第19章 愛し、愛されること
玲子はエスターを亡くしたメアリに会いに行きます
第19章
「なぜ、私を逮捕するんだ? 新体制派の嫌がらせか?」
取調室で容疑者の大将から問われた軍警察のマーレイ大佐は、
「逮捕のとき、罪状を告げたでしょう。リヨン大統領襲撃の主犯として、つまり、テロ実行の罪です」
「濡れ衣だ! 私は何も知らない、黙秘する」
マーレイはわずかに皮肉の笑みを浮かべる。
「黙秘も結構、結果は何も変わらない。我々はすでに十分な証拠をそろえている。あなた方がガバメントと共謀し、テロ用のロボットをソプラノシティへの軍事物資といつわり密輸し、リヨン大統領襲撃を行ったことをね。あなた方の通信と行動の記録はすべて押さえている。ロボットは道具に過ぎない。そのロボットを使ってテロを起こしたのは、あなた方だ。軍事法廷では間違いなく有罪、そしてテロ実行犯はもれなく死刑。結果は何も変わらない」
大将の顔が恐怖にゆがんだ。
「私は何も知らない!」
「軍事法廷で、あなた自身の声を聞くといい。リヨン大統領と新体制派を一掃する完璧なシナリオと評するあなたの声をね」
「盗聴していたのか」
マーレイは冷酷だった。
「テロリストの行動は監視する必要がある。黙秘するなら結構。おい、容疑者を部屋に戻せ」
マーレイはそう部下に指示をする。
「待ってくれ! 捜査に協力する! 取引させてくれ」
リヨンとボイド大佐は会議室でマーレイの報告を聞いた
「旧体制派はすべて落ちました。捜査に全面的に協力すると言っています」
リヨンは皮肉な笑みを浮かべて言った。
「今更協力すると言われても、益は少ない。取引になり得ませんな」
「そうなんですが、協力的なのはありがたいです。とりあえず、とれるだけの情報はとります」
「よろしく頼みます」
報告をしていたマーレイは、リヨンとボイドの煮え切らない態度が気になった。
「気になることでもありますか?」
リヨンがため息をつきつつ言った。
「こうも思い通りに運ぶと逆に怖い」
「プレスト海軍のシナリオ通りに進むのが・・・ ですか」
リヨンは軽くうなずいた。そしてボイドも「正直、怖い」とだけ言った。
主語は無かったが、マーレイはボイドの恐怖の対象を理解していた。
「西郷司令は野心家じゃありませんし、テロリストにもなり得ません。ただ、テロリストとその首謀者を排除しようとしているだけです。あの男にとって、その・・・ ゲームをプレイしているようなものです。怖い男ではありますが、害はありません」
親しさを感じさせるマーレイの言い方に、
「あれに害がない・・・ 君は西郷中将を知っているのか?」とボイドは聞く。
「同じ士官学校で学んだ仲です。取り立てて優秀な成績という訳ではなかったが、一度だけ戦術シミュレーションでエドワーズに勝って、周りをあっと言わせたときがありました」
「エドワーズって、あの副司令をやっているエドワーズか?」とリヨンが聞き返した。
「そうです。思えばエドワーズはそのときから西郷と意気投合していました。多分、教官の一人だった川崎中将もわかっていたんだと思います。だから、プレスト海軍設立の時、西郷とエドワーズを招聘したんだと思います」
「偶然ではないのか・・・」とリヨンはつぶやく。
「スコット大将と川崎中将には人を見る目があります。プレストシティ政府が海軍を防衛軍から分離独立させてスコット大将に全権をゆだねたのは偶然かもしれませんが、その後の流れは必然だと私は考えます。スコット大将はセレクターズの殲滅を目標としていました。西郷は部下としてビジネスライクに、それを実行したにすぎません。もっとも、西郷もセレクターズの殲滅を目標としていたのかもしれませんが」
リヨンは嘆息しつつ、言った。
「プレストシティの政権交代は5年前、たったそれだけのことが、世界にこれほどの影響を与えたのか・・・」
「そういうことになります」
だが、ボイドは素直な意見を口にした。
「しかし、あの男、表向き、人畜無害な顔をしていながら、考えていることは悪党だ」
マーレイは苦笑いを浮かべながら、
「それは・・・ 私もそう思います」と言った。悪党でなければできないこともある。
「その悪党は未成年の少女を利用しているのか・・・」と口にしたボイドに、マーレイは「?」というリアクションをした。
「プレスト海軍のロボット部隊は、すべて一人の少女を要として動いていると聞いた。プレスト海軍は成り行きだと言うが、しかし、私は納得がいかない・・・」
ボイドの言うことがマーレイには理解できなかった。そもそもマーレイは玲子の存在を知らない。
「ボイド君の言う少女は、ソレイユの親友である敷島玲子という少女のことか?」
「名前は知りませんが、ソレイユの親友であると聞きました。それに、ファントム最強のアンドロイドの世話をしていると・・・」
「私が思うに少女は利用されているわけじゃない。ただ、ソレイユの親友でありたいと強く願うだけの想いがあった。それが、ファントムのロボット達の共感を呼んだんだよ。プレスト海軍の言うとおり、成り行きに過ぎん」
「そうなんですか?」とボイドは半信半疑だ。
「私はその少女とあって話をしている。食事もともにして楽しい時間を過ごした。そこでわかったが、とにかく、彼女はソレイユやマルスのことを大事にしているということだ。それは大人達の打算とは関係ないことなのだよ」
「マルスとは?」とマーレイが聞くと
「ファントム最強のアンドロイド、最新鋭のアンドロイドの男の子だ。この間の大統領官邸襲撃の時も、女の子の姿で活躍していたよ。プレストシティで私を守った女の子もマルスだよ。本当は男の子のアンドロイドなんだ」
「はあ?」と二人は間が抜けた返事をした。
「玲子を抜きにして、マルスの活躍はあり得ない。だが、玲子自身も、マルスにずいぶん救われているらしい。そこはお互い様と言うことなのだとおもうよ。利用するとか利用されていると言うことはない」
玲子とトリオが夕食の支度をしている頃、上原と敷島に連れられて、マルスが帰ってきた。
「ただいま、お姉ちゃん」
マルスはいたって元気だった。
「大活躍だったね。ニュースで見たわよ」と玲子が言うと、
「それはね、みんなが頑張ったんだよ」
「ニュースのインタビューに答えていたマーサは、変装したマルスだったの?」
「本物のマーサだよ」とマルスは答えた、玲子は笑って、
「そうなんだ、控えめなしゃべり方がマルスそっくりだったから、マルスかなって思ったんだけど」
上原は玲子の話を聞いてうなずいた。
「あれはね、マーサも自分の力だけじゃないってわかっているから、控えめになるの。控えめなところは、マーサはマルスに似ているけどね」
「そうなんだ。そういえばリョーカもはじけているようで、控えめなところがあるわ。マルスの同型はみんなそうなのかしら」
「思考ソフトウェアの根幹は同一だから、似ているかもね」
「面白いわあ」
話が盛り上がっているところで敷島が口を挟む。
「それより、夕食にしないか。腹が減った」
玲子が「はあい」と返事をした。おしゃべりは夕食時にもできる。
食卓のテーブルに料理が並べられる。
「今日はごちそうね」と上原が言った。
「マルスが無事、任務を終えたからそのお祝い。でも、マルスは食べられないけどね」
玲子にとって、マルスが無事、帰ってきたことがうれしかったのだ。
「ねえ、マルス、明日と明後日、仕事を休める」と、玲子は食事の手を止めて聞いた。
「休めるよ。みんながお姉ちゃんと一緒にいなさいって言ってくれたから」
「そしたらさ、明日、ダグラスさんの家に一緒に行こう。トリオも一緒に」
マルスが玲子を見上げて、聞き返した。
「ダグラスさんのところ?」
「そう、メアリと約束したの。遊びに行くって。メアリはマルスのことも気に入っているから、一緒に来てほしいの」
メアリは見かけは少し年下のマルスをかわいがっていた。
「いいけど・・・ でも、どうして」
「エスターが亡くなったの。だから、メアリのこと元気づけてやらないと」
「そうなんだ。うん、いくよ」
「じゃあ、一緒に行こうね。トリオもいいわね」
「はい」
玲子が寝る支度をしようと部屋に入った時、マルスは裸のまま床に座り込み、引き出しから玲子のシャツを引っ張り出していたところだった。
「また、私のシャツを引っ張り出して」と玲子はあきれ顔だ。とがめられないとわかっているマルスはけろりとして、「だって、こっちがいいんだもん」と言って、シャツを抱えつつ、引き出しを押し込んだ。遠征から帰ったあとなので、甘えたいのだろう。そう思えば、玲子もとがめる気はしない。マルスはさっさとシャツを着るとベッドの上に直行する。玲子は寝間着に着替えると、マルスの横に座った。
玲子が座ると、マルスはためらいもなく玲子の膝の上に上がると玲子に抱きついた
「サムも優しいけど、やっぱりお姉ちゃんがいい」
「サムも優しくしてくれるでしょ」
抱きしめながら玲子は言った。
「でも、こんな風に抱っこしてくれないもの」
そうだろうなと、玲子は思う。照れ屋なサムは過剰なスキンシップを好まない。それでも、生まれたばかりのマルスを実戦に出し、大きな成果を上げさせたのはサムの手腕だ。話に聞くリョーカの初期の性能低下とは対照的である。上原はマルスとリョーカのマスターは、資質がないと務まらないといい、兵器としては失敗作とさえ言う。
「ただし、アンドロイドとしては、一つの可能性を示したと思う」と言う。
「ノーマはね、最近、任務外ではサムにべったりなんですって」と、おかしそうに上原は玲子に話したことがある。
「マルスのまねして、サムと一緒のベッドで寝たりしてるの。従来型のアンドロイドでも、はじけると、そうなるんだとわかったのは大きな収穫だったわ」
「それは、マスターがサムだからでしょ」と、玲子が言うと、
「そう、サムだからできることなのよ。ちゃんとアンドロイドの気持ちを受け止めて、与えることができる。なかなかいないわよ。ああいう人は」
上原は真顔で続けた。
「だから、マーサ以降のアンドロイドの心のチューニングを変えたの。変えても問題はないと確信できたから」
絶対に人に反抗させてはならない。そういう想いで上原はマルスとリョーカの心をチューニングした。しかし、それは行き過ぎた従属心を与え、アンドロイドの自立を拒む結果となり、上原はそれを良しとはしなかった。
「でも、マルスとリョーカにもいいところはある。人間を守ろうとする意思が強く、反応速度が速いことよ。ある程度の技術革新がないとマルスとリョーカをこえるロボットはできないでしょうね」
サムはマルスをさっさと退役させて、玲子のそばにいさせてやりたいと考えてはいるが、マルスが持つ能力ゆえに、それは許されない。マルスは貴重な海軍の戦力なのである。それにマルスの決意も固かった。
「お姉ちゃんのそばにもいたいけど、ぼくはお姉ちゃんやみんなを守りたい、いろいろなことから」
玲子のマルスを抱く腕に力が入った。
「ありがとう。でも、私はマルスのお姉ちゃんだからね。私と一緒のときは、うんと甘えていいからね」
「うん。大好き、お姉ちゃん」
ダグラス家からの迎えの車に乗り、玲子達はダグラス家の屋敷に向かった。トリオにとっては初めてのお泊まりになったので、ちょっとはしゃぎ気味である。
「どんなおうち?」と聞いてきたが、玲子はただ一言、
「行けばわかります」とだけ答えていた。が、しばらくして、
「ああ、すごい! 大きな家なんだ」と驚いていた。
「なんでわかるの?」
「お兄ちゃんから、概念データを転送してもらったの」
ロボットなんだなと玲子は思う。人間はこんなふうに知識のやりとりはできない。こうした瞬間、マルスとのやりとりが、瞬時に周りのロボットに共有されているようで、なんとも複雑な気持ちを抱かせるが、上原からはプライバシーだけはきちんと守られていると聞いているので、ある程度は安心している。ロビーやゼムが知っているのは、マルスがとても大切にされているという事実で、会話の履歴やマルスが見た映像データが共有されているわけではないことは理解していた。だが、ノーマがマルスのまねをしてサムのベッドで寝たがるというのは、明らかに玲子とマルスが一緒のベッドで寝ているという事実が、広くロボット達に認識されていると言うことだ。ロビーに言わせれば、それだけマルスが玲子に大事にされているとファントムのロボット達は理解しているという。
「だから、皆、お嬢様が好きなんですよ」とロビーは一言付け加えた。
「私はただ、マルスがそばにいると幸せなんだけどな」
「マルスも幸せなのだからよいのです。そして、お嬢様とマルスの幸せは我々の喜びです。ただ、それだけです」
屋敷に着くと、メアリが出迎えた。
「玲子、いらっしゃい。お茶にしよう」
荷物は屋敷のロボットが部屋に運んでくれ、玲子達はそのまま、居間に通された。
「来てくれてありがとう。玲子」と、玲子のクラスメートでもあるマイクが居間で迎えてくれた。ロボットのジスカルドがお茶のセットを運んできてくれた。マイクは手慣れた手つきでお茶を入れると、玲子と妹のメアリの前にカップを置く。
メアリの横の席にはトリオくらいの女の子が座っていた。
「その子が新しいアンドロイドの子?」と玲子は聞いた。
メアリはちょっとハイテンション気味に、
「そう、エイミーっていうの。ねえ、玲子、その子も新しい弟なの」
「そう、トリオって言うの」
「二人もいるとお世話が大変じゃないの?」と無邪気にメアリが聞いてくる。
「トリオはどっちかというと、小母さんが世話してるの」
マイクは事情を察しているのか、わずかに笑みを浮かべてメアリと玲子の会話を聞いている。
「エイミーとトリオって背格好が似てるんだね」とメアリが言うと、マイクが
「同じモデルじゃないか? エイミーはAP-65だけど、トリオは?」
「同じよ、トリオもAP-65なの」と玲子が言うと、メアリは驚いて、
「男の子と女の子が同じなの?」
「ロボットには性別はないの。あるのは外見の違いだけよ」
そのことについては玲子はマルスで実感している。
「じゃあ、エイミーも男の子になれるんだ」
「なれるでしょうね」
「じゃあ、マルスもトリオも女の子になれるの?」
「なれるわ、なろうと思えばね。髪型を変えれば女の子らしくなるんじゃないかしら」
実際、女の子になったとはいえなかった。マルスも賢明にも黙っている。まあ、軍の任務のことを話すわけにもいかない。
「エイミーで遊ぶなよ。メアリ」とマイクが釘を刺す。
「そんなことしないもん」といって、メアリは口をとがらせた。
「お茶を飲んだら、何して遊ぶ? それとも、勉強しようか」と玲子が言うと、
「ゲームしよう! ゲーム! 勉強はそのあと!」とメアリが言った。
「じゃあ、そうしよう」
お昼は母親のアリスも加わった。
「よく来てくれたね、玲子」
アリスは玲子のことがお気に入りなので、上機嫌である。
「こちらこそ、楽しんでます」
「玲子にも、弟がふえたんで、賑やかになったわね」
ダグラス家のロボットたちが、料理を運んでくる。
「おじさんはでかけてるのですか?」
「今日は市長公邸に呼ばれていてね。半分はプライベートな付き合いなんだけど、まあ、今後の市政の相談かもね。夕食時には帰ってくるわ。ジムも玲子と会うのを楽しみにしているから」
昼食は海産物のパスタとサラダだった。
「おいしい」と玲子が一口食べて口にした。
「よかった、玲子が気に入ってくれて」とアリスが言った。
トリオは興味津々と料理を眺めている。どんな料理が玲子のお気に入りなのか関心があるのだろう。近いうちに同じような料理を出してくるかもしれない。エイミーは特に家事に参加していないのか、それほど関心を示してはいなかった。玲子は同じ型のロボットでも、違うものなんだと感じていた。ダグラス家では機能重視でアンドロイドは家事用ロボットとして採用していない。以前のアンドロイドのエスターは、テロで母親を亡くしたメアリを引き取ったとき、メアリの世話をしていたエスターをそのまま引き取っただけである。今回、メアリのためにアンドロイドのエイミーをリースしたのは、メアリのことをよくよく考えてのことなのだろう。それくらいのことは玲子にも察しがついた。
夕食後、玲子はジムとアリスに誘われ、ジムの書斎でお茶を楽しんでいた。
「今日はメアリの機嫌がだいぶいい。しばらく落ち込んでいたからな。玲子が来てくれて助かったよ」とジムが言った。
「やっぱり、落ち込んでたんですね」
「もう一人の母親みたいだったエスターを亡くしたんですもの。無理はないわ。私たちもエスターをなるべく長く生きながらえさせようとはしていたんだけど、アンドロイドの寿命だけはどうにもならない」とため息交じりにアリスが言うと、ジムがあとを継ぐ。
「メアリはまだ10歳だ。できる限りのことはしてやりたい。エスターの寿命が尽きはじめていることがわかって、上原君に相談したら、年下のアンドロイドをリースしたらと言われたんでね。上原君はAP-65をわざわざチューニングしてくれるというんだ。聞くところによると、玲子とマルスを見ていて、いろいろわかったことがあるってね。エイミーはその成果らしい」
「私とマルスなんですか」
「そうみたい。玲子もずいぶんかわったわ。いい意味でね。それならばメアリもって思ったのよ」
マルスが来てから世界が変わったというのは玲子にも自覚がある。それならばメアリも変われるかもしれない。
「私、マルスのことも、トリオのことも大好きです。トリオが来たことには伯父さんの強引さを感じたことがあるけども、結果的にはよかったと思ってます。マルスがいないとき、トリオは私によく尽くしてくれますから」
「真奈美は結果的にはいい方向へ行くでしょうと、トリオをリースすることには反対してなかったの。そういうところは母親として玲子のことをよく見ているなと思うわ」
「そうですね」
「最近、真奈美はいろいろ相談されるんで、うれしいみたいよ」
「遠慮しなくていいとわかったんで・・・」
「そう、それでいいの。真奈美にとって、玲子は娘なんだから」
「それでな」と、居住まいを正してジムは言う。
「メアリは玲子のことを慕っている。私たちが伝えられないことも、玲子なら伝えられることがある。メアリのこと、よろしく頼む」
玲子はいつもの客間を用意され、マルスとトリオと一緒に寝ることになった。ベッドが大きいので3人一緒で寝られるので、ちょっと新鮮な気分である。マルスとトリオはおそろいのパジャマを着ていた。今回ばかりは玲子がしっかり荷物をチェックしたので、マルスはシャツを潜り込ませることはできなかった。
「メアリがね、寝る前にお話がしたいって言っていたから、もうすぐ来るとおもうから、寝るのはもう少し待ってね」
メアリとは一緒に遊んだり、勉強を教えたり、ずいぶんと一緒に過ごしたが、寝る前にお話したいと言われたからだ。明るく振る舞ってはいたものの、少し陰を感じていたので、玲子はメアリの頼みを快く受けた。「玲子、入っていい?」とメアリの声がドアの外から聞こえた。
「いいわよ、入ってらっしゃい」
ドアが開いて、メアリとエイミーが入ってきた。二人ともおそろいのパジャマを着ている。
「二人とも、似合うね」と玲子がいうと
「ありがとう。ママに買ってもらったの」
玲子はベッドの縁に座り、隣はメアリが座れるようにマルスもトリオもベッドの上でごろんと横になっていた。
「ここに座って」と玲子はメアリを促す。
「うん」と言ってメアリが玲子の横に座ると、エイミーは床の絨毯の上に座った。
「今日はありがとう」
「うん、私もメアリと遊べて楽しかったよ」
「あたし・・・」
玲子は無理に話の先を促そうとはしなかった。
「あたし、エスターが死んで、悲しくって・・・ でも、みんなが優しくしてくれて・・・ ひょっとして、エスターが死ぬことがわかっていて、パパとママはエイミーを連れてきてくれたのかな?」
「それもあるかもしれないけど、多分、それだけじゃない。パパとママはね、エイミーに妹か弟がいた方が寂しくないだろうと思ったのよ。マイクはちょっと歳が離れているし、それに照れ屋だからね。メアリには、ちょっと甘えにくいでしょ」
「玲子がお姉ちゃんだったらよかったのに」
「私はたまにはこうして遊びに来るよ。そうしたら遊んだりお話できるでしょ」
「うん・・・ あたしのところにエイミーが来て、エスターは寂しい思いをしなかったかな。死ぬ前に悲しい思いをさせちゃったのかな?」
玲子はメアリのほっぺをちょんと突っついた。
「それは考えちゃだめ。そっちの方がエスターが悲しむよ。ロボットはね、嫉妬はしないの。エスターはね、メアリとエイミーの幸せを願っていたと思うの。メアリとエイミーが仲良くしていて、幸せそうだったら、エスターはきっと幸せだったと思うよ」
「そうなの?」
「ロボットはみなそうよ。私とマルスが仲良くしていれば、ロビーもトリオも喜んでくれるし、私がトリオをかわいがっていれば、ロビーもマルスも喜んでくれている。お互いにみんなの幸せを喜んでいるの」
玲子はメアリの頬を両手で包む。
「メアリ、エイミーと仲良くしなさい。そうすればみんな喜ぶから。私もメアリがエミリーと元気に過ごしていればうれしい」
玲子は床に座っているエイミーに手を差し出す。
「いらっしゃい、エイミー」
「はい」といって、エイミーは立ち上がると、玲子の近くまで寄ってきた。玲子はメアリとエイミーを両手で抱きしめた。
「二人とも仲良くね。エスターもそれを願っているから。私も、パパやママもマイクも・・・」
メアリがちょっと涙ぐむ。
「ありがとう、玲子」
目をゴシゴシとぬぐってメアリは言った。
「やっぱり、玲子が私のお姉ちゃんだったらよかったのに・・・」
「私はお姉ちゃんのつもりでいるよ。一緒の家には住んではいないけどね」




