第四章 ~ はぁ? 主? ~ (8)
“影”のことを、やっぱり考えてしまいますね。
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杏奈の忠告から、ずっと“影”について考えていた。あの闇が薄れたときに見えた、手にある“痣”らしきもの。それもどこかで見たことがある気がして、ずっと頭を悩ませていた。
「大志、お前は何も買わないのか?」
「うん。まぁな。今は別に欲しい漫画はないし」
ウサギが襲われた次の日の放課後、学校の帰りに近くにある書店に寄っていた。
ちょうどこの日、明が欲しがっていたマンガのコミックの発売日だったので、優太と三人で寄っていた。
コミックならば、コンビニで買えるだろうと提案すると、優太がコンビニでは別の雑誌が読めないと駄々をこね、書店にまで来ていた。
明がコミックを探しに行っている間、優太と二人で週刊誌売り場に行き、雑誌を手にしていた。
人気のアイドルによる、グラビアが巻頭特集になっており、どこかの制服姿で、恋人のシチュエーションで載っていたり、赤い水着姿で浜辺で撮られたページもあった。
僕としては、次のページから始まるマンガが好きだったので、ページをめくろうとしていたのだけど、手が止まってしまう。
「あれ? お前って、この子好きだったっけ?」
それを見ていた優太が覗き込み、茶化すように笑う。
そんなんじゃないよ、と否定するのだけど、優太は退こうとしない。
「まぁ、意外とこの子、胸あるんだよな。背が低いのに。いいよな、この子」
辺りには人もいるのに、大声で騒ぎ出す優太。恥ずかしくなって、助けを求めて見渡すと、レジに向かっていた明の姿を見つけた。
「ほら、行くぞ。明の奴、もう買ったみたいだぞ」
と、写真を指差してわめく優太を促し、雑誌を閉じて無理矢理話題を逸らした。
優太は納得いかずに、唇を尖らせていると、
「何を騒いでんだよ、恥ずかしい」
と、支払いを終えた、明が満足げに話しかけてきた。カバンを肩にかけ直しながら。
「買えたのか?」
「あぁ。おかげで限定版を買えたよ。で、何騒いでんの?」
「いや、この子、胸でかいよなって、話してたんだよ。こいつ、むっちゃ真剣に見てたからさ」
「だから、違うって言ってるだろ」
相変わらず茶化してくる優太に呆れ、うなだれてしまう。
まったく興味がない、と言えば嘘だけど、水着のグラビアが気になっていたのではない。
そのページには、読者プレゼントとして、このアイドルの写真にサインを書いたものをプレゼントと、記載されていたのである。
この“サイン”という言葉が頭に強く引っかかっていた。
もっと考えれば、深い奥底から引き上げられそうな気持ち悪さに。
「なんか、腹減ってきたな。どっか、ファミレスでも行くか? それともコンビニでも行くか?」
書店を出て、何気に明が提案したときである。全身に落雷を受けたみたいな衝撃が走る。
「悪い。僕ちょっと用事思い出した。ちょ、帰るわ」
歩道の少し前を歩いていた二人に、唐突に話しかけると、返事も待たずに踵を返し、地面を蹴った。
「おいっ、大志、どこ行くんだよっ」
「はぁ? 何、言ってんだよ」
戸惑いながら制する、二人の声が背中に勢いよくぶつかってくる。
「ーーほんと、ごめん」
二人の制止をかわしながら、一目散に走った。
「……消えてる」
声が小さく洩れてしまう。
ずっと頭の淵についていた疑問が一つ晴れてくれた。
それは、“影”の手に見えていた小さな“痣”の形。それがなんだったのか、ということ。
思い出したのがあの“絵”のあった、コンビニや駅の階段。そしてトイレの壁に描かれていた絵であり。その脇にあった“サイン”らしき形であった。
雑誌で見た“サイン”という言葉が一筋の光となり、沈んでいた記憶を引き上げた。
明と優太を振り切り向かったのは、高梨が働いていたコンビニの前。
そこでもう一度確かめようとしていたのだけど、壁を前にして愕然としてしまう。
そこのサインは消えていた。以前に絵は消されていても、サインは残っていたのに、消えていたのである。
店の店員が気づいて消したのか……。
「なんなんだよ、あれ……」
ぶつけようのない苛立ちがこぼれてしまい、悔しさにかぶりを振ってしまう。
「……そういえば……」
ここに来て、連なるように記憶が引き出されていく。
「……そういえば、ウサギの奴も言っていたな。三上の腕にも何か、“尻尾”があったって」
闇に埋もれていた光が次第に繋がっていく。
胸に竦んでいたしこりを吐き出すように、息を吐いて顔を上げ、コンビニの店内を眺めた。
サイン、ですか。




