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第1章 始まりと終わり

第2部の始まりです。武装テロリスト「セレクターズ」との戦いを控え、ファントムの戦力の強化に乗り出すプレスト海軍ですが、ソレイユの後継「レナ」、リョーカの戦力化に先立ち、二人を学校に通わせようとします。

 ソレイユの身代わりにレナを招いたパーティは、そこそこ楽しい時間となった。玲子と瑞穂は内心ヒヤヒヤだったが、レナはソレイユの身代わりを見事に演じていた。実際、ごくわずかなしゃべり方や雰囲気の違いがなければ、玲子にも区別はつかなかっただろう。レナはソレイユと比べ、若干、快活な印象を与えていたが、集まった人たちにその違いを認識することはできなかった。


 そのパーティの翌週、玲子と瑞穂のクラスにレナが転入してきた。ソレイユそっくりのレナの姿にクラス中にどよめきが起こったが、ソレイユとは別のロボットであることを先生が説明したのでその場は収まった。しかし・・・


 あの伊藤綾とその取り巻きが警察沙汰で学校からいなくなってから、玲子の周りにも人が集まるようになっていた。

「ねえ、敷島さん、レナってほんとにソレイユじゃないの?」

「ええ、ソレイユじゃないわ。だって、声が違うでしょ」

 レナの声はよく知られたソレイユの声とは明らかに違っていて、玲子はロボットが声質を自由に変えられるので、あてにはならないことを知っているが、普通の人たちはそこまでは知らないので簡単に納得した。実際、レナはソレイユの身代わりであって別のロボットなので、嘘ではないが、事実を知る玲子と瑞穂は複雑な心境である。


 レナがそう長く学校にいられないことを知っていた瑞穂は、レナの学校生活を豊かなものにしようと一つの提案をした。

「ねえ、玲子、レナ、二人ともテニス部に入らない?」

「はい?」と玲子は聞き返す。玲子は放課後にソレイユと会うために部活に入っていなかったのだが、ソレイユがいない今、その制約は消えていた。

「でも、私、ロボットよ。部活に入っても・・・」

「でも、レナはテニスできるでしょ」と瑞穂は引き下がる気はない。

「みんなの練習相手になってくれれば、いい刺激になるし、部活のみんなも大体は好意的だと思うの。だからね! 玲子だってテニス部員としても十分やっていけるわ」

 玲子はレナと一緒ということに動かされた。

「一緒にテニスをしようか」と玲子もレナに言った。何かしらの任務を帯びて学校に来ていたルーナとマルスに比べ、レナは割と自由なのかもしれない。

「じゃあ、やってみるわ」と承諾した。


 テニスの顧問は玲子とレナの入部の申し出に対し、

「敷島さんは、格闘系の方が似合うんじゃないか?」といいつつも、練習試合の結果を見て入部を決めると言ってくれた。好奇心旺盛な部員は、ロボットのレナを見たさに集まってきた。瑞穂は玲子とダブルスを組み、レナが一人で相手を務めることになった。一見、不公平に見えるが、レナにはたいしたハンディにはならないはずである。

「じゃあ、行こうか!」と瑞穂はサービスを打ち込む。それをあっさりとレナは返すと玲子が鋭い軌跡でボールを打ち返す。

「ほう、敷島さんもすごいな」と顧問は自分の考えを改めた。腕っ節が強いという噂しか聞いたことがなかったが、実際、玲子の実力は瑞穂と遜色がない。それ以上にその二人を相手にして余裕で試合を成立させるレナの実力も認めざるをえなかった。ほぼ、完璧な打ち合いのあと、玲子が打ち返したボールをレナが取り損なって試合が終わった。

「二人とも、入部を認めるよ。でもレナは公式試合には出られないがなあ」

「私はいいですよ、みんなと一緒に練習ができれば」

「じゃあ、二人とも入部届を明日持ってきてくれ。今日は適当に混ざって練習していっていいぞ」と顧問が言うと、試合を見ていてレナに興味を持った数人がレナと練習試合をしたいと言い出した。

「ああ、順番にやってみろ」と顧問は許可した。


「いや、たいしたもんだなあ」と顧問は傍らの玲子に言った。

「何がです?」

「敷島さんもなんでテニス部に入っていなかったのかわからないほどの実力だし、レナときたら相手のレベルに合わせて相手をしているんだな。男子テニス部がうらやましがるかもしれんな」

「そうですね」

「敷島さん、一つ聞きたいんだが・・・」

「何でしょう?」

「これだけの実力があるのに、テニス部に入らなかったのはなぜなんだい?」

 玲子はちょっと首をかしげた。

「ソレイユと会うことを優先したんです」

「ああ、ソレイユね。で、これからはいいのか?」

「ソレイユは軍の仕事が忙しくなったんで、私と会う時間もなくなってきたので」と、玲子は嘘を言ったが、顧問は疑わなかった。

「そうか・・・ そういえば、最近、きな臭いもんな。つい、こないだも、この学校も襲われたしな・・・」

 しばしの間が開く。

「しかしなんだ、こうして平和に暮らせるのも、ソレイユ達のおかげなんだろうな。ほんと、感謝しかないな。それなのに我々はひどい仕打ちをしたもんだ。ソレイユは怒ってなかったのか?」

「ソレイユは怒ってなかったですね」と、これは事実だった。ただし、ソレイユの周りのロボットは人間を憎むようになったが、そんなことは言わない。

「レナには楽しく学校生活を送って欲しいなあ」

「そうですね」

 それは玲子も願うことであった。


 その日の夕方、海軍の連絡機に乗って、フォルテシティからルイスとリョーカが帰ってきた。リョーカにとっては初めてのプレストシティだが、マスターであるルイスが一緒なので不安そうなそぶりは全くなかった。出迎えたのはサムだった。

「ルイス、つかれてないかい?」

「正直言うと、疲れてるわ。時差ぼけがちょっとつらいわね」

「悪いが、これからのこと、少し打ち合わせしたい」

「ええ、空戦訓練じゃなかったら付き合うわ」

「うん、リョーカと一緒に来てくれ」


 会議室に入った3人は思い思いの席に座る。

「リョーカのことはなんとかなりそうか?」とサムが切り出した。

「うーん、リョーカを預かることは出撃前に母さんには話したのだけど、まだ、母さんは納得してないの。なんで、軍のロボットを家で預からなきゃいけないのって・・・」

「そうか・・・」

「あなたの家みたいにはいかないわ」

 パートナーのロボットを自腹でリース料を払ってまで家に連れ帰ったのは、サムが初めてだった。それ以来、アンドロイドを引き取った軍人は、非番の時は自宅に連れ帰るのがプレスト海軍の伝統になっている。もちろん、例外もある・・・ ルイスはできればリョーカを自宅に連れ帰りたいと考えていた。1号機のマルスがあれだけかわいがられているのに、リョーカを粗末にはできないからだ。

「俺の場合は母さんが連れて帰ってこいっていったからなあ」

「さすがダグラス家よね」

「で、どうするんだ。なんなら、俺の家で預かるぞ」と、サムは話題を戻す。

「もちろん、連れ帰るわよ。実際、リョーカを見たら母さんも考えを変えると思うの。結構、子煩悩だからね」

「学校の方は?」

「軍の方針なら行かせるわ。ただし、費用は私が出す」

「いいのか、学校へ行かせるのは軍の方針だぞ?」

「リョーカの保護者は私! リョーカのためのお金はなるべく私が出すと決めたの」

「そうか、まあ、建前上、家に連れ帰るのは装備の個人利用だからな。個人の責任で出してくれるのがありがたいのだが」

「ルイス、ほんとにいいの?」とリョーカが不安そうに聞くと、

「リョーカはそんなこと心配しなくてもいい。リョーカの面倒は私が見るのだから・・・」

 ルイスはサムに向き直って

「でも、よく学校に行かせる気になったよね、司令部も。戦力化を急ぎたいんじゃないの?」

「ルーナやマルスの事例で、効果が絶大だとわかったからね」

 ルイスは疑いの目でサムを見て

「そんなに違うの」

「違うね、ノーマとマルスを比べても全然違う。ノーマは人間に冷淡なところがあるが、マルスは冷淡じゃない」

「ノーマってそんなに冷淡なの? そうは見えないけど」

「俺を助けるためなら、平気で襲撃者を殺せる。何のためらいもなく、憐れみもなくだ。しかし、マルスは任務のためには殺すこともあるだろうが、多少はためらいを感じるところがある。マルスやリョーカのような強大な戦力を扱うロボットは、人間にたいして憐れみをもっていたほうかいい。司令部もその考えだ」

「西郷司令も?」

「ああ、この意見は西郷司令の意見だよ」

「へえー あの冷酷非情な西郷司令がそんなこと考えるんだ」

 相手がサムだとルイスも遠慮がない。

「そう言うなよ、あの人、結構、細やかだよ。ロボットのことをよく考えている」

「それなら私も西郷司令を失望させないようにするわ。まあ、母さんはなんとかなるから」


 いろいろとサムと打ち合わせて、ルイスがリョーカを家に連れ帰ったのは8時過ぎていた。

「ただいま、母さん」

 ルイスの母親は食事の支度をして、ルイスの帰りを待っていた。

「お帰り、ルイス」

「夕ご飯は?」

「まだよ、せっかくだからルイスと一緒に食べようと思って」

「そう、待たせちゃってごめんなさい」

「その子なの?」

 ちょっと意外そうな顔をしてる。

「そうよ、名前はリョーカ、これでも軍の最新鋭のアンドロイドよ」

「そうなの、ずいぶんとかわいらしいわね」

 ルイスはリョーカに向かって、

「リョーカ、私の母さんよ」

 リョーカはきちんとお辞儀をして、

「はじめまして、フォッカーさん」

「母さん、リョーカにも母さんて呼ばせていいでしょ」

「ルイスがそうしたいなら、いいわよ」

「じゃあ、リョーカも母さんて呼んでね」

「はい、ルイス」

「それじゃあ、ご飯にしましょう」

 ルイスはリョーカを自分の隣の椅子に座らせた。

「リョーカは食べないのよね」と母親が聞くと

「ええ、リョーカは食べる機能はないの」

 母親は肉を切り分けながら、

「それで、リョーカはどんなことができるの?」

「パイロットよ、結構すごくって、私でも勝てないくらい」と言いながら、ルイスはつけあわせのポテトを口に放り込む。

「まあ、そうなの?」

 肉を頬張りながら、母親はリョーカを見つめる。ルイスの腕はすごいとルイスの同僚のパイロットから聞いたことはあるが、こんな小さな女の子が、それほどすごいパイロットとは想像ができなかった。

「実際、戦闘なんかやったの?」

「うん、内緒にしておいて欲しいけど、フォルテシティへの襲撃事件があったでしょ?」

「あのドラグーンとかいうロボットが襲ってきた事件のこと」

「あれ、倒したの、リョーカが操縦するロボットよ」

「あらそう」と、驚きのあまり、母親の手が止まる。

「私も戦闘機で出撃していたんだけど・・・ ほとんどやることもなくて終わっちゃったの。もう、人間が前線にでることもないわ」

「そう、それはいいことだわ」

 娘が前線にでないと聞くと、ほっとしたように食事を続ける。ただ、こんな女の子が戦場に出るなんて、とすこし違和感も感じていた。

「それにしても、なんでこんな可愛い姿につくってあるの? 意味があるの?」

 ルイスは母親から発せられた当然の疑問に対して、

「意味があるんですって。実際、アンドロイドの方が人を守ろうとする気持ちが強いみたいよ。リョーカの同型のアンドロイドは、部下のロボットを的確に動かして、見事に守護対象を守ってテロリストを制圧したって話だもの。ほら、あのピースメーカーとかいうテロリスト集団が学校や病院を襲ったけど、被害はなかったでしょう?」

「あのときも? ニュースじゃメタロイドが守ったって言ってたけど・・・」

「あのメタロイドを指揮していたのがアンドロイドなの。実際、アンドロイドがいなかったら、あそこまで統制がとれた行動はとれないみたいよ」

「そう・・ 驚いたわ」と言うと、それからは一言もしゃべらず、食べ続けた。


「お姉ちゃん」と言ってマルスは玲子に向かって両手を広げる。パジャマに着替えた玲子がベッドに腰を下ろして

「おいで」とマルスに向かって手を差し出す。最近ではますます甘えん坊になってきたので、マルスはほとんどパジャマを着ずに、玲子のTシャツを着ている。マルスは玲子の膝の上に座ると、玲子の首に抱きつく。

「ぼく、あさってで学校をやめるの」

「そうなの? 急な話ね」

「守くんや恵ちゃんと分かれるの、ちょっと寂しい」

「そうね、守くんも恵ちゃんも寂しいと思うよ」

 マルスはふっくらとした頬を玲子の頬に押しつける。玲子もそんなマルスが愛おしい。

「でもね、忘れないで、マルスの家はここだからね。私はマルスのお姉ちゃんだからね」

「うん、お姉ちゃん」

 もう寝ようかと言おうとしたが、マルスの手にぎゅっと力がこもったので玲子は今しばらくマルスを抱いたままでいた。

「お姉ちゃん、ぼくね、前はお姉ちゃんさえ守ればいいと思っていたの」

「そうなの? 今は?」

「今は守くんや恵ちゃん達を守りたいと思ってる。ぼく、がんばるから・・・」

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