方は?」ブルーが問いかける。

 今日は河原の方をパトロールしよう、という話になった。


「うん。今日も火の球を飛ばした来たよ」

「流石だレッド。有事の際は頼むぞ。レッドの援護が必要だ」

「うん!」


 有事の際、というのはこれまで一度もない。ただ、もしも、魔物が現れたとして、ボクの魔法やブルーの剣がどれだけ役に立つのかは分からない。


 2人で歩く。

 この異世界時間にあまり外を出歩いてはならない、というルールがある。

 ボクたちはそれを無視して、いつもパトロールをしているのだ。

 自警団が遠くへ見えた時は、逃げる。


 海に繋がる大きな河沿いの景色は、現実世界とあまり変わりがない。ボクとブルーは歩くのに飽きて、草原にポツリと存在する大きな石の上に座った。


「やっぱ、良いよなぁ、この時間」

 ブルーは空を見ながら言う。

「うん」

「もっと、こんな時間が続けばいいのに」

「そうだよね」


 互いに干渉はしない。

 詳しいことも聞いたことは無い。

 でも、ボクはこの前・・・制服を着たブルーがつまらない奴らに馬鹿にされているところを目撃していた。


 きっとブルーも学校がつまらないんだ。

 だから、この世界、この時間が好きなんだと思う。ボクもそうだ。この世界が続けばいいって思う。


「レッドはいいよなぁ、魔法が使えて」ブルーはボクの持つロッドをまじまじと見ている。

「ブルーだって、魔力はあるんだし、魔法使えるようになれば・・・魔法剣士になれるんじゃん!」

 ボクは言う。

 でも、どうやらブルーには魔力があっても、それを使いこなして魔法にする才能はないみたいだった。


「なれたらいいけど、無理だよ」

「練習したらいけるかもよ」

「いいよなぁ、レッドはさぁ・・・」

「別に、ボクの魔法だったチッポケだし」


 そんな会話をしている時だった。


「え?あれあれあれあれー???」


 ブルーよりもちょっと背丈の高い男・・・勇者みたいな大袈裟なマントを見に纏った剣士がボクとブルーを見ている。


 雰囲気で分かる。嫌なやつ。


「ブルーの知り合い?」ボクは尋ねた。

「あ、ああ!俺の学校のね」ブルーのその言葉に、剣士の男が笑いながら口を開いた。


「いやぁ!中嶋クン!彼は?弟?」

 ここで初めて、ボクはブルーの名前を知った。中嶋っていうんだ。

「違う。パーティメンバーだ」


 近くにいるから分かる。

 ブルーの声は震えている。


「ふははははっ!こりゃ傑作!同い年で友達作れないから、年下小学生と遊んでるわけ?やっぱおもれーなおまえな!アハハ」

 高笑いする度に揺れるマント。


・・・馬鹿にするな。


 目の前の男のマントを燃やそうかな。

 ちっぽけな魔法でも、それぐらいはできる。


 ボクは手に持ったロッドに意識を集中させた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ