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第11章 お帰りマルス

セレクターズの大規模な攻撃を防ぎきったプレスト海軍。しかし、防衛軍がテロに加担した事実は世界に衝撃を与えた。一方、大破したマルスを玲子は気遣う。

 その日のプレストシティは、10機をこえるドラグーンの襲撃と、防衛軍と第2艦隊がテロリストに加勢したという事態に大きな衝撃をうけた。脱出に失敗し、拘束された防衛軍職員の自供も得られたことで、防衛軍がドラグーンと呼応し、プレストシティへの攻撃を計画したことも明らかとなった。

 過去に例がない大規模なセレクターズの攻撃を、プレスト海軍が迎撃し、シティにはなんら被害がなかったことは、プレスト海軍の名声を高めた。その反動として防衛軍に対する非難は激しさを極め、過去に生じたテロリストの攻撃による被害が、防衛軍の手引きであることも疑われ、特に司令部要員が家族とともに政府専用機で脱出を図った事実は、火に油を注ぐ結果となった。投降したプレスト防衛軍職員は防衛軍基地に拘置され、順次、テロ対策部の取り調べを受けることになる。


 一方、玲子はサムと上原にマルスが大破したことを聞かされた。戦闘用ロボットである以上、覚悟していたとはいえ、やはりショックは隠せない。

「すまなかった。マルスは俺が乗るドルフィンを守ろうとしたんだ。それで・・・」

「謝らないで! サムに何かあっても私はいやよ!」と玲子は努めて冷静に答えた。上原は何とか玲子を安心させたい一心で言った。

「でもね、マルスは直るから。人工頭脳は無傷だったの。修理にはすごく時間がかかると思うけど」

「どのくらい?」

「ダグラス社には部品のスペアが足りないから、新しく作るとして2ヶ月くらいかな」

「マルスとは話せないの?」

「人工頭脳だけの状態で覚醒させることは危険なの。人格に悪影響を与えるかもしれないから。人工頭脳の無事を確認したこともギリギリなのよ。だから、我慢して」

 玲子は納得はしたものの、疲れたと言って部屋に引きこもってしまった。上原がトリオに玲子のそばにいるように言い含める。

「玲子、大丈夫ですかね」

 帰り際、サムが玄関まで送ってくれた上原に聞いた。

「大丈夫だとは思うけど、とにかく玲子のことは私に任せておいて。今にして思うと、トリオがいてくれて良かったかもしれない」

 サムは黙って一礼すると、帰って行った。サムには今すぐ軍人としてやらねばならないことがある。


 サムは基地に帰ると戦闘に伴う損害の報告を作成した。マルスが搭乗していたドルフィン1機、そして、3機のホーネット。いずれもサムが乗るドルフィンが集中攻撃を受けたとき、撃墜されたものだ。マルスがサムを守るために行動したことは想像に難くない。報告をまとめているサムのもとへ、ルイスとリョーカがやってきた。

「玲子の様子、どうだった?」

「ショックを受けてたよ。マルスがこんなことになるなんて、覚悟はしていたかもしれないが、実際は受け入れられないだろうな」

「あたしが行けば良かったのかな?」とリョーカがしんみりと言うが、

「配置を決めたのは俺だ。リョーカが気にすることじゃない。それにリョーカはドルフィンの扱いになれてない。マルスとリョーカの役割はあれしかなかったと思うよ。問題だったのは俺があそこにいたことだよ」

「それは、結果論でしょ」と、ルイスが反論する。たしかに、サムがいなければ、マルスもノーマも違った行動をとっただろうが・・・ それはサムにも解っていた。

「そう、結果論だ。だが、今後は考えないと行けないな。それにしても、2ヶ月・・・ マルスなしでしのげるか・・・ リョーカ1人じゃ、負担が大きすぎるよな。新しいマルス型アンドロイドの納入は1ヶ月先、すぐにマルスのように戦えるとは期待できないし」

「あたし、学校辞めて、がんばるけど」

「そうしないと、いけないかもな。リョーカにはもう少し学校に通ってほしかったが・・・」


 敷島はマルスの状態を長官の高野と副司令の川崎に報告していた。司令のスコットは連邦軍への報告のため、この場にはいない。

「で、どうなんですか、敷島博士」と高野が聞くと

「人工頭脳以外、すべて、だめです。一から新造しないといけません。スペアパーツが足りない、この状態ではお手上げです。パーツの生産が完了するまで、2ヶ月はかかります」

「そうか・・・ 2ヶ月か・・・ それは痛いな」と高野の声も沈む。一同がどうしようもない状況に打ちひしがれているときに、スミスはぽつりと言った。

「ここは海軍に決断をお願いしなければいけませんが、現在、ローウェル社で製作中の、マルス型アンドロイドやJ9型メタロイドの部品を融通してもらえば、何とかなるかもしれません。あっちには量産ラインが有りますから、部品は我が社よりもそろっているはずです」

 おう、そうかという空気が流れた。そもそも、マルス型アンドロイドも、その同じフレームを共用するJ9タイプのメタロイドもローウェルに量産ラインが有る。

「我々の決断とはなんですか」と川崎が聞く。

「プレスト海軍への納入契約です。多少の遅れと部品の発注については調整が必要でしょう」

 高野が川崎に視線を向けると、

「調達部門に話を付けさせます。この際、1ヶ月後のマルス型アンドロイドの納入を先延ばしにするのもやむを得ないでしょう。マルスの修復が優先です」と川崎が即答した。

「そうだ、そうしてください、川崎さん」

 それを聞いたスミスは、

「ローウェルには私の知己がいます。時差の関係で、これからローウェル社が動き出します。私が調整しましょう。敷島君は足りない部品のリストを頼む」

「わかりました」


 ラルゴシティが所管する連邦軍第2艦隊がテロに加担した事実は、連邦政府と連邦軍司令部に衝撃を与えた。司令のスコットは連邦軍司令部と連邦政府への報告に忙殺されていた。ラルゴシティからは、第2艦隊の全ての艦艇を撃沈したことに抗議を受けたが、テロリストに荷担した事実をもって、抗議を一蹴した。これには連邦政府もラルゴシティの抗議を無効と認め、テロリストに荷担した第2艦隊の殲滅を是と認めた。複雑な立場であったのが連邦軍司令部である。連邦軍司令部も第2艦隊がテロリストに荷担したことに対し、なにも反論できず、うろたえるばかりだった。そもそも、連邦軍はテロリストに対抗するために戦闘艦隊の整備の方針を立て、世界のシティに戦闘艦隊の結成と維持を打診していた。その構想を提出したのは第1艦隊と第2艦隊を所管するラルゴシティであった。そのラルゴシティが所管する第2艦隊がテロリストに荷担した事実は、連邦軍司令部に重くのしかかっていた。連邦政府のリヨン大統領は、第2艦隊とおなじくラルゴシティが所管する第1艦隊に、無期限の行動停止を命じた。この命令により、第1艦隊はロンドシティの軍港に係留され、乗組員は監視下におかれることとなった。これにはラルゴシティの反発があったが、第2艦隊が明確にテロリストに加担した事実がある限り、覆すことはできなかった。さらに、リヨン大統領は連邦軍司令部の人事を大幅に刷新するとの方針を示した。これは旧来の体制がテロリストに加担するという不祥事を生んだという考えから、組織を改革する必要性を説いたものだった。これは連邦軍の改革派「マフィア」にとっても追い風となった。

 その「マフィア」派の中核であるボイド大佐がリヨンの元を訪れた。ボイドは手にしたタブレットからリヨンのデスクのディスプレイに情報を転送する。リヨンはその情報に驚きを隠せなかった。

「プレスト海軍から提供されたのか」

「そうです」

「第1艦隊と第2艦隊は本当にセレクターズの作戦行動を支援していたのか。それにしても、なぜ、今になってこんな資料を私に見せる? いままで、隠してたのはなぜだ。」

「我々も、ついさっき提供されたところです。第2艦隊のテロへの加担が明確に世界に示され、閣下が第1艦隊の行動停止を命じられたことで、機が熟したと判断したのでしょう」

 リヨンは状況を理解した。

「時期的にこの大西洋での第1艦隊との接触は、アルトシティの攻撃を失敗したあと。この太平洋での接触は、先のプレストシティ攻撃の前、といったところか」

「ご指摘の通りと我々も思います。加えて、この資料です」といってボイドはもう一つの資料をディスプレイに表示する。リヨンは「なんだこれは?」と問い返した。

「先のフォルテシティの攻撃部隊は、ラルゴシティのガバメント社の工場から出撃したことが示されてます。これは第7艦隊の高高度ステルス偵察機が記録したものです。これも、先ほどプレスト海軍から提出された資料です。連邦軍司令部が大騒ぎです。でっち上げだと言う将校もいますが、第2艦隊のことがあった後ですと・・・・」

「なるほど、第2艦隊の事例をもって、今のタイミングで証拠を出してきたか。これは第1艦隊だけでなく、ラルゴシティもセレクターズの支援をしていたことになるな。黒幕はガバメント社か」

「そうなります」

「こうなると、ガバメント社の装備を入れることに熱心だった軍人は、皆、怪しいということになるな。現に、テロに加担したプレスト防衛軍はガバメント派だった。さて、どうしたものか」

「閣下、まずは閣下の身の回りの守りを固めてください。このタイミングで、プレスト海軍から護衛の1部隊が送り込まれています。プレスト海軍が意味もないことをするとは思えません。副大統領の守りも我々は固めます」

「そうか、これも作戦の一環なのか。今年、4月のアルトシティのドラグーン撃破に始まり、プレスト沖海戦、フォルテシティの攻防戦、そして今回のプレストシティの攻防戦。すべて、プレスト海軍が関与しているな。プレスト海軍は敵の出方を予測しているのか」

「その可能性は高いです。プレスト海軍の情報分析力はかなりのものと思われますね。ここまで的確にセレクターズへのカウンターを成功させるとなると」

「私の暗殺計画も予測していたしな。後になって主犯が殺されたが、きっちり立件はしていた」

 大統領は思慮深げに、

「なあ、君は私の行動は拙速しすぎだとおもうか」

「いえ、そうは思いません。拙速な行動も必要なこともあります。おそらくプレスト海軍も今は好機と思っているのでしょう。でなければ、こんな重要な証拠を送ってくるとは思えません」


 玲子は一晩寝てから、表向きは元気になったようだった。トリオが一緒にいたから気が紛れたのか・・・ しかし、上原は玲子の様子に安堵しながらも、不安は隠せなかった。玲子はいつものとおり、トリオと朝食の支度をし、上原は玲子と一緒に朝食を取った。敷島はというと、昨夜は帰ってこなかった。

「今日は学校を休む? 休んでいいよ。私が一緒にいてもいいし」

「ううん、大丈夫」と玲子は首を振った。

 そう言われると、上原にも何も言えなかった。学校へ出かける玲子を見送り、上原は迎えの車に乗ってダグラス社に出社する。


 出社した上原はすぐに敷島に呼ばれた。

「朗報だよ。ローウェルが製造ラインからマルス型アンドロイドに使う部品を融通してくれることになった。昨夜、スミス博士が調整してくれたんだ。それにフォルテシティの防衛軍が部品を送り届けてくれると伝えてきた。昼過ぎにはここに届く」

「まあ、それなら」

「3日もあれば、マルスを修復できる」

「良かった・・・」

「玲子も喜ぶだろう。私も頑張るよ」

「それはいいですが、できればこのこと、敷島さんから直接、玲子に言ってもらえますか。それに、敷島さんにも休養が必要です」

「そうか? 玲子に対して私にできることは、これくらいだと思うのだが」

「そんなことはないですよ。伯父さんらしい、かっこいいところを見せてくださいな」


 フォルテシティからもたらされた朗報は、プレスト海軍司令部にも伝えられた。

「不幸中の幸いです。フォルテシティ防衛軍の協力に感謝します」と高野長官はフォルテシティからロボット部隊を引き連れてきたマトソン大佐に礼を言った。

「いえ、先のフォルテシティへの攻撃の情報を、いち早く提供していただいた我々にも、プレストシティに恩返しをしたいという気持ちがあります」

 その場にいた川崎がプレスト海軍としての方針を報告する。

「実務的には、プレスト海軍へ納入する予定のマルス型アンドロイド1機の納入を遅らせ、補修部品1体分を納入する契約変更を行います」

「それでいいです。マルスの修復が最優先です。マルスが戦線から離脱するのは、あまりに痛い。川崎さん、よく調整してくれました」

「感謝はスミス博士と敷島博士に言ってください。昨夜、徹夜でローウェルの技術者と調整した結果です」

「そうか・・・ まあ、なんであれ、マルスの修復がそんな短期間で終わるなら言うことはない」

「マルスの大破でかすんでいましたが、今回の戦い、著しい戦果だと思います。ドラグーン11機の撃破、セレクターズの潜水艦隊の殲滅。そして防衛軍に巣くうテロ分子の存在を知らしめたこと。これは快挙です。第2艦隊をテロリストとして殲滅したことは、今後の情勢を大きく変えるでしょう」とマトソンは言う。

「おそらくは、セレクターズ、いや、ラルゴシティともう一度戦わなければならないと思いますが、我々はプレスト海軍と共闘するつもりです。もし、フォルテシティに何らかの危険が感知されたときは、よろしくお願いします」

 マトソンはプレスト海軍情報局の力を信頼していた。

「フォルテシティとプレストシティは友邦です。もちろん信頼に応えます」と高野は答えた。西郷が提示している亡霊作戦はまだ続いている。そして亡霊作戦が示す次の戦いは、完全にテロロボットとの戦いになるはずだった。


「何かあったの」

 休み時間、瑞穂が玲子のところへ来て聞いた。玲子の様子がおかしいことに瑞穂は気づいていた。クラスの中では、退学した伊藤綾が、プレストシティ政府専用機で家族と一緒に脱出したところを撃墜され、死んだことが話題になっており、玲子の様子に気づくものはあまりいなかった。

「マルスのことが心配なの?」と一緒にそばに来たレナが言った。

 それを聞くと瑞穂の顔色が変わった。

「マルスに何かあったの?」

「テロに寝返った防衛軍に撃墜されたのよ」とレナが言った。

「なによ、それ! マルスは大丈夫なの?」

 玲子は答えられず、代わりにレナが答えた。

「人工頭脳は無事だったの。でも、体が完全に壊れていて、一から作り直さなければいけないんだけど、部品が今日の昼過ぎには届くから、3日くらいで治る見込みよ」

 レナの言葉に玲子は驚いた。

「おばさんは2ヶ月ぐらいかかると言ってたけど」

「それは昨日までの情報よ。スミス博士と敷島博士が徹夜でローウェルインダストリーと調整して、部品を送ってもらうように手配したのよ」

 玲子は昨晩、伯父の敷島が帰ってこなかった理由を理解した。

「それで、伯父さんが帰ってこなかったのね」

「玲子、人工頭脳さえ無事なら、ロボットはいくらでも再生できるから、あまり、心配しないで」とレナは付け加えた。

「レナ、変なことを聞くけど」と玲子が聞く。

「なに?」

「レナはソレイユの記憶を持っていると言うけど、ソレイユとは性格も言葉遣いも違うし、それは演技なの」

「演技じゃないわ。私は私、いくらソレイユの記憶を持っていても、私はソレイユじゃないの」


「お兄ちゃん、3日後にはなおるって」と帰宅した玲子にトリオが言った。

「それ、学校でレナに聞いたわ」

「そうなんだ、でも、良かったね、すぐにお兄ちゃんに会えるよ」

「そうね」と、玲子は気のない返事をした。

「どうかしたの?」

「ちょっと、つかれちゃった」

「夕食はロビーが作ってるよ。ちょっと、部屋で休もうよ、お姉ちゃん」と言って、玲子の手を引く。

 部屋に入った玲子は力なくベッドに座り込んだ。トリオは玲子の隣に座り、体を寄せる。

「お姉ちゃん、具合が悪いのなら横になったら」

「大丈夫よ。ごめん、休んでると変なことを考えちゃう。夕食の支度をしよう、トリオ」


 夕食時、敷島と上原が帰ってきた。

「玲子、もう、聞いたかもしれないが、マルスの修復は明後日には完了だ。今日、部品が届いてね。人工頭脳との結合が夕方までに終わったんだ。今、結合のチェックを行っているから、順調なら、明日、皮膚の蒸着がおわって、明後日には起動できるぞ。玲子も早くマルスに会いたいだろうから、起動の時は来たらどうだ」

「ほんと? いいの?」

「ああ、上原君とも話したのだが、それがいいだろうということになった。どうだ、学校は休んでもかまわんだろう」

「そうよ、マルスも玲子に会いたいだろうから、いらっしゃい」

「じゃあ、そうするわ」


 玲子がトリオと一緒にダイニングから出て行ったとき、ぽつりと上原が言った。

「玲子、やっぱりマルスのこと、心配しているのね」

「なにが? 明後日にはあえるだろう」

「元のマルスじゃないかもしれないって、心配してるんですよ。ほら、レナのこともあるし、そっくり別なロボットを代わりにするっていう事例を見てますからね」

「ああ、そうか・・・」

「ただ、マルスに会ったら、解ると思いますよ。元のマルスなんだって。それまでの辛抱です」

「マルスにあったら、解るというのかい」

「ソレイユとレナの違いが解るのだから、解りますよ。それより、回路の結合をとちってないといいですね。明後日の起動に間に合わなくなりますよ」

「それは大丈夫だ。ローウェルの品質管理も万全だった。問題はない」

「じゃあ、待ちましょう。明後日まで」

 

 敷島の言葉に偽りはなかった。回路結合のミスもなく、マルスは皮膚の蒸着の工程も完了した。

「学校休んで来ちゃった」

 出迎えたルーナは笑顔をうかべて、

「いいんじゃないですか、大切な弟と会うんですから」

「マルスに会える?」

「いま、最終チェックの最中ですから、眠ってますけどね」

「あわせてくれる」

「いいよ。でも、外見は玲子が知っているマルスじゃないよ。それは理解してね」

「えっ」


(そっか、そういうことか)

 作業台の上に寝かされているマルスをみて、玲子は理解した。マルスの体に傷の跡がない。

「体のいっさいが新しくなっているからね。傷跡はないわよ」と玲子の戸惑いを察した上原が言った。

「真新しいロボットになっちゃったのね」

「外見はね。でも、中身は玲子のマルスよ。起動したら解るわ」

 ふつふつと玲子の心に不安が沸き起こる。どうにもあらがいようもなかった。部屋に敷島も入ってきた。

「ああ、玲子も来たか。もうじき、チェックがおわるぞ。そしたら起動だ」

 機械的な声で、「チェック完了」の声が響く。玲子にもそれがダグラス社のスーパーコンピューターのインターフェースであるニックだとわかる。

「ニック、マルスの起動操作開始」と上原が指示をする。

「動力を外部電源から内部電源に切り替えを確認。外部供給ラインの切り離し準備完了」

 マルスの電力供給ケーブルが腹部から切り離される。

「データリンク、出力データ、共に異常なし。マルスに起動信号を入力」

 ぱちっとマルスが目を開く。ゆっくりと状態を起こし、周りを見渡す。玲子がいることを知ると、ああっと声にならない声をあげた。

「まだ、声帯のコントロールがうまく言ってないの」と上原が玲子に言う。だが、玲子は全く動かない。マルスは一生懸命、体を動かし、台の上から転げ落ち、懸命に立ち上がる。体の関節制御の補正が利き始め、やっと、よちよちと玲子の方へ歩み寄っていく。上原も敷島も固唾を飲んで見守っていた。

 玲子の元にたどりついたマルスが玲子に抱きつく。そして、

「お、お姉ちゃん」と声をあげた。いつもと変わらぬ声、そして抑揚。玲子はゆっくりと膝を折り、マルスを抱きしめた。

「ごめんね、マルス」

「えっ、なにが?」

「ううん、なんでもない。お帰り、マルス」

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