表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/60

 第一章  ~  私の仕事?  ~  (6)

 何を言うのですか、少年っ。

      それは間違っていますぞっ。

            6



「ーーはいっ?」

 静まった部屋に戸惑った声が響く。恐らく表情を読めるのならば、キョトンとしているのが適切だろう。

「いいから出て行けっ。お前みたいな奴に付き合ってられるかっ」

 部屋の奥の窓を指差して怒鳴った。ウサギを睨みつけて。

「いや、いや、いや。ちょっと待ちたまえ、少年。それはダメでしょう」

 手にしていたモップを放り投げ、慌てふためると、その場にクルクルと走り回っていた。

 慌て騒ぐ姿が滑稽に見えてしまう。両手で耳を押さえたり、バタバタと上下に振り続けるのは、よほどウサギとしては堪えているようだ。

 うろたえる姿に、強まっていた怒りがなぜか静まっていた。

「少年よ、それだけは止めておこう。もう私との間柄ではないか」

「何が間柄だ。お前が勝手に入り込んできただけだろっ」

「何を言うのかね。少年が選んだ者を、私が消す。これはもう素晴らしいコンビネーションではないか」

 必死に訴えてくるウサギを、蔑んだ眼差しで迎え撃つと、またしても硬直してしまった。

 ようやく、普通のぬいぐるみになったのか、と安堵して、強張っていた肩から力を抜いてうなだれた。

「何を言う。いいかね、よく聞くといい。少年が選んだ時点で、我々は一蓮托生であることを、忘れてはくれるなよぉ、おぉっ」

 それまで固まっていたのに、急に顎を上げると、息を吹き返して短い腕を突く出して叫喚するウサギ。

 悠然として腰に手を当てるウサギ。確実にこちらを蔑んで睨んでいる。

 じっと目を合わすウサギ。こちらも負けじと目を逸らさないでいた。

 一向に揺るがないウサギに根負けし、頬を緩めた。こちらの負けである。

 安堵した様子で両手を広げるウサギ。表情が晴れ晴れとしていくのはわかってしまう。

「わかってくれたかね、少年」

 嬉しさで飛びついてきそうな瞬間、ウサギの両耳を掴み、引き上げる。

「お? お? お? 少年、早まるな。私を始末しても意味はないぞ」

「うるさいっ。お前と一緒にするなっ」

 大声を上げるウサギを一蹴し、左右に大きく揺らしてやった。ウサギは「ぬわっ」と悲鳴を上げながら、手足をバタバタとさせる。

 必死になってわめくウサギに、多少は心が和んでくれ、ちょっと頬が緩んでしまう。

「わかった、わかった。では、これでどうだ? 新たな標的がいる。そいつを一緒に選ぼう。それで手を打とうじゃないか、少年」

「何がわかっただ。僕はそれが嫌だって言ってるんだ」

 話を無視して進めようとするウサギを睨むと、ムカつく笑顔を浮かべる。

 そして、また手をパンパンと叩いた。

「とはいえ、今回の標的はすでに決まっているのです。ずばり、こいつですっ」

 またマジックをしたみたいに、ウサギの右手に一枚の写真が現れた。

 まるで、隠し撮りをしたみたいな構図の、一人の男が写っている。

「……お前、これ?」

 写真に写る人物を目の当たりにして、面喰らってしまう。

 驚きで力が抜けると、すかさずウサギが手を押し退けて逃れ、床に体操選手みたく着地する。

 不敵な笑みを浮かべながら、テーブルの上にすかさず上ると、手にしていた写真を掲げた。

「そう。何を隠そう、今度の標的は、少年が通う高校に勤める数学教師、三上修吾 であるっ」

 騒ぐウサギを、怒鳴る気力すら奪われてしまった。

「これはなんという偶然。まさか二回も少年が通う高校に標的が現れるとは。これは学校が呪われているのか? いや、それとも少年の引きが強いのかぁ」

 と、僕が黙っているのをいいことに、ウサギは調子に乗って大声を上げた。今度は黄色のメガホンを右手に持って。

 三上 修吾。

 印象としては、清廉潔白。人当たりがよく、大して悪い印象を抱くことはなかった。細身で背が高く、メガネをかけているからか、勉強はできても運動はできなさそうな印象で、それを男子生徒に茶化されても笑って受け止める人物で、女子からの人気も悪くなかった。

 だからウサギの狙いがまったく掴めず、信じられずに無様に口を半開きにしていると、ウサギはお手上げ、と言いたげに溜め息をこぼして嘆き、肩を大きく揺らした。

「少年、青いですぞ。人を見た目だけで判断してはいけないぞ」

 どうもバカにされているみたいだけど、心を読まれてしまい、唇を噛んでウサギを睨んだ。

「それじぁ……」

「三上修吾は罪多き人物ですぞ」

 さぁ、お仕事の時間ですぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ