おめでとう! 耐性 を 獲得した!
俺は今、なかなかリスキーなことをしようとしている。普通の人間ならおそらく絶対にやらないことを。
まずはガスコンロを点火、そして青い炎がゆらめくのを確認。目を瞑ると、炎から発せられた熱気が顔を撫でるのをより一層感じられた。この熱気だけでも充分温かい。むしろ熱いくらいだ。
そこで、俺は今からあることをする。
あることとは何か…………?
それは………………
今から………………
──炎の中に手を突っ込んでいく
というものだ。
こんなこと普通の人ならしないし、まずする必要がほとんどない。
しかし、俺にはする理由がある。
今から確かめなくてはいけないことがあるのだ。
だが、それらの理由を細かく説明するのが面倒くさい。
一応、炎に手を突っ込んだ後、何かしらの『声』が聞こえれば良いということだけ言っておこうか。話はそれからだ。
『声』が聞こえたら、この行動が意味をなす。
さて、そろそろやるか……。
未だに目を瞑っているし、顔に当たる熱もだんだんしんどくなってきた。
そして冷や汗なのか、ただの汗なのかよくわからない物が顔から湧き出てきてくる。
やはり、今からするとんでもないことに緊張してしまっていた。
だが、俺は目を開けて、炎が踊っている場所のちょっと上に手をかざす。
少し手を下に下げれば手に炎がやってきてしまう、そのくらいの高さに。
今の手の熱さは今でも中々しんどいが、炎の中のことを考えると、今の状況が相当マシなのだと実感できる。
そのおかげで今を耐えることができた。
だが、少し手を下にやったらすぐ……俺の手は炎に包まれてしまう。
だめだ……ちょっと怖い。
ふうっと、息を吐いた。
一旦落ち着くために深呼吸。
そして、俺はそんな気持ちに蓋をするように、再び目をギュッと閉じた。
目を瞑ることで、手を炎に突っ込む瞬間が見えなくなる。そうすればなんとか、今からすることもできる気がしてきた。
俺は昔から、注射を打たれるときに針を見ることができないようなタイプなのだ。
それと同じで、目の前で今から起こる出来事を見なければ、少しだけやりやすくなると俺は考えている。
よし、そろそろいくか……。
余計な考えてたら、手を炎に突っ込むまでの時間が延びていく。
時間が延びるほど、恐怖も追いつこうと、比例して増していくことになるだろう。
『普通の人ならこんな事しなくても生きていける』とか『こんな事する意味あるのか』とか考え始めたらもうできなくなってしまう。
そう考えはじめたら最後、俺の右手は『炎の中にイン!!』とはならず、ゲームコントローラーを握ることになってしまうだろう。
だから……そうなる前にすぐ手を突っ込んでしまいたい。
やろう………………。
さあ、やってしまおう…………。
3......2......1......
俺は、目をギュッと瞑ったまま
『思い切り』手を下にぐっと下げた。
レバーを思い切り下げるような勢いだったから、手を思い切りコンロ自体に打ち付けてしまった。
「うおっ!」
そして、手をぶつけたという感覚が脳に走り、反射的に目がカッと開いてしまう。
「痛っ…………!!!!痛ったっ……!!!
……くはない?……あれ?」
そう言いながら目で手の方を見ると、
手は青い炎に包まれたまま、痛みも熱さもない状態だった。
「これは……あの声が来たか……?」
そう呟いた瞬間だ。
《おめでとう! 痛覚耐性 を 獲得した!》
《おめでとう! 炎耐性 を 獲得した!》
《おめでとう! 火傷耐性 を 獲得した!》
無機質な機械の合成ボイスが頭の中に響き始めた。
よしできた。これで俺のしたかったこと、すなわち『耐性』の獲得は成功したとみていいだろう。
こうすることで火傷もしないし、痛みも大丈夫だ。これはかなり使えるスキルである。
しかし、ここで疑問が生まれるだろう。
『なぜ、こんな炎にわざわざ手を入れたか』
『なぜ、耐性について知っていたか』と。
だが、それはわりと簡単な話になる。
なぜなら、この件より前に、自分に大ダメージを与えることで、耐性を得られるということに気づいてしまっていたからだ。
今回の件の少し前、ドアノブで静電気に触れた時は普通に痛みが手を走った。
しかし、濡れた手でコンセントを触ってしまった時、先程の炎の時と同様にして『電気耐性』を獲得し、痛みと感電から回避できたのだった。
そして、それより少し前にも『転倒耐性』を獲得している。
その時も、つまずいたり、軽く転んだ時には耐性がつかなかった。しかし、派手に転んで死ぬかと思った時、声が聞こえて耐性を獲得したのだ。その時は痛覚耐性を手に入れてはいない。
それらを踏まえ、俺は耐性に関する考察を重ねた結果、『身体に対するダメージが大きければ、耐性を獲得できる』と考察した。
その結果、耐性を得る方法として、
『炎の中に手を突っ込む』を採用したのだ。
いやー、実行するのにヒヤヒヤしたな。
よし……。
では、次の耐性を獲得するとしよう。
用意するのは、この瓶に詰め込まれた液体毒薬『カルタネウスボラウト』。
原なんとかさんが作った薬なのだが、飲むと一発でお陀仏してしまうらしい。
色は禍々しい紫と黄色の融合体で、いかにも『絶対に飲んではいけない』といった感じの見た目であった。
なぜ俺がこんなもの持ってるのか、自分でもよくわからないが、細かいことは気にしたら負けだろう。
とりあえず一気飲みをして、毒耐性を得られればそれでよしとする。
俺は瓶の蓋を開けた。
なかなか開けるのに苦労しそうな蓋だったが、そんなことなくスルッと開いてしまった。
そして、蓋を外して床に投げ捨てると、もやもやと不穏な薄紫色の煙が湧いてきて、俺の体を包みこんだ。
「うおっ……!??」
これはまいったな。見た目が軽めの毒だ。
耐性を獲得できるほど強そうな毒っぽくもないから、最悪の場合吸ったら死ぬかもしれない。
なるべく吸わないようにしよう。
そう判断した俺は、頬を膨らまして息を止め、目も閉じた。
やはり視界が遮断された真っ暗な世界は、安らぎと心地よさを感じる。
先程の炎の時と同じように、やはり目に見えないだけでかなりの安心感が得られるから良いものだ。
さあ、このまま目を瞑りながら毒液を飲み干してしまおう。
俺は目をギュッと閉じたまま、毒液瓶のある方向へ手を伸ばした……が、その時やらかしてしまった!!
──息をしてしまった
目を瞑るのに集中しすぎて、息をしてしまった。やばい。
口からも鼻からも、薄紫の煙が入ってきて、喉の奥にずっしりとした物が充満していく。これはガッツリ吸ってしまった……。
うぐっ……。
はぁ、なんとかこの煙の毒性が強くて、毒耐性が獲得できることを祈るしかないな……。
頼む……!俺よ……!生きろ……!
そう思った時だ。
《おめでとう! におい耐性 を 獲得した!》
えっ……?
先程の炎の時と同じ声が頭に流れた。
『におい耐性』……を獲得したらしい。
におい……ということはこの煙は臭かったってことなのか?
まあ、いずれにしても耐性を獲得できたからよしとしよう。耐性は持っておけばこの先便利になるだろうし。
では、本題の毒液『カルタネウスボラウト』行きますか。
目は相変わらず閉じたまま、すでに蓋が空いている瓶を手に取り、その中の液を喉に流し込む。一気飲みだ。
ぐびっと喉を鳴らしながら飲むその様子は、普通の飲み物を飲んでる時と変わらない。他の人が見ても毒を飲んでるようには見えないだろう。
しかし、唯一違うのは、飲んでいるものが完全に毒であるということだ。
さて毒液を飲み終わり、瓶をコトッと置くと安定の声が流れた。
《おめでとう! 毒耐性 を 獲得した!》
よし、本命来た!!
俺は歓喜のあまり目を開ける。
しかし、まだ薄紫の煙が空間を漂っていたので、またギュッと目を閉じてしまった。
そしてまた少しずつ目を開けていく。
では、また次の耐性を獲得しよう。
煙をハエを追い払うように退けて、奥の部屋へと向かった。
今度そこにあるのは、重たそうな巨大岩。
推定200Kg。
もちろん人間の力では持ち上げきれない。
だが、俺は持ち上げる。
耐性を得られればいける……。
手を岩の下にかけて上に持ち上げると、パラパラと音を立てながら岩が簡単に持ち上がってしまった。
「よいしょ」
200Kgもある岩なのに、スカスカの発泡スチロールを持ち上げている気分になる。簡単に持ち上がった。よし……これは来た。
《おめでとう! 重量耐性 を 獲得した!》
やはり。
案の定、簡単に獲得できた。
ダメージが大きければ耐性を獲得できるのだから、重さもダメージに入るだろうという考えは、正しかったようだ。
この調子で耐性を他にも獲得していこう。
では、すぐに次にいこう。
今度用意するのは時限爆弾。超強力。
これはまじで死ぬやつ。
あと3秒で爆発予定。
3......2......1............
ドカーーーンっ!!!
《おめでとう! 爆発耐性 を 獲得した!》
《おめでとう! 風耐性 を 獲得した!》
ふう、簡単簡単。
次は、ナイフ。
腹に刺す。
《おめでとう! ぶっ刺し耐性 を 獲得した!》
次は、スピーカー。
爆音でる。
《おめでとう! 爆音耐性 を 獲得した!》
次はライト。
《おめでとう! 光耐性 を 獲得した!》
次は真っ暗闇にいく。
《おめでとう! 暗闇耐性 を 獲得した!》
で、次は激寒冷凍庫の中。
その次は自分を思い切り縛る。
次はウニを丸呑みして……
さらに次は蒸気がすごいアイマスクをつけて……
次はリモコンの電波を自分に向けて……
次は目をえぐり出して……
次は花火を自分に向けてうって……
次はこれが夢だと気づいて……
《おめでとう! 睡眠耐性 を 獲得した!》
……
…………
………………
はっ!!
夢…………か。
どうやら、奇妙な夢を見てしまったらしいな。
爆音にセットしていたアラームが鳴る前に起きてしまったようだ。
ちょっと、早起きがてら勉強でもするか。
そう思い携帯を手に取り、布団から出る。
ぼーっと歩いて洗面所に向かう途中、携帯の電源を入れた。
とりあえず、どのくらい早く起きてしまったか時刻を確認してみよう。おそらく予想だが、6時前だろう。
俺は携帯の時刻を確認して、すぐに電源を切った。
いやーはやく起きすぎたなー!!!
早く起きすぎた………………って、ん?
ん?うん??
え?待て待て今何時って書いてあった??
俺は、一回携帯の電源を落とし、再びつけた。
だが……
「『14:30』……だと?」
そんなわけ……。
まさかあの爆音アラームが聞こえなかったと……?
そんなことはありえない……。
そんなわけ……。
これでは遅刻してしまう。
やばいやばい!!
俺はすぐに走り、パジャマとボサボサ髪のまま家を飛び出した。パンも咥えず、靴も履かずだ。そして、はあはあ言いながら走る。
そんな時だった!!
とある聞き慣れた声が頭の中に流れた。
それは、先ほどまでたくさん耳にしてきたものだ。
そしてその内容は…………
《おめでとう! アラーム耐性 を 獲得した!》
という機械の合成ボイスだった。
朝起きられない が 原動力 に なって この作品 ができた!!
と、読んでいただきありがとうございます!
よかったら特典(笑)の没シーンをどうぞ
↓没になった描写
用意するのは切れ味の良い包丁、指。
もう何をするか大体察しがついてるだろう。もちろんみなさんの想像通りのことを今からする予定だ。
俺はまな板の上に左手をパーに、手のひらを上に向けてのせ、右手でキラリと光る包丁を天井にかかげた。
なんとかこのまま勢いよく俺の指に包丁を入れ、《切断耐性》あたりを手に入れたいと思っている。痛覚耐性を手に入れた今なら、指が取れても痛みはないので問題はない。
しかし、指が取れるのはやっぱり怖いので、切れないギリギリのラインを攻めながら包丁を入れていこうと思う。
いったいよー




