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X.あなた
……
…………
これは、現実?
それとも、空想の果て?
誰もいなくなって。
すべてが燃え落ちていく野の中を、誰かが歩いてくる。
その手には、闇を切り裂く白銀の光をまとう、輝きの剣があり。
──だれ?
わからない。
憎しみの炎に丸ごと呑み尽くされたわたしには、区別がつかない。
精悍な顔つきの、黒髪の、屈強とはとても言えなさそうな、誰か。
勇者さま?
けど勇者など、どこにもいはしなかった。
「なら」
あなたは、剣を構える。
わたしと戦おうというの?
この、魔王と。
ちっぽけで、殺してきた人間たちの誰より弱そうなのに。
「あたしが剣を取って、勇者を名乗ってみせるよ」
すべての音が、消えていく。
せせら笑う。ずっと皮肉な気持ちになってる。
「……泣かないでよ。勇者なら」
勇者っていうのはどうしてみんな無様で、遅刻癖があるのか。
ま、無様っていうなら、わたしもそうなのかもね。
「泣いてない」
「うそつき。泣いてるじゃん」
あなたのことを、思い出せそうな気がした。
わたしよりもほんの少しだけ、こどもで、
──勇気あるあなたを。
(おわり)