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第17章 クーデター

連邦大統領と新体制の連邦軍司令部要員を狙うクーデターを察したプレスト海軍は、スコット司令とマルスを送り込む。マルスは大統領護衛のマーサとともに、敵ロボットと対峙する。

 リョーカとゼムは訓練スペースで模擬戦を行っていた。マルスはすでにゼムを圧倒する実力を持つが、リョーカはまだゼムと互角だった。

「だいぶ、腕を上げたな、リョーカ」

 動きを止めたゼムが、ライトセイバーを止めた。リョーカもライトセイバーを止めて、がっくりと肩を落とす。

「やっぱり、この型ではだめなのかな・・・」

 リョーカはアトスの戦い方を受け継いでいた。

「アトスの型は悪くないよ。ただ、私と戦うときは不利になるな。あれは力を主体とする戦いかただ。人間相手ならともかく、力で私に敵うはずがないだろう。だが、ブラックタイタンでの戦いでは使えたはずだよ」

「それは、そうだけど・・・ マルスのプロメテウスの制御はもっとすごかったし・・・」

 ゼムは首を振った。

「それは、プロメテウスだからだ。プロメテウスはブラックタイタンとは違う。力よりスピードがものを言う。そう、リョーカは力より、少しスピードにリソースを振ればよいと思うよ。アトスの型でも、かなり有効なはずだ」

 リョーカはセイバーを構え直す。

「なんとなく、理解できたから、もう一回、お願いできる?」

「焦る必要はないぞ、リョーカ」

「早くマルスを手伝いたいの」

 リョーカは真剣だった。

「わかった、つきあう」


 プレスト海軍のロボット機「ミネルバ」は、ライトニングファントムのロボットを乗せた輸送機を引き連れ、一路、ソプラノシティを目指していた。ライトニングファントムは、リヨン連邦大統領からの招聘をうけたスコット司令の護衛が任務であった。しかし、真の目的は、ソプラノシティで行われるリヨン大統領と、新しく編成された連邦軍司令部との会談の時を狙うクーデターに対抗するためである。むろん、この真の目的を知るものは、リヨン大統領と連邦軍司令部のメンバー、そしてプレスト海軍司令部要員のみであった。

「テロを誘う餌としては上等と思わんか?」といたずらっぽい笑みを浮かべてスコットは言った。対するサムは苦笑いだ。

「たしかにそうですが・・・ 」

「当日、君には別のミッションがある。ノーマと一緒に頼む」

 サムは頷きながら、答えた。

「わかっています」

「私のことは心配ない。そばにはミラがいるし、マルスもいる」

「ライトニングファントムの中でも精鋭をそろえましたので、これ以上のことは望めません」

「いや、十分だよ。どのみち、リヨン大統領の新しい連邦軍司令部は狙われているのだ。ここで、できることといえば、ライトニングファントムを投入するしかない。むしろ、同時多発的にテロを起こされるより、目標を集めて防護した方がやりやすいという西郷の意見には賛成だ」

「情報部の情報だと、ほんとにテロロボットを潜入させているのが驚きです。手引きしている旧体制派の軍人もモニターできてますし、迎撃できれば、いい結果になりそうです」

「そのあたりは期待している」

 スコットはふと言葉を切り、そして感慨深く言った。

「それにしても、ここまで来たかという感じだな」

「そうですね」

「体制を整え始めて5年、亡霊作戦を始めたのはつい半年前だというのに、もう最終局面まで来た。君が軍に復帰してくれて、ファントムの基盤を整えてくれたことには、感謝している」

「私より、西郷中将の功績が大でしょう」

 スコットはわずかに笑みを浮かべる。

「川崎さんから、第7艦隊の司令候補にエドワーズではなく西郷を推挙されたときは、耳を疑ったが、なかなかすごい人材を紹介してもらったものだ。エドワーズも西郷に信服していたことにも驚かされたが、実際、手際の良さときたら、神がかっている・・・ 私も意義のある仕事ができることに満足しているよ。とにかく、ガバメントを潰す。もう一息だ」


「マルス、今頃、何してるかしら」

 食事のあと、お茶を飲みながら玲子は言った。誰かに問いかけたというわけではないが、上原が答える。

「リヨン大統領とスコット司令の会談の警備の準備をしていると思うわ。正念場だからね」

 玲子は小母を見ていった。

「やっぱり、何かあるのね?」

「何もないのに、マルスが出撃するわけないでしょ。マーサもいるのに・・・」

「そこまで、わかるのね。だから、テロを防ぐことができるのね」

「でも、そこまでできるようになったのは、つい半年前、アルトシティでの迎撃作戦の時からなの。それでも、守れない命はある。最近のピースキーパーのテロに被害なく対処できたのはフォルテシティとロンドシティ、アルトシティにプレストシティだけよ。その4つのシティはプレスト海軍の情報局の情報を受け入れたからね。そのシティの当局が動かなければ、テロを防げないから」

 玲子はぎゅっと口を結んだ。

「玲子、アルトシティはほんとにすごかったのよ。プレスト海軍の情報局からテロの標的になっていると聞いて、アルトシティ防衛軍はプライドを捨てて、プレスト海軍の援軍を受け入れたんだからね。メンツにこだわってたらできないわよ。トマセッティ司令はすごかったの。ただ、そんなことができるのは、ごくまれなの。残念だけどね」

「マルス、大丈夫かな」

「大丈夫よ。伯父さんと小母さんの分析では、今度の敵はマルスより低レベルの敵だから」

 玲子はいぶかしげに聞く。

「そんなこともわかるの?」

「もちろん。マルスは想定される敵ロボットに対抗するために作られたファントム最強のロボットなの」

 沈黙を保っていた敷島が初めて口を開く。

「それは、私も保証する。マルスは敵のロボットに負けることはない。圧倒的な性能の差があるからな。だから、心配するな。それに、マルスのほかにライトニングファントムの精鋭も行っている」

 敷島はそこでにやりと笑った。

「もっとも、素人は精鋭とは思わないだろうがな」

「J9タイプのロボットをみて、精鋭とは普通、思えないでしょう」と玲子も返した。マルスの設計ベースとなっているJ9のことは玲子も知っているが、子供の体格でしかないロボットが強いとはとても思えない。フォルテシティやロンドシティが相次いで最新型としてJ9タイプのロボットを採用しているが、世界では少なからず批判されている。ただ、玲子は学校を襲った武装テロリストから、無傷で守り切ったロボットの半数がJ9タイプのロボットと知っているので、偏見は持っていなかった。

「いずれにせよ、ライトニングファントムの中でも最強レベルのロボットが派遣されているんだ。あまり心配しなくていい」

 普段、聞くことが少ない、自信に満ちた敷島の言葉は、玲子の心を落ち着かせた。


 大統領官邸の会議室にはリヨン大統領と連邦軍の新体制の司令部要員とスコット司令が顔を合わせていた。司令部要員たちは少々、落ち着かない。マーサとマーサにそっくりの女の子が警備体制について説明しているからだ。あまりに外見のギャップが激しいから、戸惑うのは無理もないとリヨンは思った。

「不明のトラックが3台、官邸にむけて走っているのが確認されています。サイズからすれば人型戦闘ロボットが30体ほどと思われます」

 リヨンはマルスの本来の姿を知っているが、今、目の前のマルスは、以前、自分たち家族を守った女の子の姿をしている。正体を知られないための配慮であるとリヨンは察した。

「官邸を守るロボットは50体をこえます。上空も戦闘機が警戒してますのでご安心ください」

 女の子たちはお辞儀をして、退出した。

「スコット司令、あんな子供のようなロボットで大丈夫なのですか?」

 プレスト海軍が送り込んできた30体のロボットはすべてJ9タイプのロボットで、小さな子供のようなロボットである。不安がるのは無理もないとスコットは思っていた。

「大丈夫ですよ。あれでもファントム最強レベルのロボットたちです。信頼は裏切りません」

 同席していたボイド大佐は場の雰囲気を和らげるように言った。

「あのタイプのロボットは、フォルテシティ、ロンドシティ、アルトシティが優先的に配備してますな。彼らはJ9タイプの性能を理解していると言うことですね」

「そうです」

「では、我々もお手並みを拝見と言うことにしましょう」

 ボイドは一息おいてから続けた。

「プレストシティはここ数年、テロをほとんど完璧に制圧してきました。テロ実行犯は一人も殺していないのに、実行犯は逮捕され処刑されてきた」

 スコットは無表情で答えを返した。

「連中はファントムを相手にして殺せなかっただけです。だが、無差別に殺す意思はあった。それだけでも死に値します」

「そう、それには私たちも異存はない。テロリストに対する姿勢は連邦宣言にもある。だが、人間のテロリストと戦うには、ファントムのロボットはあまりにも高性能過ぎると我々は感じていた。あなた方はテロがロボットに移行することを予想していたのですか?」

「プレスト海軍が結成されたときから、いずれはロボットがテロの主体となるだろうという予想はありました。しかし、我々より前に、ダグラスも同じ予想をしていました。だからJシリーズやソレイユたちのようなスーパーアンドロイドを開発していたのです。殺人ロボットに対する最後の盾となるロボットを開発する。それがダグラスの方針だったのです。我々、プレスト海軍はそれを活用したにすぎません」

 ボイドはなるほどと答えた。どこか人ごとのようにリヨンが口を挟んだ。

「例のトラックが到着したようだ」

 官邸の監視カメラが官邸前の道路にトラックが急停車し、バラバラとロボットが降りてくるところをとらえた。整然としたその動きは、よく訓練された兵士の動きだったが官邸の敷地に侵入したところで、次々と破壊されていった。しかしロボットを攻撃するものはカメラには写らなかった。何人かのロボットがグレネードランチャーを構えるが、あえなく破壊される。周辺の道路を歩いていた歩行者や一般車両を何人かの官邸警備のロボットが整然と止め、待避を促していた。

 マーサの姿をしたマルスは一体のロボットにあえて甘い攻撃を加えた。その攻撃はあっさりよけられ、相手のロボットがマルスを認識し、言葉を発する。

「なぜ、我々のじゃまをする」

「言葉を操るのか?」

「じゃまをするな!」

「それがわかれば用はない!」

 敵ロボットが叫んだ瞬間、マルスのライトセイバーは敵を両断した。マルスが本気になれば敵ではない。互いに連携するファントムのロボットにとって、孤立した行動しかとれない敵ロボットを倒すことなど、造作もなかった。


「なにが起きているのだ」

 会議室のモニターではロボットが次々と破壊されている様子が映し出されていたが、破壊されるロボットはとらえられても、破壊しているロボットをとらえることができなかった。

「これがファントムの実力か」と初めて目にするファントムの実力にボイドは驚愕した。騒ぎが収まるのに一分もかからなかった。会議に臨席していたミラは一言「制圧完了です」とスコットに報告した。

「敵のロボットの性能は確認できたか」とスコットが問うと、

「敵のロボットと会話ができました。やはり、自立思考型のロボットです。目標を破壊殺戮するためにだけに行動していることがわかりました」

「そうか・・・」

「スコット司令、今の話はどういうことなのか」とリヨンが聞く。

「敵のロボットが遠隔操作ではなく、自立した思考で動くロボットであると言うことです。命令された攻撃目標をひたすら自発的に攻撃するロボット兵器だと言うことです」

 一瞬、会議室の空気が冷える。

「100年前のロボットの暴走が再び起きる可能性があるということです」


 戦いが終わって、後始末を部下のロボットに頼み、マルスとマーサは官邸に入った。歩きながら、

「やっぱり、マルスはすごいわ」とマーサは言った。

「マーサの市民誘導は完璧だったよ。戦いながらよくやったよ」

「マルスが敵への対応を引き受けてくれたからできたのよ。あたしにはマルスのように完璧にはできないわ」

「だから、ぼくが来たんだよ。ぼくだって、市民の誘導をしながら戦ったりはできないよ」

「相手のロボット、あたしたちの同じように、意思を持つのね」

「うん、生まれて起動した瞬間に敵を認識して攻撃するだけのために存在するなんて、かわいそうだけど、同情は禁物だね」

「マルスが戦った大型ロボットもそうだったの?」

「うん、これで確信が持てた。サムとノーマもミネルバの中でモニターしているはずだから、もっといろいろなことがわかったと思うよ」

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