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第7章

玲子はマルスとトリオにどう接したらいいか悩んでいた。

 玲子は夕食をすませると、上原の部屋を訪ねた。

「どうしたの? 玲子」

 最近、玲子の相談事が増え、玲子のことを娘として面倒を見ている上原としては、むしろ喜ばしい。

「トリオったら、家事に張り切っちゃって、私の出る幕がないの」

 新しく、玲子の弟になったアンドロイドの男の子「トリオ」は、すでに家事の大半をこなしている。

「いいじゃないの、トリオは家事用アンドロイドなんだから、家事をすることが本能みたいなものよ」

「でも、ロビーもいるのに・・・」

 玲子のイメージは、どうしてもロボットの外見に引っ張られるようだと上原は思った。

「ロビーはもともと家事用じゃないし、トリオは子供型といっても、新型の家事用アンドロイドなの。後付けで家事用プログラムを組み込んだロビーではトリオに太刀打ちできないわよ。ロビーもそのことはよくわかっているの」

 ロビーは元々ファントムの先鋭部隊「ライトニング」のリーダーだったロボットなので、本来は戦闘用である。が、ダグラスインダストリーは重要な人材と位置づける敷島と上原の住居を守るために、ロビーを配置しているのである。

「でも、たまには私が支度をしたいわ」

「簡単よ、トリオにそう言えばいいの。トリオは玲子の命令には従うから」

 今一つ、トリオには強くはでられない玲子だった。

「でも、トリオにとって、一番はおばさんなんでしょ」

 玲子の言うのは、トリオのマスターが上原だと言うことである。

「そうね、そう設定してるわ。玲子が二人のアンドロイドのマスターになると負担が増えるでしょ。敷島さんには内緒だけどね」

「マルスはトリオに嫉妬するかしら?」

「マルスは嫉妬したりしないわ。それにトリオの心配もいらないわよ。トリオのメンタルは玲子がマルスをかわいがっているくらいじゃ揺るがないから」

 玲子は不安を覚えた。

「私は不十分? 大丈夫かな」

「玲子は今のままで十分よ。マルスのことをとても大切にしていることは私もよくわかっている」

 上原は玲子の手に自分の手を重ねる。

「マルスは理想的なマスターを持ったわ。それが玲子、あなたよ。あなたがいるからこそ、マルスは全機能を最高の状態で発揮できるの。マルスとライトニングファントムのロボットたちがシティの守護者でいるのも、すべて、玲子のおかげなんだからね。自信を持ちなさい。それから、トリオのことも、玲子の好きなようにかわいがってやりなさい。それはトリオにとってもいいことだから」

「でも、トリオはちょっとよそよそしいわ。マルスみたいに甘えてこないの」

「それは仕方がないわ。わかっていると思うけど、トリオはマルスとメンタルが違うのよ。トリオは玲子のことを仕えるべきご主人様としか認識してないの。それにマルスだって最近まで、ちょっと、よそよそしかったでしょう? 多分、玲子が着替える時は部屋から出ているか、背を向けてたと思うけど。違う?」

「ええ、そうだったわ。ちょっとよそよそしかった。一緒にお風呂に入ってから変わった気がするけど」

「玲子がそこまで許容するってマルスが理解したからよ。玲子のしていることはマルスに取って悪いことではないから、玲子の思うように可愛がればいいの」


 夜、寝る前、玲子は

「トリオ、おいで」と言って、トリオを膝の上に手招く。パジャマ姿のトリオは、玲子の膝の上にちょこんと座った。ふと、玲子は最初はマルスも玲子が言わないと膝の上に来なかったことを思い出した。今でこそ、マルスは玲子にだっこをせがむが、最初の頃はそうではなかった。(トリオも抱っこをせがむようになるのかしら。なると嬉しいんだけどな)

 玲子のささやかな望みを知らないトリオは、ただ膝の上で座るだけで、玲子の様子を見ている。

「ねえ、トリオ、明日は一緒に朝食を作らない?」

「ぼくがつくる食事じゃ、いや?」

「ううん、そういうことじゃなくて、私がトリオと一緒に作りたいの」

「いいよ、お姉ちゃんと一緒につくる」

 あっさりとトリオは同意した。

「ありがとう」

 玲子はトリオの頬にチュッとキスをした。トリオは嫌がりもせずキスをされると、玲子の頬にキスをして返した。

「寝ようか?」と、玲子が言うと、トリオは「はい」と返事をして、玲子の膝の上から降りる。二人はベッドの上で横になると、玲子は布団を掛け、トリオを腕の中に抱いた。トリオは嫌がりもせず、されるがままに玲子の腕の中に顔を埋めていた。このあたり、ロボットだからなのだろう。

「トリオ」

「なあに、お姉ちゃん」

「私のそばにいてくれてありがとう」

 マルスがいないとき、トリオがいるのといないのとでは、ずいぶん違うことを玲子は自覚していた。


 マルスの一連の訓練と評価が終わり、サムは連絡機でノーマとマルスを連れて、プレスト海軍司令部に帰還した。マルスの評価については概ね司令部は満足していた。

「ちょっと、イレギュラーなこともあったが、マルスの試験結果は満足できる内容だ」

 スコット司令はサムの報告に満足していた。

「ところで、西郷の評価はどうだ」

 スコットの問いにサムは明瞭に答えた。

「西郷司令の評価も上々です。後はマルス専用に開発されたタイタンの戦力化が要と言われていました」

「マルスは航空戦特化ではだめなのか?」

「航空戦特化ではなく、状況に応じてタイタンを制御できるようにしておきたいとのことでした。ドラグーン相手にはタイタンを使った方が戦力としては大きいと考えているようです」

 スコットは傍らの川崎副司令に

「先生、タイタンの納入スケジュールはどうなっているだろうか」

 川崎は手元のタブレットを操作し、

「報告では、来月早々となっています。西郷が予測するXデイにギリギリ間に合うと言ったところです」

「ブラックタイタンの改修は終わったのですか」

「はい、それは完了しています。改修後のブラックタイタンは、コントロールの習熟度から判断して、リョーカに任せるのが良いかと思いますが」

「戦力の最適化というわけですな」

「そうです。ニーナでは改修後のブラックのコントロールは力不足かと思います」

「サムの意見は?」とスコットはサムに問うた。

「私も川崎副司令の意見に賛成です」

「では、今後はブラックタイタンのメインパイロットはリョーカとしよう」

 スコットはやや姿勢を正すと、

「で、西郷はXデイについては、どう想定しているのだ」

 サムはやや声を落として、

「はっきりとはわからないようです。今度の敵はモルガンであると想定すべきと言われて、いくつかの攻撃パターンを想定しているようですが、自信はないようです」

 川崎は

「西郷でも読めませんか・・・・ まあ、無理もない。相手がモルガンならば・・・」

「先生もモルガンを評価しますか」

「モルガンはなかなかの知将です。そして、連邦軍の腐敗に失望してテロリストになった男です。能力的には侮れません。モルガンの知略に対抗できるのは、プレスト海軍では西郷だけでしょう」

 サムはやや言いにくそうに、

「ただ、防衛軍の動きに注意しないといけないと言われてました」

「防衛軍、プレスト防衛軍か?」

「おそらく、モルガンの攻撃と呼応して、防衛軍が裏切ると。そして、万が一、モルガンの身が危なくなれば、第2艦隊も敵になるだろうとも言われました」

 スコットはやや渋い顔をした。

「それだけの戦力とやり合うのか、我々は」

「各個撃破に持ち込むしかないでしょうね。西郷はそれくらいは考えるでしょう。戦力の配置は西郷の一存に任せるべきと思います」と川崎は意見を述べた。

「もちろん、そのつもりだ。正直、私にはどう戦えば良いのか、さっぱりわからない。しかし、相応の損害は覚悟しないといけないかもな」

 

 玲子は放課後の部活を休み、ダグラスインダストリーに来た。サムからマルスを迎えに来るように言われたからだ。ダグラスインダストリーのセキュリティエリアの待ち合わせ場所で、玲子が待っていると、サムに連れられたマルスがやってきた。玲子の姿を見ると

「お姉ちゃん」といって、マルスが玲子に駆け寄ってくる。玲子は跪くとマルスをぎゅっと抱きしめた。

「マルス、お帰り」

 しばらくして、マルスを離すと、

「ちょっと、心配させちゃったね、今回は」と玲子が言った。マルスがよくわからないといった表情を浮かべたので、

「おじさんが言ったことが気になって、訓練に身が入らないなんてことなかった?」

 サムは笑顔を浮かべながら、

「それはなかったよ。俺が保証する。マルスは任務に対しては十二分な働きをしたよ」

「それならいいけど」

「でも、サムにはずいぶん心配かけちゃった」とマルス。

「いやあ、そんなことは気にするな。軍事行動中のマルスのマスターは俺だからな。マルスの面倒を見るのは当然さ。まあ、玲子が決断してくれたことは、ありがたかったよ。ありがとうな、マルスのマスターを引き受けてくれて」

「サム、私は軍のためにマルスを引き取ってるわけじゃないわ。私は私のためにマルスの面倒を見ているの。サムだってマルスを好きなように可愛がれって言ったじゃない。むしろ、マルスを私に預けてくれることに感謝してるわ」

「そうか・・・」

「トリオに出会って、はっきりわかったの。マルスは私にとって特別なんだって。私は生きていたいと思ってるわ」

「そうか・・・」

 それは良かったとは、サムには言えなかった。

 

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