ブルーライトニング 第2部 第27章
マルスがラルゴシティ沖の第7艦隊からプレストシティへ帰還する。
「小母さん、相談があるの、入っていい?」
夕食のあと、玲子は小母の部屋のドアの外から声をかけた。
「いいわよ、お入り」
玲子は滑り込むように部屋に入ってきた。上原は椅子をすすめながら、
「何の相談?」と聞く。玲子は椅子に座って、居住まいを正した。
「あのね、明日、マルスが帰ってくるでしょ。マルスは今回大変な思いをしたと思うの。大勢、人が死んだし」
「別にマルスが殺したわけじゃない。テロロボットが殺したんだもの。マルスはそんなこと、気にもとめてないわ。そのあたりはドライだから」
玲子はちょっとほっとしたようだった。
「そう、それならよかった」
「大勢死んだと言っても、ガバメント社の要人が家族ぐるみ殺されただけよ。自分たちが他人を殺戮するために作ったロボットに殺されたのだからね、自業自得よ。私はいい気味だとしか思わないし、マルスにその人達を助ける義務があったとも思えない」
「私もそう思う」
「マルスにとって、つらいのは玲子に責められることよ」
「マルスは精一杯のことをしたと思うの。責める気はないわ」
「なら、いいじゃない。心配することはないわよ。ちょっと甘えモードになるかもだけど」
「もちろん、いっぱい甘えさせる。マルスは頑張ったんだもの」
上原は口元に微笑を浮かべて言った。
「それがいいわ」
玲子も笑顔で言った。
「ねえ、小母さん。わたし、マルスのお姉ちゃんになれて、よかったと思う。私はマルスのおかげで幸せになれたと思うの。だから、マルスが望む限り、私はずっとマルスのお姉ちゃんでいたい」
「大丈夫、誰もそれを妨げたりしないから。伯父さんも、海軍もね」
「うん」
第7艦隊とプレスト海軍基地を結ぶ輸送機「ブルドッグ」は、サムとノーマ、マルスとそのほかの交代要員を乗せて、一路プレストシティへと向かっていた。
「あと、10分ほどで着陸だ。マルス、もうじき玲子に会えるぞ」とサムが言うと、
「うん」とマルスは短く返事をした。
玲子に会えるのが待ち遠しいのか、マルスは余計なおしゃべりもせず、じっと押し黙ったまま、椅子に座っている。まだ、軍事行動中となるため、玲子とのリアルタイムの通信はできない。ただ、直前のメールで到着の時間だけ伝えていた。
(マルスを退役させられればよいのだが・・・)と、サムは思わざるをえない。ただ、マルスとリョーカが、3号機以降の量産型より優れた能力を持つことが分かっている以上、早期の退役は難しくなっている。ロボットによるテロの有用性が示された今、それに対応する戦力を保持しなければならず、マルスとリョーカは貴重な戦力だからだ。玲子もそれを理解していて、マルスのことについて、とやかく言わないのが、かえってサムにはつらい。
「お帰りなさい、マルス」
玲子はマルスがプレスト海軍基地に帰る時間を見計らって、マルスを迎えに来ていた。思いがけず、玲子に早く会えたマルスは玲子に飛びつく。
「ただいま! お姉ちゃん」
玲子はマルスを両手でしばらく抱きしめていた。マルスが出かけていたのは1週間足らずの間だったが、その間に起きた事件の大きさから、ずいぶん長く感じられていた。
「ロビーから聞いたよ、マルスはよくやったわ」
「ありがとう。でも、たくさんの人が死んだけど」
「どうせ、テロリストの親玉でしょう。いい気味だとしか思わないわ。いいのよ、あれで。あれを自業自得っていうのよ」
玲子は死者に同情しなかったので、マルスは心の重荷がとれた気がした。大勢の人を死に至らしめた作戦を、玲子がどう思うかが気がかりだったからだ。サムは心配ないとは言っていたが、玲子の本心が分かるまでは安心できなかったのだ。
「家まで送ろう」
そう言って、サムは玲子とマルスを車に乗せる。ノーマもそのまま非番になるのでサムと一緒である。
マルスは車の中で、そっと玲子の手を握る。
(やっぱり、甘えたいのかな)と玲子は思い、マルスの手を握り返す。シートベルトをしているので体を寄せることができないので、今はそれが限界だった。
「マルスはしばらくはお休みだ。1週間くらいはゆっくりと過ごせるぞ」
サムの言葉に玲子はうれしくなった。
「ほんとに?」
「ああ、二人でゆっくりしろ」
「やった。瑞穂もマルスと会いたがってたから、一緒にお出かけするわ」
「瑞穂お姉ちゃんとお出かけするの?」
「うん。ここんとこ、会えなかったからね、みんな会いたがってるよ。今日、誘っておくね」
「守君とも会いたいな」
「会えると思うよ」
サムは「マルス、また、学校へ行きたいか?」と聞いた。
「ううん、ぼくはみんなのために働きたいの。だから、軍の仕事をする」
マルスは迷わずそう答えた。
「そうか? 玲子もそれでいいのか」
「マルスの気持ちを大事にしたいの」
それは、玲子の本当の願いではないかもしれない。しかし、
「そうか、わかった」とだけ、サムは答えた。




