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 第一章  ~  私の仕事?  ~  (2)

 私は消えてなんていませんぞ。

     うん。心配ございません。

            2



 先に言っておきたいことがある。

 それは偉そうなことではけれど、趣味が大してない、ということである。コレクションしている物もなく、部屋はシンプルになっている。

 だからこそ、キャラクターグッズや、漫画といった商品はない。それなのに、“あいつ”の周りには変なグッズが集まっていた。

 テーブルの上に、あのウサギはおり、くつろいでいる。

 しかも、ウサギは体に合ったローチェアに座っており、そばには小さなテーブルがある。

 腹立たしいことに、ウサギはワイングラスを手にしている。

 セレブ気分とでも言うのか。まったく。

 グラスに入っているのは人参ジュースなのか?

「やぁ、やぁ、やぁ、少年。もういいのかね。待ちくたびれたではないか」

 瞬間である。ウサギは立ち上がると、両手をバンバンと叩いた。

 まるで、レストランなどでウェイターを呼ぶような仕草をした途端、周りにあったグッズが消え、普段のテーブルの上になった。

 もちろん、ウサギは消えてくれていないのだけど。

 もう夢だとか、幻覚だとか、関係なかった。

「はぁ。なんなんだよ、これは。ってか、お前はなんなんだよっ」

 冷静さは微塵もなかった。大声で叫んでしまうと、その姿に満足したのか、ウサギは腕を組み、頷いている。×マークみたいな口にすぼめて憎らしい。

「お前、朝にゴミ捨て場にいた奴だろ」

 あのときのホコリにまみれていたのはなんだったのか、混乱が再び襲い、頭を抱えずにはいられない。

 風呂に入ったのが無意味なほど、爽快感が去ってしまった。

「ふむ、ふむ。驚くのも仕方がないだろう。そうだな。私の紹介から始めよう。ずばり、私は最高のウサギなのである」

 自信ありげに高々と声を荒げ、両手を大きく左右に広げた。不思議なことに、急にどこかからかスポットライトが照らされ、煌々とした光を全身に浴びている。

 もちろん、そんな機材なんてない。勝手に現れたのだ。

「私には重大な使命がありますが、まぁそれはおいおい説明させていただくとして、今後ともよろしくお願いします」

 またしてもライトの灯りが消えると、急にウサギは礼儀正しく背筋を正し、頭を下げた。

 咄嗟に激しくかぶりを振った。そんなものは受け入れるわけないではないか。

「そんな、はぁっ? ふざせんなって。そんな……」

 ダメだ、耐えろ。もう全身から力が抜けていきそうである。いろんなことに頭が真っ白になってしまい。

「いやぁ、本当によかった、よかった。今朝からずっと少年のことを見ていたのだけれど、やはり私の目に狂いはなかったようだ。少年なら、私に気づいてくれるだろうと思っていたけど、この先が楽しみである。うん、うん」

「ーー今朝…… やっぱりあれは……」

「そうだとも。私はずっと少年を見ていたのさ」

 あの背中に感じていた視線の正体はこいつなのか。

 ウサギは喜びを表すように、また踊り出していた。ふざけた鼻唄を混じらせながら。

 声が次第に大きくなっていく。もう鼻唄ではなく、大熱唱になっている。

「ちょっと待てっ、黙れっ」

 興奮して声が大きくなってしまい、両手で制してしまう。

 もうこれが夢かどうかなんてどちらでもいい。ウサギとのやり取りが外に洩れていきそうで怖くなった。 ウサギが動いているのは別として、ぬいぐるみと喋っているのを親にでも見られてしまえば、どれだけ白い目で見られてしまうのか、恐怖である。

「もういい。わかったから黙れ。こんなところ母さんに見られたら……」

 声を潜ませ、後ろの扉をチラチラと伺いながら制する。すると、事情を察してくれたのか、ウサギは黙り、こちらに振り返る。

 まるで、満面の笑みを浮かべるように一度強く頷く。

「大丈夫、大丈夫。心配することはない」

「バカッ、だから」

 茶化しているのか、ウサギは大声を上げてクルクルと回り出す。驚きを通り越して、声が詰まった。

 そこでウサギは、短い腕を前に突き出し、小さく振る。受け入れがたいけれど、制止しているらしい。

 もう疲れてしまい、その場で崩れるように座った。胡座を組みながら、扉に凭れた。

「私は確かに動いている。それは誰でも驚くだろうが、私の姿は少年以外は大人しくぬいぐるみでしか見えていないはずである。うん、心配する必要はないのだ」

「……嘘だろ」

「そんなに悩むことはないと思うぞ。何をそんなに悩むんだ。楽しもうではないか」

 ウサギはピョッンとテーブルから飛び降りると、ヒョコヒョコとこちらに歩いてくる。

「まぁ、そういうことである。今後ともよろしく頼むぞ」

 手前まで来ると、右手を差し出してきた。あたかも握手をしろ、と求めているみたいに。

 愛らしく首を傾げる。ウサギに一度頷いてやった。ウサギも安堵して頷いた。

「知るかっ」

 信じられるか、やっぱり。疲れて幻覚を見ているだけだ。受け入れない、こんなこと。 

 まぁ、まぁ。

 そう心配する必要なんてないのです。

  悩むこともないですぞ。

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