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さんぽ

作者: もう中学生

初めて

夜の冷たい風が頬を掠めて流れていく。どうやら少し湿っているようだ。家に居て気づかなかったが雨が降っていたのだろう。地面に街灯の光が映し出されている。なんとも言えない不気味な雰囲気だ。だか、不思議と悪い気はしない。心が軽くなっていく。私は小さな時、ピアノを少し習っていた。2ヶ月程でやめてしまったけどね。親が少し厳しくて、嫌になってしまった。だけれどこの情景に音色をつけて奏でてみたい気持ちがした。ピアノなんか嫌いだったはずなのに。もっと歩いてこんな事忘れてしまおうか。湿り気のある空気を肌に感じながら歩いた。人通りの少ない、11時ちょっと前の道。街路樹の葉が揺れて、辺り一帯が、自然と人工物のハーモニーでピリついた空気で包まれた。

ちょっと先に歩道橋が見える。懐かしさを感じて歩道橋の階段を踏みしめながら昇った。真上から見える街を見下ろしてみた。都会なんかじゃない、それから少し離れた郊外の街。

人の影はなく、大型トラックや、軽自動車などが7台ぐらい私の真下を通っただけ。電気がついている家もあるが、3分の2以上は暗黙で包まれている。2年前にこの歩道橋に来たことがある。その時は恋人とだった。日が落ちるギリギリの、赤でもオレンジでもない、曖昧な色に空が染まる時間だったっけ。

あまりに綺麗で、2人の目を奪った。2人で写真を撮って、加工などをしたりして、幸せだった。だけれど、その41日後、交通事故で亡くなってしまった。ドライバー側の過失だった。ガードレールと車に挟まれて腰から下はぺちゃんこだったらしい。その時は生きていたらしいが、結局容態が急変して私が病院に着く間もなくぽっくり。...やっぱり来るべきじゃなかった。早く歩いて別の事をかんがえよう。歩道橋を降りると雨がパラパラ降ってきた。傘は持っていない。どうしようかとも悩んだが、もうそんな長くは歩かないのでそのまま浴びることにした。鼻のなかに雨の匂いが広がる。風も当たって寒くなってきた。さんぽの終点まで走って行くことにした。足は速くないけど、速く感じた。雨がゆっくりに感じた。時計を見るとあまり時間が無いことがわかってしまった。時間厳守。昨日辞めたばかりの会社ではそれがルールだった。早起きが苦手で嫌だった。何よりも嫌だったのはパワハラだった。課長が横暴で、少しミスがあると罵詈雑言はもちろん、平手打ちは当たり前に飛んでくる。一昨日私は重大な会議に4分ぐらい遅刻してしまった。課長以外は君の頑張りは知っているから大丈夫と許してくれたが、課長のみ、俺の名に泥を塗るなだの社会的地位がどうのだと言いながら痛めつけてきた。やり方も陰湿で、誰も使わないような角の部屋に呼ばれて、蹴られたり踏んずけられたり。耐えられなくてとうとう昨日やめた。だけどこのさんぽで気が楽になるのだ。これが今日のさんぽの目的地。赤いランプが音を立てながら交互に光る。奥からすごいスピードで電車がやってくる。タイミングを見計らう。早すぎると止まってしまうからだ。ギリギリまで我慢する。.....ここだ!

思い切って踏切のバーを少し持ち上げて下をくぐる。1歩歩き出す。電車の警笛が鳴った。恐らくこの電車も終電で次の駅が終点だったはず。私と一緒。2歩目をだす。線路に足を掛ける。世界がスローに感じられた。走馬灯のようなものが脳に浮かんできた。嫌気が刺していたはずの親の顔が浮かんでくる。

別れの挨拶ぐらい言うべきであっただろうか。感謝しとけば良かったかもしれない。恋人にも毎日気持ちを伝えておけばよかった。3歩目を出す。完全に線路の中心だ。目の前には既に光がやってきていた。悪い気はしない。これで今日のさんぽは終わりなのだから。

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