ブルーライトニング 第2部 第36章
「早く会いたいね」
瑞穂はそわそわしながら玲子に言った。マルスが玲子の家に戻ったと聞き、部活を休んで一緒に帰路を急いでいる。
「そうね」
学校にいる間に、サムがマルスを送ってくれた。玲子も会えるのが待ち遠しい。
「ただいま」
「お邪魔します」
玄関に入るやいなや、パタパタとマルスとトリオが駆け寄ってきた。
「お帰りなさい」二人が声をそろえる。マルスは玲子の鞄を受け取り、その手を引いて居間へ。待ちきれなかったのだろう。
「瑞穂お姉ちゃんも、居間に来て。お兄ちゃんとケーキ焼いたんだよ」
トリオは瑞穂の鞄を取り、同じように手を引く。無邪気に引っ張るマルスに比べ、トリオは少し大人びて見える。個性の違いが面白い、と瑞穂は思った。
「行く行く、ごちそうになるわ」
居間ではロビーがお茶の用意をしていた。
「ロビー、ぼくがやるよ」
「たまには私にもやらせなさい」
トリオは素直に引き下がる。戸棚からは二人が一緒に作ったケーキが運ばれてきた。
「わおっ、おいしそう」
しっとりとしたレアチーズケーキだ。
玲子と瑞穂は紅茶を飲みながら頬張る。
「うーん、しっとりしておいしい」
「本当によくできてる。二人ともありがとう。ロビー、お茶もおいしいわ」
マルスとトリオはうれしそうに頷いた。
「あのドラグーンを壊したの、マルスなの?」
件の映像はメディアで繰り返し流れている。だが夜間で光量が足りず、決定的瞬間はほとんど見えないため、戦果は捏造だと揶揄する論調もある。そんなこともあり、海軍はプロメテウスを一般に公開した。
「ミサイルを迎撃したのはルーナとレナ。でも、ドラグーンと艦を沈めたのはぼく――というか、プロメテウスだよ」
「プロメテウス? あの大きなロボット?」
「そう。中でぼくが操縦してるの」
ロビーが居間のディスプレイに映像を出す。
「この瞬間、爆発の光でプロメテウスが一瞬だけ映っています」
静止すると、ライトサーベルの閃光の中、プロメテウスの輪郭がかろうじて見えた。
「うーん、これじゃ分からないね。こんな一瞬で勝負がつくの?」
「戦闘なんて、一瞬だよ」マルスはけろりとしている。
「ドラグーンって怖いイメージだったけど、マルスはすごいんだね」
「すごいのはプロメテウス。あれじゃないと、あそこまで速く動けない」
「世界最強と言われたグリフォンも張り子の虎ってことかしら。ドラグーンはその改造なんでしょ」と玲子が言うとマルスは、
「そう。実際たいしたことない。バリアや内蔵武器は充実してるけど、それだけ。戦術的には時代遅れだよ。ドラグーン二体だけで攻めてくるなんて、プレストシティを舐めてる。前に来た新型ロボットのほうが、まだ手強かった」
「ああいうロボットがまた作られて、テロに使われちゃうのかな」と瑞穂は不安顔だ。
「なんとかするよ。ぼくたちも進化してる。数年もすれば、ぼくやプロメテウスを超える機体だって出てくる」
「そのとき、マルスは軍をやめるの?」との瑞穂の問いに、
「分からない。そのときの状況次第だよ。でも、ぼくにもできることはあるはず。軍が“いらない”と言わない限り、続けると思う」
世界には独裁的な統治のシティがいくつかあり、コーダシティもその一つだった。政情不安から他シティへの侵攻事件はなお起こり、そのたびに連邦軍戦闘艦隊が出撃した。マルスとリョーカもたびたび鎮圧に向かい、大きな戦果で侵攻作戦を灰燼に帰した。なかには独裁政権の崩壊と民主化へつながった例も少なくない。
五年後、技術革新で誕生した新型アンドロイドがマルスとリョーカの能力を上回り、二人は第一線を退いて新世代機の教導任務に就いた。連邦暦二二四年の暮れ、リョーカとアトラスは静かに機能を停止した。




