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第2章 負けられない

マルスが軍務に戻り、代わりにリョーカが学校へ来ます。二人のマスターである玲子とルイスは互いに相手を意識しているのですが。

「いってきます」

 玲子は居間でくつろぐ上原に声をかけた。

「いってらっしゃい。今日の夕ご飯は私が作るから、のんびり帰ってきていいからね」

「はい」と言って玲子は鞄をもって玄関へ。玄関先ではロビーが見送る。

「今日から、また、おひとりですね」

「ええ、ちょっと、寂しいわね。もうちょっとマルスと一緒に学校へ行きたかったな」

 マルスは今日から海軍での勤務が始まり、すでに敷島と出かけた後である。

「いってきます」

そんな玲子を見送り、ロビーは上原のいる居間に向かう。

「博士、お話があります」

「なにかしら、ロビー。とりあえず、お座りなさい」

 ロビーは上原の対面のソファに腰をおろす。

「昨夜、敷島博士とお話していたことですが」

「ああ、あれ・・・」

 上原はロビーの言いたいことを察した。

「マルスを軍に返して、新しいアンドロイドの男の子をリースすると言うことですが・・・」

「なにか、意見があるのね。言ってみなさい」

 ロビーは両手を組み話し出す。

「マルスが来て以来、お嬢様は私を頼ることが少なくなってきました」

 ロビーはしばし言葉を切る。

「さびしい?」

「いえ、喜ばしいことです。これはマルスがいたらこその変化であり、マルスがいなくなることを考えると、お嬢様のことが心配です。博士、私はお嬢様からマルスを取り上げることには反対です」

 笑顔を浮かべ、上原は答えた。

「安心しなさい。私も反対よ。第一、玲子が承知しない。いくら敷島さんでも、玲子が強固に反対したら、マルスを取り上げることはできないわ」

「しかし、お嬢様はご自分のこととなると遠慮されることが常です」

「そうね、そのとおりだわ」

 そういうと、上原はいずまいを正した。

「でもね、マルスのために譲らないと思う。マルスの気持ちを玲子が裏切ることはしないはずよ」

 ロビーは組んだ両手に視線を落とした。

「なるほど、そこまでは考えませんでした」

「だから、あえて敷島さんの考えを否定はしなかったの。やらせても、害はないから。新しい弟ができたら、その子のことも玲子はかわいがると思うからね」

「そうですね」

「でも、どんなアンドロイドでも、マルスの代わりにはなれないと思うけど」

「それはどういうことでしょうか?」

「ふつうのアンドロイドは、マルスみたいに懐くことはしないからね。マルスは玲子にとってちょうどよかったのよ」


 玲子は一人きりで歩きながら、一抹の寂しさを感じていた。

「もう少し、二人で一緒に通いたかったな」

 マルスと一緒に学校に通えたことは玲子にとって幸せだった。とはいえ、マルスは軍用アンドロイドである。軍の任務が優先されるのは当然のことなのだ。玲子は覚悟はしていたものの、理性と感情は別物であると痛感していた。

「おっはよう」と玲子は肩を叩かれ、我に返る。瑞穂だった。そばには弟の守もいる。

「おはよう」

「やっぱり、今日からマルスはいないのね」と瑞穂が言った。

「ええ、そう」

 守は

「今日から新しいロボットが来るって、マルスから聞いたけど」と言うと、

「新しい子は女の子よ。マルスと同じように人懐っこい子だから、マルスと同じようにかわいがってね」と玲子が返す。

「女の子なんだ」

「でも、活発な子みたいだから、男の子とでも一緒に遊べると思うわよ」

「玲子さんは会ったことがあるの」

「ううん、おばさんに聞いたの。おばさんは、その子の開発に関わっているから」

 ぱんと弟の肩をたたきながら、瑞穂は

「マルスと同じようにかわいがりなさいよ」というと、

「わかってるよ」と守が答えた。


 リョーカはマルスと同じように紹介され、マルスが座っていた席に着いた。隣に座ったリョーカをみて、守はマルスに似ていると感じた。髪や見た目の性別は違うが、顔つきはそっくりで、体格はほとんど差がみとめられない。

「同型なんだな」と守は理解した。姉に言われたこともあって守はリョーカを昼休みのサッカーに誘った。

「ちょっと、リョーカは女の子だよ」と一部の女子の抗議に、

「いいの!」と守は突っぱねた。実際、リョーカが喜んで誘いに乗ったので、リョーカは守たちとサッカーに興じた。玲子の言うとおり、少しおとなしいマルスと比べ、リョーカは活発な女の子だった。リョーカの蹴ったボールは結構鋭く、守や仲間たちを振り回すことになる。

「ちょっと、強く蹴りすぎたかな」とリョーカが聞くと、

「いいよ、このぐらい」と守の仲間が答えた。どちらかというとマルスより活発に動くリョーカは、マルスが抜けた寂しさを十分に埋めているようだった。

 昼休みの終わりに

「放課後は私たちとテニスをしようよ」と恵がリョーカを誘う。

「うん」とリョーカは返事をした。


「あっ、リョーカからメールが来た」とルイスがハンディを取り出して見る。打ち合わせの相手のサムが、

「へー、なんだって?」と聞く。ルイスは酸っぱいものを食べたような表情をして、

「玲子に会ったんだ・・・・」

 そんなルイスを見て、笑いながら、

「高等部の生徒と交流でもあったのか?」

「テニスを教えてもらったんだって、マルスのお姉さんは優しいって・・・」

「そうか、最近テニス部に入ったんだったけ」

「いろいろ教えてもらったって、あー、どうしよう」

 いぶかしげに、

「なにが?」とサムが聞く。

「リョーカが玲子に懐いて、あっちに行っちゃったらどうしよう」

 サムがあきれたように

「そんなことあるかあ」と言い放つ。

「だって、マルスはサムの所から玲子の所へ行っちゃったでしょう?」

 苦笑いしたサムは、

「あれは、俺が玲子のことを好きになっていいよと言ったし、いろいろ事情があって玲子の所へ預けたからね。第一、ノーマは玲子の所に行ってないだろ?」

「それもそうか・・・」

「ルイスは玲子を意識しすぎるよ」

 ルイスはちょっと険しい顔をして

「だって、負けたくないわ。マルスは玲子に預けられてから性能が上がったでしょう?」

「不調だったリョーカを一瞬で立て直した実績がルイスにはあるだろう。玲子に負けない実績だと思うがな」

 ルイスは返事をしなかった。

「リョーカはルイスに懐いているさ。そうでなきゃ、玲子に会ったことをルイスに報告したりはしないさ」

「そうなのかな」

「わざわざメールで知らせてくるなんて、一番大事な人に報告したくなったんじゃないか」

 

 夕食を終え、ロビーが後かたづけしているとき、テーブルを囲み3人で談笑していた。マルスはスクランブル待機ということで、今夜は帰らないということで、ここにはいなかった。

「今日はリョーカに会ったのよ」

「そう、どんな感じ?」と上原が聞く。

「そうね、マルスより活発で、おてんばかな」と、玲子が答えた。つづけて、

「リョーカって、マルスと同じ思考パターンなんでしょ」と、上原に聞く。

「そうね、元々は同じよ」

「私、マルスへの接し方がいけないのかな」

 それは、マルスがおとなしい性格であることを気にしていたからである。

「最近では、ちょっとはじけてきたんじゃないの」と上原が指摘すると、

「うん、ちょっとね」と右手の人差し指と親指を狭めながら言う。

「でも、リョーカの方が元気いっぱいという感じがする。リョーカのマスターって、あのルイスさんなんでしょ?」と、玲子はダグラス家のパーティで会ったルイスのことを覚えていた。

「すごいなあ、どんな接し方をしているんだろう」

 おもしろそうに上原が、

「玲子、いいこと教えてあげる」

「なに?」と素直に玲子も身を乗り出す。

「ルイスもね、玲子がどうやってマルスと接しているんだろうって気にしているの」

「はい?」

「いい意味で、玲子をライバルだと思っているの。玲子に負けないくらい、リョーカを大事にしようってね。でも、私が思うに、玲子とルイス、どちらも優劣をつけがたいと思うけどね。正直、あんたたちの相談事を聞いてるとおかしいくらい・・・」

「そうなの?」

 玲子には意外な話だった。

「玲子が好きなようにかわいがりなさい。それで、ぜんぜん問題ないから」

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