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第13章 ボイド大佐の来訪

連邦軍司令部の革新派、ボイド大佐がプレストシティへ訪れる。ボイドはプレスト海軍のロボット部隊「ファントム」を突き動かす小さな存在を知る。

第13章 

 連邦軍第2艦隊がが起こした連邦軍司令部の激震はすさまじかった。連邦軍司令部の主流派は、対テロリスト対策のための連邦軍艦隊の構築を主導してきた。しかし、その主流派がテロリストを利する存在であったと明らかになった。ロンドシティ防衛軍に拘束された第1艦隊司令部が、偵察映像の証拠を突きつけられ、テロへの荷担を認めるに至り、連邦軍司令部の主流派の面目は潰れ、失脚し、革新派「マフィア」の台頭は揺るがないものになった。

 マフィアの指導部の一人、ボイド大佐はプレストシティへ向かう連絡機の中で、ここ数週間の劇的な変化に考えを巡らせていた。

「第2艦隊が裏切り行為に至ったのは偶然か?」ということがボイドの胸に引っかかっていた。先に攻撃を仕掛けたのは第2艦隊であるのは間違いない。戦場を記録していた様々な偵察映像、フォースネットの戦闘記録からも明らかだ。しかし、不意打ちを食らったはずの第7艦隊には全く被害がない。第7艦隊の攻撃にさらされるセレクターズの潜水艦隊を救うため、第2艦隊が第7艦隊に攻撃を加えたというプレスト海軍の主張は理解できるが、「第2艦隊は罠にかかった」というのがボイドの結論だった。証拠がたくさんあることも、十二分に準備を整えていたということだろう。むろん第2艦隊が罠にはまり、ぬれぎぬを着せられたとは考えていない。テロへの荷担は事実だったのだから、正体を暴かれたというのが正しいのだ。証拠を集めつつ、最後にとどめを刺すパーフェクトなシナリオだ。誰が書いたシナリオかボイドには関心があった。

「スコット司令や川崎副司令ではないな。できれば首謀者と直接、話したいものだが」


 その望みは実現したとボイドは思った。プレスト海軍基地に降り立ち、最初に設けられたスコット司令との会談の場に、第7艦隊司令の西郷の姿を認めたからだ。一通りの挨拶のあと、スコット司令がボイドの来訪を歓迎する言葉を述べた。

「遠路はるばる、お疲れさまでした。ようこそ、プレスト海軍司令部へ」

「プレスト海軍という呼び名もあとわずかでしょう。近いうち、プレスト防衛軍となりますからね」

 最初からそのつもりだったのだろうか? 6年前に成立した現プレストシティ政権は、プレスト防衛軍から海上部隊を独立させてプレスト海軍を設立した。陸海空軍を統合するという連邦軍の防衛軍構想に逆行する動きではあったが、強大な戦力をもつ戦闘艦隊を管轄するにふさわしい人材をプレストシティ政権は集めたのだ。それほど大胆な政策を実現しうるほど、当時からプレスト防衛軍の凋落は明らかだった。そして、先の攻防戦から、その判断が正しかったことが明らかになった。テロに加担した旧プレスト防衛軍は解体され、テロに荷担したものは逮捕された。そして、プレスト海軍が新たなプレスト防衛軍として生まれ変わることになる。

「我々は、我々の仕事をするだけです。組織の名など、どうでもよろしい」とスコットは答えた。

「今回、第7艦隊が、第2艦隊を殲滅したことは連邦軍司令部は支持します。第2艦隊は明らかにテロに加担し、第7艦隊を攻撃してきた。テロリストに容赦は無用です。また、ご存じのように、第1艦隊のテロへの加担も明らかになりました。こちらはロンドシティが第1艦隊の司令部要員を逮捕し、テロリストとして処罰する方針です。連邦軍司令部としては、地道な証拠収集を行ってきたプレスト海軍、およびロンドシティ防衛軍に感謝するところです」

「お役に立てて、光栄です」

「しかし、今後のことも考えねばなりません。第1艦隊と第2艦隊を所管していたラルゴシティは、テロへの加担には無関係だったと主張しています。しかし、艦隊司令部の人事を握っていたのはラルゴシティであり、無関係と主張されても信じがたい。加えて、先のフォルテシティの襲撃はラルゴシティのガバメント社が絡んでいることもプレスト海軍の偵察機がつかんでいます。彼らはでっち上げだと主張していますがね」

「そうでしょうね」とスコット。

「それで、ラルゴシティがテロの黒幕として、今後、どのような行動にでるのか? 我々としてはどのような体制で迎え撃つべきなのか? あなた方はどのように考えているのですか」

 スコットは西郷の発言を促した。

「第7艦隊司令を務める西郷です」

(やはり、この男が首謀者か!)とボイドは思ったが顔には出さなかった。

「ラルゴシティがどうでるかは、プレスト海軍情報局が探っているところですので、まだ、可能性を論じる段階に過ぎません」

「それでも結構です」

「セレクターズの戦力および第1艦隊、第2艦隊を失ったいま、ラルゴシティが実行しうる実力行使は局所的なテロリズムでしょう」

 ここで西郷は一拍おいた。ボイドは西郷の発言を促す。

「局所的なテロリズムとは」

「現在、ピースメーカーという平和団体がテロを実行し、民間の警備ロボットに鎮圧されるという事例が多発しています」

「確かに・・・」

「鎮圧しているロボットはガバメント社の影響がある警備会社および、ガバメント製のロボットです」

「なるほど、出来レースか。それで?」

「従来はラルゴシティはセレクターズを使って不安をあおり、軍事的需要を生み出し、供給を独占していたわけですが、その独占を阻む動きを潰さねば、利益を享受できません」

「リヨン大統領や私たちは、その障害になり得るのか」

「そうですね。まずはリヨン大統領の排除。そしてマフィアの排除が行われ、ガバメント傀儡の政権および軍幹部の擁立がはかられるでしょう。そして、ガバメント社のシェアに食い込むローウェル社とダグラス社の排除でしょうね」

「リヨン大統領の暗殺の可能性があるのか」

「はい」

「それで、最新鋭のアンドロイドとロボットを送り込んだのですか」

「むろん、リヨン大統領の意思でもあります」

 ボイドは率直な印象を口にした。

「あの、子供のようなロボットに、それほどの力があるとは思えませんが」

「リヨン大統領は間近に活躍を見ていますので、そうは思ってはいません」

「確かに、大統領は彼らを信頼しています。あなた方のファントムを指揮するロボットは子供の姿をしたアンドロイドですね。あの大統領を暗殺から守ったアンドロイドとは会えますか?」

「会ってどうなさいます」

「好奇心ですよ。会って話をしたい」

「ソレイユとなら会わせられますが」

「マーサとは」

「それはできません」

「そうですか・・・ それは、残念です」

 

「レナ、今日は学校はいいの?」とマルスが聞くと、レナは微笑んで、

「連邦軍司令部の軍人が私に会いたいんだって。それで、学校を休んだの」

「ソレイユとしての役割なんだね。大変だね、レナも」

「こればっかりは、ルーナにはできないからね。でも、マルスも私と一緒に会うように言われてるでしょ」

「そう・・・ 何なんだろうな」

「まあ、秘密を守ってくれる人なんだろうとは思う」

 二人の後ろにはゼムとJ-9タイプのロボットがついてきている。レナはおぼろげながら、リヨン大統領に送り込まれたロボットの見分ではないかと考えていた。


 ボイドはレナとマルスと面会した。レナはソレイユと姿形がそっくりなため、何の疑いもなく、ソレイユとして受け入れた。傍らに立つ男の子であるマルスに対しては、既視感を感じていた。そして、なんとなく、その男の子がマーサだったのだなと理解した。

「君はマルスと言ったね」

「はい」とボイドの問いにマルスは答えた。

「マーサは君と同型のアンドロイドなのかね」

「そうです」

「君は後ろの大きなロボットと、同程度の戦闘力があるのか?」

「はい、同程度の戦闘力を持ちます」

 マルスの答えに、ゼムは口をつぐんだが、同席していた川崎が

「マルスはゼム以上の性能を持ちますよ。最新型なんですから」と言った。

「なるほど、最新型ほど小型だということですか」

「そうです」

「しかし、常識に反する。が、反するのが良いのかもしれない」

「どう考えるかは自由です」と川崎が言った。

 ボイドは率直に聞いた。

「ソレイユやマルスは何のためにテロリストと戦うんだね。命令されているからかね」

 ソレイユはマルスを一瞥し、そしてボイドに向かって答えた。

「命令じゃありません、友人のためです。私の友人はテロを嫌っています。私は友人のためにも、テロを許せないんです」

 ボイドはマルスにも、

「マルス、君もか?」

「ぼくは・・・ マスターのためです。マスターがテロを嫌っています」

 さすがにボイドは、二人が言う人物が同一人物だとは気づけなかった。

「ソレイユは人間を憎んでいないのか」

 ソレイユショックのことを知るボイドが疑問をレナにぶつけた。

「いやな人間ばかりじゃないことは理解してます」

「それでも人間を守ってくれるのか」

「正確に言えば、私の友人の願いを叶えたいんです。テロで泣く人がいなくなるようにという願いです」

「君はそんな理由で人間を守ってくれるのか?」

「私だけじゃないですよ。ファントムのロボットのほとんどが私の友人をマスターとして認証しています。ほぼ、例外がいません。私たちは彼女の願いを叶えたいのです」

「その・・・ 君の友人というのは、マルスのマスターと同一人物なのか?」

「そうです」

 ボイドは振り向いて川崎に聞いた。

「あなた方は、このことをご存じの上でファントムを使っているのですか?」

「もちろん、知っていますよ。ソレイユをファントムのリーダーとして定めた時から、その事実は変わりません。正直いえば、ソレイユ以外のファントムのロボットたちが、こぞって彼女をマスター認証したのは驚きでしたが、実用上、なんの問題もないばかりか、ロボットたちの性能も向上しますのでね。私たちの技術的な顧問をしてくれているダグラス社の技師も問題ないと言っています」

「彼女にもしものことがあれば・・・」

「もしものことがないように、ファントムはシティを守るのですよ。それに、ダグラス社もソレイユがらみで彼女のことを見守っています。我々もできる限りのことをしてますが」

「彼女とは、軍人ではないのですか。ひょっとして、リヨン大統領が秘密裏に会談したという女の子ですか?」

 こともなげに川崎は答える。

「そうです」

 ボイドは首を振った。

「私には、あなた方がずいぶん危うい橋を渡っている気がします」

「我々が意図してしたことではない。結果としてそうなっただけで、ロボットたちの自由な意志を曲げることはできません」

「たった一人・・・ たった一人ですか?」

 ソレイユがボイドに言う。

「たった一人ではないですよ。私たちは複数のマスターを持ちます。彼女が唯一の存在ではありません。ただ。ほとんどのロボットが私の友人をマスター認証しているだけです。彼女の願いを叶えることが、私たちの共通の願い。ただ、それだけです」

 ボイドはファントムのロボットを突き動かす強固な意志を感じた。

「マーサはこれほどの意志をもって、リヨン大統領を守ってくれるのか」と、ボイドはマルスに聞いた。

「ぼくの感じるところでは、リヨン大統領ご一家は優しい人です。マーサはリヨン大統領とそのご家族を全力で守ると思います」

 ボイドはその言葉を信じることにした。マルスの言葉は真摯なもの、そう感じたからだ。

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