ブルーライトニング 第2部 第32章
警戒態勢のなか、基地にとどまり帰ってこないマルスに、玲子と瑞穂は会いに行きます。そこには野戦用防護服をきたマルスがいました。
「テロリストの助命嘆願、無罪放免要求なんて、正気の沙汰じゃ無いねえ」と、上原はニュースを見て憤慨している。玲子も同じ気持ちだ。玲子はまさに殺戮対象とされていたわけで、ライトニングファントムがいなければ、無事であったかも定かでは無い。そんな武力テロを起こした実行犯を、平和団体ピースメーカーを中心として、助命嘆願や裁判のやり直しをもとめて運動していた。また、時には暴動や器物損壊事件を起こしたが、多くは警察のテロ対策部に逮捕され、テロ実行犯として裁かれる容疑者の列に加わった。テロ実行犯の裁判は迅速に行われ、判決後、速やかに死刑が執行される。プレストシティで起きた先のテロは、多くの人間が裁判を受けているが、平和運動家の助命嘆願もむなしく、判決が立て続けに出され、日々、死刑執行が行われている。
「一人も殺していないとはいえ、あれだけの武器を使って暴れたのだからなあ、殺意は十分あっただろう。未遂でもテロだ。それにしても平和団体がテロを擁護するとは皮肉なものだ」と敷島もあきれている。それに対する玲子の言葉は辛辣だ。
「だって、ピースメーカーはテロリストでしょ」
平和運動団体というのは欺瞞だ。いつでも彼らはテロを支援していたからだ。ソレイユを危険なロボットとして告発し、ダグラス社の解体を主張し、マルスをも危険なロボットとして解体処分を要求した。もっとも、マルスはマーサという女の子のロボットとして活動したため、矛先は、リヨン大統領のもとへ行ったマーサに向けられているが、リヨン大統領自身、声明でピースメーカーの主張は受け入れられないと断言しており、マーサがリヨン大統領府を襲ったテロロボットを鎮圧したことも、ピースメーカーにとっては不利な材料になった。そう、ピースメーカーが主張すれば主張するほど、逆にピースメーカーがテロ支援団体と見なされ、民意は離れていったのである。
「みんな、テロリストとして処刑されれば、静かになるでしょ」と、上原はさらに辛辣だった。上原の家族もピースメーカーの平和活動と称する暴動により、殺されているため、微塵も同情の念はない。
「お兄ちゃんはだいじょうぶなのかなあ。最近、帰ってきてないでしょ」と、トリオが心配そうに聞いた。軍事活動中のマルスとは、データリンクで呼び出しできない。マルスは律儀に沈黙を守っていたが、ゼムはある程度の情報をロビーにリークしていた。
「大丈夫ですよ。ゼムの話では、警戒しているだけです。何かあると決まったわけではありません」とロビーはトリオに答えた。トリオはそれを信じるしかないのだが、
「そうかなあ、お兄ちゃんが帰らないというのは、何かあるんじゃないの?」
「リョーカが艦隊業務に就いてます。プレストシティにはマルスしかいないのだから、仕方がないのです」
玲子はトリオの肩を叩いた。
「トリオ、マルスは大丈夫よ」
とはいえ、玲子はロビーの言葉を丸呑みできなかった。何もないなら、マルスが24時間連続の警戒任務に就くはずがない。テロロボットの性能が上がっている以上、ライトニングファントムは切り札として、貴重な戦力と位置づけられている。そのため、リーダーのマルスも警戒態勢に組み込まれているのだろう。
「小母さん、私、マルスに会いたいと言ったら、会えるかしら」
上原は、そう来たかと思った。
「会えると思うわよ。明日会いに行けば? マルスが喜ぶから」
玲子は笑顔で応じる。
「じゃあ、そうする」
行って会えるのなら、行くしかない。そう、玲子は思った。
放課後、玲子と瑞穂は郊外鉄道でダグラスインダストリーへ向かっていた。
「瑞穂も物好きね」と玲子は笑って言った。
「かわいいマルスに会えるなら、私だってね」と、瑞穂はウキウキしながら答える。玲子もだが、瑞穂もマルスへの想いは熱いようだ。
「マイクとはうまくいっているようね」と、瑞穂がコロリと話題を変える。
「ええ」
「マイクも一途だったからねえ。結構、他の女の子から告白されていたけど、みんな振っちゃっていたわ。あの、伊藤綾もね」
最後の一言は毒を含んだ言い方だった。プレストシティへの大規模なテロ攻撃が会った日に、防衛軍の伊藤司令はシティ専用機を強奪し、家族とともにプレストシティからの脱出を図った。伊藤司令の娘であった綾も、両親とともにシティ専用機に乗り、プレストシティを脱出したのだが、武装テロリスト「セレクターズ」のミサイル攻撃により、専用機が撃墜され、あえなく家族全員が死亡している。その事実は広くニュースになり、防衛軍のテロ加担の事実とともに、シティ市民の大いなる反感を買うことになった。伊藤綾が在籍していた玲子のクラスでも、伊藤綾へ憎悪が向くことになった。
「彼女もね、かわいいからって男子から人気だったけど、本人はマイクが良かったみたい。まあ、マイクは家柄もいいし、いい男だから、当然と言えば当然なんだけども、マイクは綾のチャラいところが嫌いだったらしくって、見向きもしなかったけどね」と、瑞穂の言い方は辛辣だった。
「見ていて気の毒だったけどね」と、玲子はやや同情的だ。
「玲子は心が広いね。あれだけ嫌がらせされてたんだから、もっと、恨んでもいいと想うけど・・・ あっ、眼中にないのか」
「そう、彼女なんか、どうでもいいの」と、玲子は冷ややかに言った。
「玲子は徹底してるね。私はいかんわ。憎悪が抜けない。あんな死にかたしても、ざまあみろとしか思えないもの」
「死んで、惜しまれないというのも、かわいそうなものね。綾は親に連れていかれただけで、脱出を自分で望んでいたとは思えないし、それなのに、これだけ恨まれるなんて気の毒よ」
「そう考えられるって、玲子は凡人じゃ無いよ。私はだめだな」
瑞穂は心底、綾を嫌悪しているのだろう。
「やめやめ、伊藤綾のことを思い出すと腹が立つ。って、言い出しっぺは私か」と、瑞穂はペロリと舌をだした。
「かわいいマルスのことを考えよう。早く会いたいわね、玲子」
「ええ」
窓にはダグラスインダストリーの建物が見えてきた。
駅で降りると、すぐそこがマルスが詰めている海軍基地が置かれているダグラスインダストリーの建物だった。玲子はハンディ(携帯端末)の認証機能を使って、瑞穂とともに中に入る。一般人は侵入不可のエリアなので、玲子のハンディが無ければ入れない。すぐに、案内のロボットがやってきた。小柄なJ-3型のメタロイドである。
「どうぞ、こちらへ」
ロボットが案内したのはソファーとテーブルが置かれた休憩室の一つだった。とりあえずソファーに座って待っていると、マルスがやってきた。マルスはグレーの服を着ており、少し異様な雰囲気である。
「お姉ちゃん、瑞穂お姉ちゃん、いらっしゃい」
マルスは服装以外はいつものマルスである。
「マルス、久しぶりね」と、玲子はマルスを抱きしめた。瑞穂は玲子のあとに、マルスを抱きしめた。
「かわった服を着ているのね」と瑞穂がマルスに聞いた。
「これ、野戦用の戦闘用防護服なの。簡単に脱いだり着たりできないから、着たまま来ちゃった」
程なくレナが、トレーに飲み物を乗せて部屋へやってきた。レナもマルスと同じ戦闘用防護服を着ている。
「飲み物とお菓子を持ってきたわ。どうぞ、召し上がれ」
「ありがとう、レナ。なんか、大変な時にお邪魔しちゃったね。ごめんなさい」と、玲子がわびると、
「いいのよ、待機中だから。この服、簡単に着れないから、ずっと着たままなのよ。それに、いいときに来てくれたわ。マルスが寂しがってたから」
マルスは玲子と瑞穂の間にちゃっかり座っている。だが、どちらかというと、玲子の方にもたれかかっていた。玲子はマルスを愛おしそうに撫でながら、しばらくすると、そっと、瑞穂のほうに押しやる。マルスは察したように、瑞穂にもたれかかった。瑞穂はマルスを抱きながら、
「玲子、無理しなくてもいいのに」
「瑞穂だって、物欲しそうにマルスを見てたわよ」
「うーん、ばれてたか。あー、もう、マルスはかわいいわ」といって瑞穂ははしゃぎながら、マルスを抱きしめている。
「もてるね、マルスは」と言って、レナは笑っている。
「うーん、お姉ちゃんも好きだけど、瑞穂お姉ちゃんも好き」と、マルスは瑞穂にとどめをさした。
「だめだ、マルスは守よりかわいい!」と、瑞穂ははしゃぐが、玲子は笑いながら、
「マルスと守くんは交換しないよ」とだけ言った。瑞穂はふふっと笑いながら、
「だよねー」と玲子に同意した。




