五秒自由研究
「自由研究集めるぞー」
生徒の声で賑わっていた教室は、
先生の一声によって、
シーンと静まり返った。
私もクラスメイト同様、
静かに落ち着いた様子を、振る舞っている。
しかし、周りからは
気づかれていないだろうが、
私の心の中は焦りと苛立ちに満ちていた。
なぜなら……
(やばい……! 自由研究するの忘れた)
いつもなら
「忘れちゃったー! ま、いっかー」で済む。
しかし、 今回ばかりはそうはいかない。
理科のテストは毎回二十点代。
さらには、提出物を一度も出したことが
なかったのだ。
流石に今回、自由研究を出さなかったら、
高校に行けるかどうかのレベルになってしまう。
だから、なんとしてでもここで自由研究を
出しておきたい。
(たっぷり時間があった、あの夏休み。
私はなにをしていたんだろうか。)
なんて、考えてるうちに、周りの生徒達は
自由研究の提出に向かいつつあった。
どうやら、もう時間はないようだ。
(しかたない、ここで自由研究を
完成させるしかない……!)
もう、この時の私の頭では、
『遅れて提出する』という考えに至ることは
なかった。
とにかく、今はどんな自由研究にするか
考えている。
(自由研究といえば……)
『ピカピカ泥だんご』が頭をよぎる。
しかし、砂泥が得られる
環境が教室に存在する場合はずがない。
おまけに、泥だんごをピカピカにする方法も
知らなかった。
(他に何か……! 神様! 私に案をください)
神様に祈りが通じたかどうかは不明だが、
一つの案が天から降りてきた。
『十円玉を綺麗にする実験』。
この実験は自由研究の中でも定番だ。
酸性の物を使って、茶色くくすんだ十円玉を
ピカピカに綺麗にするというものである。
十円玉なら、今ポケットの中だ。
しかし……
肝心の十円玉を綺麗にするものがない。
(詰みだ……。 もうこれ以上は……)
周りの人たちは次々と為すべきことを終えていく。
そんな状況下では、私の焦りが増していく
ばかりだ。
考えようとすればするほどアイデアは
浮かばず、更なる焦りへと繋がり、どんどん沼へとはまっていくことになった。
(落ち着け……。 自由研究……。
研究といえば失敗……、 はっ……!!)
絶望的な状況に突如降り立ったアイデア。
この瞬間、点と線が全て繋がり、
一つの研究として成立しそうになる。
(きた! これなら、これなら五秒で終わる)
私は、早速案を実行するために
くすんだ十円玉をポケットから取り出す。
次に、机の中からいらないプリントをそっと
取り、それに十円玉を貼り付ける。
最後にシャープペンシルで、
名前と文を書いたら完成だ。
「よし、完成だ!
提出するぞ……!!」
なんとか滑り込みセーフ、五秒で研究を
終わらせた私は早速先生の元へそれを
出した。
先生は怪訝そうな顔でそれを覗き込むと、
はあ、とため息をつき呆れ顔をしながら
言う。
「本当にこれでいいんだな……?」
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・十円玉を綺麗にする実験
結果、実験失敗。
次は綺麗になるように頑張る。
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この方法を使えば伝説になれた