第一章 ~ 私の仕事? ~ (12)
ふむ。
お疲れのようですな。
結局、明や優太に三上の存在を聞くことはできなかった。
怖かったのである。
前回の風間のこともある。自分一人が騒いでしまっているだけだとすると、逡巡してしまう。
誰も指摘しないことで、諦めも静かにだけど、体に浸食していた。
ウサギが消したんだ、と。
胸のなかで暴れる不安を秘めたまま、家に帰っていた。明たちに遊びに誘われていたのだけれど、その気にはなれなかった。
ボーリングの玉みたいに重い頭をベッドに埋めたく、部屋の扉を開けた。
刹那、
「ーーお前っ」
声を洩らしてしまう。テーブルの上で運動をしているウサギを見つけて。
「おぉ、少年。お疲れ」
「……うるさい」
今日は反論する気力がなく、ぞんざいにあしらい、そのまま進むと、制服のままベッドに頭から倒れ込んだ。
「ーーん? どうしたのかね。お疲れのようだけど」
こちらの心境をえぐるように、楽しげに聞いてくる。頭痛がさらに酷くなりそうだ。
怒鳴りたいのを必死に堪え、寝返りを打ち、仰向けになると、
「お前、三上を消したのか?」
今朝と変わらない殺風景な天井を眺めて呟いた。
「ーーん? その通りですぞ」
「……そうか」
なぜか、静かに受け入れてしまう。
「じゃぁ、あれは夢じゃなくて、現実だったってことか」
「う~ん。難しいですね。起こったことは現実であり、見たことは夢なのかな」
「なんだよ、それ」
「我々はあの空間を、“領地”と呼んでいます。標的をその地に呼ぶための。ま、気にすることはない、ということですよ少年。いやぁ、しかし一つの罪を消せたのは、少年のおかげですぞ」
視線を傾けると、それまで懸命にラジオ体操みたいな動きをしていたウサギが背筋を伸ばし、頭を下げていた。
ここで反応してしまえば、ウサギの奇妙なことに加担したと、認めてしまうみたいで、躊躇した。
「いやぁ、しかし疲れました。やはり鎌は疲れますな」
まるで、肩が凝ったと言いたげに、右腕を回していた。
「さて。少年よ、次はどうする?」
聞き捨てならぬ言葉に体を起こした。
ウサギは手招きをする。話に乗れ、言いたいのか、
またふざけたダンスを踊り始めた。
このままにしておけば、また犠牲者が生まれてしまうかもしれない。
ウサギは両手をバンバンと振る。
そのウサギの耳を掴み、引き上げた。
「ぬおっ。何をするのです? 前にもこのようなことを」
戸惑い、腕をバンバンと叩くウサギに、満面の笑みを献上し、すぐさま部屋にあるスチールラックに目を向ける。
「少年? 少年? 少年?」
騒ぐウサギを掴んだまま、ラックに近寄ると、ウサギを引き上げる。
そこでウサギをラックのポールに押しつけた。そして、ラックの最上段に置いていたガムテープを取ると、ウサギの前でかざしてやった。
ウサギはとぼけた様子で首を傾げた。
戸惑いの眼差しを向けるウサギを、そのままガムテープでポールに巻きつけていく。
何重にも巻きつけて、ミイラみたいに拘束してやる。
ほんの善意として、目と口の部分だけは、空けといてやった。
ウサギの真似をして、鼻で笑って手をパンパンと叩いてやった。
「おいっ、何をしているのですっ。私はこんな趣味はないぞ。止めてくれたまえっ」
「うるさいっ。僕にだって、そんな趣味はない。そこでじっとしてろっ」
ちょっとだけ出た手足をバタつかせながら、訴えるウサギを一蹴する。
「知らぬぞ、どうなっても、絶対に。少年よ、後悔するぞっ」
「ーーうるさいっ」
待ちたまえっ。
これは虐待であるぞっ。




