自販機の中に人はいる
半分実話です
自動販売機。それはちょっとした外出時に、手軽に飲食物などを購入することができる機械。殆どの人がこの存在を認知しているが、《自動販売機の中には人がいる》という真実を知っている人はかなり少ないだろう。
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八月某日。汗まみれでクタクタになった男子高校生が、自販機に百円玉を入れた。
飲み物のボタンを押すと、ガシャンと音を立て水のボトルが落ちる。彼はすかさずそれを手に取ると、ゴクゴクと豪快に音を鳴らしながら、喉の奥に水を流し込んだ。
一方 『私』は『自販機の中』でその光景を
眺めながら、ふうと安堵の息をついた。私の仕事は……そう。あまり公には知られていないが、即座に自販機の中でお金を計算してお釣りを出し、飲み物を提供するというものだ。
エアコンがガンガン効いた窮屈な空間で、素早い手さばきで仕事を行い、更にはこれまでにないくらいに神経を使わなければいけない。さらには自販機の中にいることが仕事の関係者以外にバレてもいけない。 かなり大変な仕事だが、給料はかなり良く、なによりスパイをやっていたら味わえそうな緊張感と満足感があるため、不思議とこの仕事は続けたいと思えた。
ただ、この職をこなすのは大変だ。作業のことだけではなく、トラブルが起こった時の対処もあるからだ。後者は非常に骨が折れる。そういうわけでトラブルが起きるたび、私は頭をフル回転させ窮地を脱してきたのだった。昨年の七月なんかは良い例だろう。
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昨年、七月、夕方前。
私は自販機の中で補充員を待っていた。補充員のことは言わなくてもわかるだろうが、その名の通り自販機に売られている商品の補充にくる人の事だ。
ちなみに今、自販機を埋めつくしていた飲み物達が徐々に減りを見せてきている。このままでは商品が提供できない。そんな状況下でやってくるのが補充員なのだ。彼らがくればもう安心。飲み物は無事補充され、買えない飲み物はなくなる。やったね!
……と歓喜に沸くのは購入する人たちだけで、実は補充員と自販機の中にいる私は不安でいっぱいなのだ。なぜなら、補充中に私の正体を補充員以外に見せてはいけないからである。私は自販機近くを訪れた人に気付かれないよう、巧みに隠れることを求められるし、反対に補充員は手際良く作業を行わなければいけない。
ただ、まだ補充員が到着する気配はないからそんなに思い詰めることもないだろう。
気を紛らわすという意味も込めて、私は今まで自販機に投入されたお金の計算を始めた。
減りつつある飲み物達を横目に、紙にカリカリと計算式を書き始める。それが終わると今度はお札や小銭を手でまとめ、次に客が来た時に即座にお釣りが出せるよう準備もしておいた。
そうこうしていたらやることがなくなってきてしまい、思っているより暇になってしまった。何もしないでぼーっとしてるのも良くないので、少しだけ残っている飲み物たちに適量の水滴がつくよう、細工をし始める。思いのほか楽しくて、不規則な形の水滴を作成していると、涼しくなってきてしまった。そんなかんじで細工に没頭し続けること数分、新たな缶ジュースを手に取って細工しようと思った瞬間、なにやらトントンと肩を叩かれた。
なんだろうと、顔を上げるとそこには切羽詰まった様子の補充員がいた。
「なにやってるんですか! 早く隠れてくださいよ!」
ようやく状況を察する。作業に没頭しすぎて補充員の到着に気づかなかったようだ。慌ててあたりを見回すも、幸いなことに近くに人はいない。今から隠れても間に合うだろう。ほっと胸を撫でおろし、隠れる準備をする。そんな時だ
──案の定、事件は起こってしまった。
「え……? 自販機の中に人!?」
完全に油断していた。まんまとここを通った高校生に仕事の様子を見られてしまうなんて。先程も言ったように私達には規則がある。絶対に自販機の中の様子を仕事関係者以外に見せてはいけないという規則が。
だから万が一、今みたいに関係者以外に見られたら……。残念ながら奥の手『催眠術』で相手の記憶を改変するしかない。
「あ、待て!!!」
催眠術発動の準備をしているうちに目撃者は走って逃げかけていた。大声で呼び止めると一瞬だが、ちらりとこちらを向く。その隙に……
「ワスレーール!」
手の平を向けて大声で叫んだこの瞬間、少年は何事もなかったかのように自販機に背を向け歩き出した。
何が起こったか、簡単に説明しよう。
君達も補充員が飲み物を補充している時、自販機の中に飲み物が大量にある光景を目にした事があるだろう。その時、君達は催眠にかかっているのかもしれない。自販機の中の人が隠れきらなかった際に、その存在が催眠によって飲み物達に置き換えられるている場合があるのだ。
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なんて、くだらない妄想をしながら私は自販機でいつものようにコーラのボタンを押す。
「こんな職業が存在したら面白いな」と。
だが、実際にこんな非効率的な職業が存在するわけがない。夏の暑さで変な妄想をしてしまっているのだ。
でも、今日の自販機は変だ。千円札を入れても二回は戻ってくるし、ようやくコーラを買えたと思ったら熱々のおしるこ缶が出てきているのだ。こんな暑いのに飲みたくない。
それになんか声も聞こえる気がする。
「自販機の中に人……? まさか……な」
そんなことをボソッとつぶやいて、おしるこをグビグビ飲みほす。暑い中で飲むおしるこは最悪だ。はぁ、とため息をつきながら自販機隣のゴミ箱に缶を入れようとした、その時だ!
突如ゴミ箱の中からひょいと手が伸びてきて、缶を奪い取られた。
「!??」
突然の衝撃な出来事に頭が混乱し、そこから逃げ出そうとしたが思い切りつまずいてしまった。相当派手に転んだが、恐怖に思考が回っているせいで、痛みを一切感じられない。速くここから逃げださなければ!腕と足で立ち上がろうとするが、また派手に転んでしまう。
やばい、完全に腰を抜かしてしまった。
がくがく震えながら恐る恐るゴミ箱の方を見ると、隙間からちらりと女の子が顔を覗かせていた。そしてこちらを睨みながら彼女は叫ぶ。
「ワスレーール!!」
その瞬間、何を考えていたのか何を見ていたのか、全く思い出せなくなってしまった。
そして突然の激痛が私の体を襲った。
読んでいただきありがとうございました!




