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 第一章  ~  私の仕事?  ~  (3)

 目は覚めましたかな?

   待っていましたぞ。さぁ、さぁ。

            3



 しつこくて申し訳ないけれど、やはり夢なんだと願いたい。

 だからこそ、一晩眠って朝になれば、幻は消えてくれ、清々しい朝を迎えられるんだと信じていた。

 しかし……。

 儚い願いは次の日の朝に無情にも砕けてしまったのである。

 ピンクウサギの姿がしっかりと部屋にいやがった。

 いつもならば、明かりの消えた蛍光灯を捉える。

 そこで寝返りを打ち、散らかっていても落ち着く部屋を眺め、渋々スマホのアラームを切っていたのだけれど、今日は違った。

 寝返りを打ち、スマホに手を伸ばそうとしたとき、視界の隅に、ウサギの姿を見つけたのである。

「……お前、なんで?」

 スマホのアラームが騒がしく鳴り響くなか、無様な声がこぼれてしまった。

 鼓膜に響くアラームに我に返り、ひとまず止めると、テーブルのそばを見下ろした。

「おはようございます」

 抑揚のないウサギの落ち着いたあいさつが耳に届く。

 昨日のふざけた態度はどこに行ったのか、ウサギは礼儀正しく正座して頭を下げていた。

 ふざけているのか。

 もう、これは完全に夢ではない。ならば、悪霊にでも取り憑かれてしまったのか……。

「なんなんだ? これは?」

「さて、一晩眠って、私のことを受け入れてくれた少年にーー」

「受け入れてないっ」

 思わず突っ込んでしまうと、ウサギは顔を上げて首を傾げて手を上げ、「まぁ、まぁ」と諭してくる。

 驚きで体を起こしていると、ウサギもテーブルの上に乗り、大きく息を吸った。

「では落ち着いたところで、本題に入ろう。まず、少年は私のことが気になっているだろう。そうっ、私は特別な“力”を持った狩人なのであります」

「ーーはぁ? 狩人?」

 素直に頷こうとしていたとき、硬直して問い返してしまった。

「さて少年。人間とは実に罪深い生き物とは思わないかね」

 ウサギはこちらの話を傾けようとはせず、またお尻を振ってふざけたダンスを始めてしまう。

「そこで質問だ。“罪”とは何がある?」

 そこで急にどこかからか指し棒を出し、それをこちらに向けてくる。

「ーー罪って、そんなの知るかよ」

「う~ん。無知とはそれも罪だねぇ」

 思わず口ごもってしまうと、ウサギは残念そうにかぶりを振り、

「罪とはなんだ、そう、いろいろとある。殺人? 怖っ。詐欺? ムカつくっ。放火? 熱いわっ。と、嘘も罪だねぇと、世間には様々な罪が蔓延っている。それは実に嘆かわしいことだ」

 指し棒を振り回し、あたかも学校の教師みたいな仕草をして動き回るウサギ。

 しばらく動き回ったあと、不意にウサギは指し棒を天に突き上げた。

「そこで、私の出番なのです。そうした罪深い人間を消去していこうではないか、うん、なんて素晴らしい。そうっ、それが私の仕事なのです。う~ん、腕が鳴りますよ」

 呆然としていると、聞き捨てならないことが耳に届く。

「ちょっ、ちょっと待て、今、なんて言った?」

「そう、そう。今回は少年にとって、初回なので大サービスといこうではないですか。本来ならば、標的は一人でありますが、三人の人物から標的を選ばせてあげましょう。う~ん、太っ腹っ」

 完全に流されている。話に割り込む隙もなく、ウサギは騒ぎ、急に止まるとパンッと手を叩いた。

 ぬいぐるみにしては、やけに響く破裂音に目を瞑ってしまう。

 静まる部屋にゆっくり目蓋を開くと、ウサギはテーブルの上でまた正座をしていた。

 そして、ウサギの前には三枚の写真が並べられている。人の顔が写っている。

「さぁ、どうする? 誰を処分いたします?」

「ふざけるな。何、遊んでいるんだ。そんな人を消去なんて」

「まぁ、まぁ、そう躊躇することなんてありませんよ。みんな、それ相応の罪を犯してるんですから、迷うことなんてないんです。さぁさぁ」

 どこかの押し売りみたく、「これ? これ? これ?」と薦めてくる。

 もちろん、信じてなんていない。そもそも、ウサギが喋るなんて、朝から嫌になりそうである。

 朝から激しい頭痛が起きそうで、頭を抱えてしまう。

「……なんなんだよ、朝から。こんなんじゃ、もう少し寝ていた……」

 そこで急に我に返り、スマホを探した。慌てて時間を確認する。

「やべっ。もうこんな時間っ」

 寝ぼけていたのか、まだ夢のなかに留まっていたのか、気づけばアラームが鳴って十分は経っていた。

 ゆっくりとはしていられない。

 もぉっ、と唸りながらベッドから飛び降りたときである。ウサギが差し出した写真と一瞬、目が合ってしまったのである。

 急いでいるはずなのに、体が硬直してしまう。

 そこで、ウサギが手をバンッと叩くと、体の自由が戻る。

「おぉ、お目が高い。こいつはまさにクズ中のクズ。まるで自分が神様になった気分でいる楽天家。ふむ、まさに裸の王様。なのに、こいつに被害を被ったのはーー」

「あぁっ、もういいっ。黙ってろっ。もう時間がないんだ」

 急に饒舌になって騒ぐウサギを制し、準備を進める。

 狩人? 

 消去?

 そんなこと関係ない。それよりも、遅刻の方が重大な問題である。

 私の仕事。

  これは大事な話なのですぞ。

 逃げてほしくないものです。まったく……

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