第六話 迷いの森とキノコ鍋
ツヨスギール王国から出た俺達は、迷いの森と呼ばれるマドワシマッセ森林へと脚を運び必要最低限の物資を確保する事にした。
「ネダヤス様、何故この森林に来られたのですか?」
「ん、必要な物を取りにな。」
「必要な物ですか。」
「ねえ、それにしても普通は街の外に魔物一匹見当たらないのはおかしくないですか御主人様。」
「それについては私達が狩り尽くしたからだろうな。」
「そうそう、敵わないと知ってからツヨスギール王国近隣には魔物は出て来なくなってる訳だ。」
街の外に魔物の姿を確認出来ない事を不思議に思うエイルにセンシーとスペールが得意気に話す。
「ネダヤス様、宜しいでしょうか?」
「何だ?」
セワスルは二人に聴こえない様に俺に近付き小声で話しかける。
「あのセンシー様とスペール様は危険な思考を持たれている可能性があります、危険かと。」
「報告有難うな、けど俺もその事には既に気付いてる。」
「やはり気付いておられたのですね、流石ネダヤス様です。 ワタシの様な者がネダヤス様の安否を思い先走る様な事を言い申し訳ありません。」
「気にするな、あの二人の危険性は重々承知している。」
「んあ? こそこそ何話してんだ??」
「こっちの話しだ何でもない。」
「なら良いのだが。」
セワスルとこそこそと話している事を怪しまれ、センシーとスペールに話しかけられるが誤魔化して森を進んで行くと蜘蛛の巣だらけで人の暮らしている形跡の無い小屋を発見し中へと入る。
「御主人様、街を出る時に言ってた必要な物が有る小屋って此処の事ですか?」
「ああそうだ、それにそろそろ霧が発生する時間帯になるから一旦小屋で休息を摂るぞ。」
「えー、こんな蜘蛛の巣やら黴臭い小屋で休息かよ!」
「確かにこんな場所では休息は出来そうに無いな、セワスルと言ったか? 掃除を頼みたい。」
「拒否します。」
「はあ!? 使用人の癖に掃除を拒否とか頭湧いてんのか!」
「ワタシはネダヤス様のメイドなので貴方達の命令は受け付けません。 ネダヤス様の命とあれば話しは別ですが♡」
セワスルはセンシーの提案を拒否し俺に熱烈な視線を送り、頬を染めながら命令を待っている。
その態度が気に入らないのかスペールはセワスルを睨み付け今にも魔法をぶっ放しそうなくらいワナワナしていたが、暫くすると深呼吸をして落ち着く。
「はあ、分かったよ! 誰が頼むか、この程度の蜘蛛の巣や黴くらいなんだ! このアタシに掛かれば一瞬で掃除出来るんだからな!! バキューム!!」
スペールは小屋に有った袋を手にすると吸引魔法バキュームで蜘蛛の巣と黴を袋の中に吸い込んだ。
「流石天才魔法使いね、今ので蜘蛛の巣も黴も小屋から綺麗サッパリ無くなったわ!」
「どうよ、これでアタシの凄さが分かっただろ? そこの掃除すら出来ないメイドより使えるだろ?」
魔法で掃除を終わらせたスペールをセンシーが褒め称えると気分を良くし嫌味たらしくセワスルの方を見て煽る。
「いいや、スペールよりセワスルの方が凄いぞ。」
(付与発動、消滅!)
「ネダヤス様?」
「安心しろ、セワスルは袋の中に向かってクリアと言うだけで良い。」
「了解しました。 これがワタシの力ですクリア!!」
俺はこっそりとセワスルにスキルを付与し小声で耳打ちをすると、セワスルは俺の考えている事を察知したのか袋に手を翳しクリアと発言する。
「はあ!? アタシが魔力を消費してまで吸い込んだ蜘蛛の巣と黴が一瞬にして消えた!!」
「どうです、貴方よりワタシの方が優れている証拠です。」
「くうっ! この……。」
(有難う御座いますネダヤス様♡)
「スペール、悔しいのは分かるがその辺にしておけ私達の国では実力が絶対なんだ負けを認めろ。」
「チッ、しゃーねえ今回だけは負けを認めてやるよ!」
不服そうな表情で不貞腐れるスペールを見て俺は少しばかり、してやったと心が晴れるのを感じた。
「むっ、霧が濃くなって来たな これでは散策は危険か。」
「だからさっき言っただろ、霧が出るって話し聴いて無かったのか?」
「御主人様、寒くなって来ましたし小屋に入りましょう。」
エイルは身体をブルッと震わせ俺の袖口を軽く引っ張り小屋へと入りたがる。
「そうだな、風邪でも引いたら大変だ。」
俺達は小屋へと入り、埃の被ったランプを見つけると汚れを払い除け火を灯し光源を取得する。
「何か腹減ってきたな、この小屋飯の一つもねーのかよ。」
「それは現状を見れば分かっていた事だろう。」
「そりゃそうだけどよ、お前ら何か食いもん持ってないのか?」
「さっき拾ったキノコなら有るぞ?」
「それ食えるのか? 何か色合いが朗らかに毒キノコなんだが……。」
「さあ知らんが物理的には食える筈だ。」
「巫山戯んな! あーもう良い、アタシは寝る!!」
スペールは腹を空かしながら小屋に有ったシーツを被り眠りにつく。
「私も寝るとしよう、明日になれば霧も晴れ次の街に付けるだろうからな。」
センシーもキノコに興味は無いらしくシーツを被り眠りに入る。
「好き嫌いしてたら、この先やってけねーぞ。 こんなキノコでも俺の力で食べられる様になるのにな。 エイルとセワスルは食うだろ、俺のキノコ。」
「はい、御主人様のキノコ食べたいです♡」
「ワタシもネダヤス様のキノコでお腹いっぱいになりたいです♡」
「はは、そうか丁度鍋も有るし三人で食おうか。」
「「はい♡」」
鍋にキノコを沢山投入しグツグツと煮込むと暫くしてから部屋中に良い匂いが充満する。 その匂いに反応したセンシーとスペールが目を覚まし鍋の方を見ると中に入っていた大量のキノコを目にするとドン引きした表情になり再び眠りにつく。
(まじかよ、あいつらあんな毒キノコみたいなの食う気か?)
(あんな物食ったら絶対腹を壊すだろ。)
「御主人様、はいあーん♡」
「あーん、モグモグ。」
「美味しいですか?」
「ああ、美味しいよエイル。」
「ネダヤス様、こちらのキノコも美味しいですよ。 あーん♡」
「どれどれ、あーん、うん美味い! 二人が食べさせてくれるから、より一層美味しく感じるよ。」
((う、うぜえ……。))
俺達三人はキノコ耐性のスキルを付与していた為、毒や幻覚等の症状を発症する事無く存分にキノコ鍋を堪能した後、小屋のシーツがあと一人分しか無く仕方なく三人抱き合う形でシーツを被り睡眠を摂る事にした。




