第十八話 食人鬼マッスル
キカーヌの遠征先に行く為、エルフの縄張りとする森へと足を踏み入れたのだが周囲を囲まれ矢を向けられる。
「ねえ寧田君、どうするの? 引き返した方が良くない?」
「同感ですよ御主人様、エルフさん達ピリピリしてますし。」
「いや、俺は進ませてもらうぞ。」
俺が一歩進むと正面に居る長く尖った耳で金髪に翠色をした瞳のヘソ出しルックで緑色のスカートのエルフが矢を放つ、だが俺はものともせず歯で受け止める。
「何!?」
「バカな!? アーチの弾丸より速い矢を歯で受け止めただと!?」
「ぷっ、さっきから言ってるだろ危害を加える気も森を荒らす気も無いって。」
(それに、この先からマッスルの気配もするしついでに始末しないとな。)
「…………まあ良いだろう、ただし条件がある。」
「アーチ?」
「この先に食に飢えた化け物が居る、そいつの息の根を止めるのが条件だ。」
「おい、良いのか? 人間なぞに任せて。」
「どの道、無理に通ると言うなら頭撃ち抜いて殺すだけだ。 化け物に殺られるのも我らに殺られるのも変わらんだろ。」
「た、確かに。」
「その化け物を殺れば良いんだな?」
「殺れるものならな、付いて来い。」
アーチと呼ばれたエルフの女性は踵を返し俺達を化け物の居る場所まで案内する、だが森を歩いている途中で後方からマッスルの気配がした瞬間、俺は物凄い勢いで何者かに左腕を失わされる。
「「「「「きゃあああああああああ!!」」」」」
「ネダヤス! 腕が!!」
「この感じ、やはりマッスルか……いやきっとまた偽物に違いない!!」
「フン、グミみたいな弾力だな……ゴクン。」
「マッスルか。」
左腕を失いそれを見たエイル、セワスル、ヒメル、バブル、ノコは悲鳴を上げセンシーとスペールは臨戦態勢になる。
「フン、久しいな次は完食してやろう。」
「知り合いだったか。」
「因縁てやつさ。」
「さあ、何処からでもかかって来るが良い隻腕では何も出来んだろうがな。」
「残念ながら再生出来るからノーダメージだ、それにお前はもう死んでいる。 ズアッ!!」
「ヌッ!?」
俺は喰われた箇所から腕を再生するとマッスルは驚愕し、俺は予め左腕に胃酸強化のスキルを付与しており数分が経つとマッスルの腹部から蒸気が漏れ出し上半身と下半身が別れる。
「そんなに腹減ってんなら自分でも喰ってな。」
「倒した!? こんなあっさり!?」
(人間にこんな芸当出来る筈がない……まさか我らを救う為に人間の姿を借りた神様か!?)
「ねえ寧田君、腕大丈夫なの?」
「問題ない、俺は天才だからな直ぐに生えるからな。」
「そうなんだ。」
「そんな事よりも、倒した後ですし通ってよろしいのですわよね?」
「む、無論だ……だが暫し待て報告義務があるのでな。 着いて来い、それなりに恩義は感じてはいる。」
「やはりマッスルも消えたか。」
「ほんと、どうなってんだか。」
俺はマッスルの行動に対して先読み付与をしていた為、難無く勝利しアーチに連れてられエルフの里にて大々的に崇められ神様として奉りあげられた。
「この度は我らの無礼、お許しくださいませ。」
「気にしなくて良いぞ、エルフが人間嫌いなのは知ってるし当然の反応だったし。」
「いえいえ、知らなかったとはいえあの様な態度を取ってしまったのは事実。 その詫びとしてこのアーチ、供物となりて助力しましょう!」
エルフは俺を神様と勘違いしており、皆土下座で謝罪しアーチは供物として忠誠を誓って来た。
「誰もそこまでしろとは言ってないだろ。」
「寧ろ、このアーチ目に狂いがあったのも事実! ならば神様の元にて修行するのも一興、もし望むならこの身体何時でも捧げましょう。」
「ま、狙撃手が一人くらい居ても良いか。」
「おお神よ、なんと慈悲深い!」
エルフ達から謝罪を受け何時でも森への入る事を許してもらい、先へと進み暫く経つと岩山が見え、その麓には補機物資やテントが張られており怪我をした兵士が何人か手当をしてもらっていた。
「随分と怪我人が多いな。」
「人間はヤワだからな、こんなものだろう。」
「ひ、姫様ではありませんか!? 何故ここに、いえ早急にお帰りください! ここは危険ですので!!」
「大丈夫ですわネダヤスさんが付いていますもの。 ところでキカーヌさんの姿が見当たりませんがどうなされたのですか?」
「キカーヌ様でしたら今は先陣を切り戦闘中です。」
「一つ聴きたい、キカーヌの様子におかしなところは無かったか?」
「センシー様ではありませんか、いえ特には……そう言えばこの戦いが終えれば付き合っている幼馴染みに告白すると意気込んでいましたよ? 変わったところはそれくらいでしょうか。」
「そうか、報告感謝する。」
「変わったところはないみたいだな。」
「だな、前に街を襲っていたキカーヌは偽物……つまり本物に何かしら恨みを持った何者かの悪意と見た方が打倒だろうな。」
「それよりも現状は何に苦戦されているのですか?」
「実は、恥ずかしい話しコボルドの群れに圧されています。」
「コボルドだって!? 一般の兵士でも負ける事の無い魔物に何で圧されてんだよ!?」
「それが、倒しても倒しても復活するんですよ! まるでゾンビみたいに次から次へと!!」
「なんだって!?」
コボルドとは犬の様な容姿をした二本足で立ち、剣と盾を持ち戦う魔物だが復活して襲いかかる話しは耳にした事が
ない。
「いくらなんでも実例が無い事態に遭遇してる訳か、どうりで遠征に3ヶ月もかかるわけだ。」
「御主人様どうします? 私達も力を貸して戦う方が良いのでしょうか?」
「いや、ヒメル皆をここに残してくれ。 この先は俺とアーチで行く。」
「「「「ええええ!!」」」」
「仕方ありませんわね、得体の知れない魔物はネダヤスさんの様に柔軟な行動の出来る方のみで行かれた方が安全ですわね。」
「アーチ行くぞ、君は高い所から魔物を狙い撃ちしてくれ。」
「了解だ、神様に仕えるなら何も怖いものなど存在しない!」
俺はアーチを連れて山の方へと向かうと前方に鎧を着たキカーヌが肉片の飛び散ったコボルドを大剣を振り回し捌いていた。
「何だ貴様ら! 邪魔をしに来たのか!?」
「いや加勢しに来た。」
「うらっ! 加勢だと、先に言っておくこのコボルドは倒してもゾンビ化し再び襲って来るぞ! 勝てないと判断したなら邪魔にならん様引く事だな!」
「俺がコボルド程度に殺られる訳無いだろ。 アーチ、作戦通りに頼む!」
「了解だ!!」
アーチはエルフとしての身体能力で高い岩山へと脚力だけで登りきり弓矢を魔物に向かい引く。




