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第15章

3機の新型ロボットによる侵攻。この事実を重く見たプレスト海軍は新たな作戦に乗り出す。

 第7艦隊司令の西郷は、エレクトラの操縦する連絡機で、プレスト海軍司令部に戻ってきた。重要な戦略会議の為、通信を介するのは危険と判断されたためである。会議は高野長官を始め、スコット司令、ファントムの責任者であるサム、嘱託である上原、そして、ルーナとマルスが集まっていた。

 一連の報告を聞き、高野はサムに改めて確認した。

「今回の侵攻機はどこから発進したのか、判明していないのか」

「残念ながら、判明していません。ラルゴシティは重点的にマークしてましたが、一般の航空機の離陸に紛れたようで、識別はできていません」

「事前の兆候は」

「ありました。警戒態勢をしいていたのはそのためです。ですから、十分に計画された攻撃だと思います」

 高野は天井を仰いだ。

「一方的にやられっぱなしか・・・ 正体不明のテロを迎撃するしか打つ手がないのか・・・」

 サムは続けて答えた。

「ラルゴシティがテロを実行しているという確たる証拠があればいいのですが、先のフォルテシティの襲撃も、でっち上げだと開き直ってますし、今回は発進した瞬間をとらえられていないので、お手上げです」

 サムはディスプレイにデータを表示させた。

「それより問題だと思われるのは、今回の攻撃は、これまでにない新型のロボットが投入されたことです」

 表示されたものはホーネットやプロメテウスが撮影したデータを元にモデル化されたものだ。細長いボディに腕が取り付けられたようなロボットで、足はなく、人間が乗るコックピットすら確認できないものだ。

「ボディのサイズから有人操縦型ではないでしょう」

「純粋なロボット兵器というわけか」と高野は問い返す。

「そうです。それもかなり高度な自立性能を持ちます。人間の遠隔コントロールではあり得ません。ホーネットもかなり苦戦してますので、ブルーファントムのレベルでは対応が困難かもしれません」

「今回、マルスが迎撃したことは幸いだったか」

「正直、基地の司令部ではリアルタイムで把握できないほどの戦闘でした。マルスの指揮管制に移行したところで、形勢はかなり優位になりましたので、ブルーファントム単独では対応が難しくとも、ライトニングファントムとの混成運用であれば、何とかなると考えます」

 高野は上原に視線をむけた。

「上原博士の考えを伺いたいですが」

 上原は高野の要請をうけて、敵ロボットの分析を行っていた。

「そうですね、単体のロボットの能力で言えば、ブルーファントムクラスの判断力と思考力を持つロボットであると推定されます。従って、ブルーファントムのロボットが単独で戦う場合には、互角の戦闘となり、それなりの損害を被るでしょう。ダグラス大佐のライトニングファントムのロボットとの混成運用というのは有効な手段だと思います」

「なるほど、やはり戦力の再編が必要だと言うことですか・・・」

 上原は言葉を継ぐ。

「それが、今時点では最善かと思います。しかし、ほかにも問題があります。マルスは戦闘時に敵のロボットに強い破壊衝動を感じたと報告しています。これは敵のロボットが強い破壊衝動を組み込まれて作られているという可能性を示しています。スミス博士のポテンシャル理論に基づき、ダグラスのロボットが人間を守るという強い衝動を組み込まれて、性能を向上させているのとは対照的です」

 ポテンシャル理論の悪用と聞いて、会議室内は静まりかえった。

「そんなことが可能なんですか?」とスコット。

「理論的には可能です。ただし、運用する人間も殺戮の対象となりかねないので、運用にはかなりシビアなものがあると思われます。完全な無人運用なのも、それが理由かもしれません。おそらくは、整備や発進準備段階では人工頭脳を休眠させておいて、目標近くで起動という運用なのでしょう」

 ずっと黙っていた西郷が発言の許可を求めた。

「マルスに一つ確認したいのだが、アルトシティ攻防戦で戦った無人型ドラグーンと、今回のロボットの明確な違いは、強い破壊衝動だけかい?」

「明確に反応速度の向上がありました。無人型ドラグーンにもホーネットは苦戦してましたけど、今回はもっと深刻です」

「マルスと比べたらどうなんだい」

「それほど脅威ではありません」

 西郷はにっこりと笑みを浮かべる。

「やはり、君を開発したことは間違いではなかったようだ」

 西郷は高野長官に意見を具申した。

「早急に、フォルテシティに敵ロボットの情報を提供し、十分に備えさせる必要があります。ラルゴシティに隣接するフォルテシティは直接脅威を受けます。念のため、ロンドシティ、アルトシティにも情報の提供をすべきでしょう」

 高野の表情が曇る。

「やはり、ねらわれるか」

「はい、彼らがもっとも優先するのはガバメント社の兵器の優位性を示すことです。それには、ローウェル社製の兵器を打ち負かす実績を作らないといけません。そのため、ローウェル社系の兵器システムを使っているシティが標的となることは容易に想像がつきます。マルス、もしくはJ9級のロボットの実戦配備が急務です。それから、フォルテシティ及びロンドシティと共同の哨戒ネットワークの構築をしたいと思います。プレスト海軍情報局の哨戒網だけでは足りません」

「わかった、両防衛軍には協力を打診しよう。ほかに我々にできることはないか」

「ロンドシティの第3艦隊と我々の第7艦隊でラルゴシティに軍事的圧力をかけたいと思います。セレクターズを失い、第1艦隊と第2艦隊を失ったラルゴシティは丸裸にされたのも同然です。そこに威力偵察を兼ね、軍事的圧力をかけて相手の出方をみたいと思います」

「その場合、艦隊はおとりか?」

「そうです。とはいえ、第3艦隊と第7艦隊の装備は新型のテロロボットに対して、有効に対処できるレベルはありますので、問題はありません」

「わかった、ロンドシティに相談してみよう」


 サムはマルスを連れて敷島家を訪れていた。敷島と上原はファントムのロボットの戦力再編の検討のため、帰りが遅くなりそうだったので、少しでも早くマルスを家に帰すためだった。玲子はお茶でも飲んでいってとサムを誘う。マルスは1週間ぶりに会えた玲子に抱きつくと、しばらくはそばを離れようとしない。(やっぱり、玲子には敵わないな)とサムは思った。現場ではサムがマルスのケアをしているが玲子には及ばない。

 サムをリビングに迎えると、「ノーマはどうしたの」と玲子が聞いてきた。マルスが玲子にくっついているので、トリオがお茶を入れる準備をしている。

「しばらく、手一杯でね、ノーマは仕事だ。ロボットはタフだよ。エネルギー補給のみで、24時間、働いてるんだ」

「この前のテロが原因なの?」

「そうだね、情報処理とシミュレーションにかかりっきりだ。マルスの戦闘ログを解析するだけでも、かなりの作業量なのでね、解析が長引いて、マルスの帰宅が1日遅れたのは、すまなかった」

「やっぱり、マルスとプロメテウスはすごかったんだね」

「ああ、リアルタイムで解析ができなかったほどにね。マルスの指揮管制は完璧だったよ。玲子もあの戦いをモニターしてたんだろ」

 玲子は何ともいえない笑みを浮かべた。

「よく、わからなかったわ」

「おれもだよ。司令室にいたが、さっぱりだった。気がついたら巡航ミサイルが30機撃墜されていて、敵のロボットも3体撃破されていた」

 トリオがティーセットをテーブルにおくと、玲子はマルスをそっとはなし、沸かしたお湯をティーポットに注ぐ。

「いい香りだ」とサムが言った。

「マルスとプロメテウスはそんなに活躍したの?」

「ああ、すごかった。戦闘ログを解析すればするほど、二人のすごさがよくわかる。マルスはよくやったよ。よくやったご褒美に、今夜はいっぱいマルスをかわいがってくれ」

 マルスはきょとんとした顔でサムを見、そして玲子を見上げた。玲子ははにかんだような笑みを浮かべて、

「みんな、そういうの。マルスをかわいがってくれって。ソレイユも、ゼムも、プロメテウスもいうのよ。でも、私にとって、マルスをかわいがることは、楽しいことなんだけどね」

「いいじゃないか、玲子が楽しいことなら、なおさらだ」

 玲子はカップに注いだ紅茶をサムにすすめる。

「ありがとう。しかし、なんだ、マルスはほんとに玲子になついているな。本音を言えば、さっさとマルスは退役させて、玲子のそばにいさせてやりたいのだが、マルスはファントムにとって欠かせない戦力になっているので、そうもいかん」

 退役させるという言葉を聞いてマルスは、

「ぼくは、お姉ちゃんやみんなを守りたいの。退役はしたくない」と言った。

「気にしないで、私は平気だから。それに、今はトリオもそばにいてくれるし・・・」

「今後、しばらくはマルスやリョーカを超えるロボットは出ないだろうと上原博士も言われている。その奇跡を起こしたのは、玲子なんだ。ファントムの指揮官としては、感謝している」

 玲子は首を振った。

「そんなこと言われても、実感がないわ。私はマルスがかわいいだけだもの」

 サムはしばらく紅茶を楽しむように無言だった。マルスもトリオを黙ったまま、玲子とサムのそばに座っていた。

「この紅茶、おいしいな。玲子は紅茶を入れるのが上手だ」

「ありがとう」

「ノーマもだいぶ上達したが、玲子の腕には及ばない・・・」

「だめよ、ノーマに無茶を言ったら」

「無茶なんかいわないよ。ノーマなりに努力はしてるんだ。そこは認めないといけない」

 サムは内心、気まずいことを言ったと悟り、マルスを見ながら言った。

「マルスはな、いまのままがいいんだ。マルスが玲子のそばにいることが大事なんだよ。マルスは玲子に十分尽くしている。それは自信もっていい」

「ほんと?」

「玲子に聞いてみな」

 マルスは玲子を見上げた。玲子はマルスを見て、

「それはほんと、私はマルスがうちに来てくれたこと、感謝しているの。マルスが私に甘えてくれるから、私は幸せなのよ」

「よくわからない。ぼくはお姉ちゃんにいっぱいかわいがってもらっているけど・・・」

「わからなくてもいい。でも、マルスは私にいっぱい幸せをくれるの。私はマルスのこと、大好きよ。だから、いまのままでいて」


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