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アカウントが凍結した

書くの疲れた〜うわ〜

アカウント凍結したくないですね〜

「ふあ〜! よく寝た〜!」



 ぼんやりと目をこすりながらスマホを開くと、そこには『9:30』と表示されていた。ちょっと寝すぎたな……。



「ん〜!」



 私はゆっくり手を上にのばし、手をストンと落とす。はあ〜、なんか休日って寝すぎて体が固まってしまうよね。体伸ばしたときの気持ち良さが格段(かくだん)に違うし。

 あ〜、その気持ちよさで再び眠ってしまいそう。

 と、言いつつ眠らないのが私だけど。

 よし、とりあえず起きるか。


 私はスマホを手に持ち、山のように重なった布団から出て、テレビの前にちょこんと座った。正座で。

 そして、隣に()えるように携帯を置いた。

 今度は正座のまま、床を手探りでリモコンをさがすと冷たいそれがピトッと手に当たる。

 よし、あったあった。

 すかさずそれを手に持ち、テレビに向けて手を伸ばす。ポチッとボタンを押すと、テレビがぼんやりとバラエティ番組を映し出し始めた。

 ハイドロサタデーズという芸人コンビが、なにやら私の知らない芸人の真似をしている。


 私がリモコンを床に置いた頃、スタジオはどっと笑いに包まれ、さらに彼らが同じネタを繰り返した。

 他の芸人がそれに対してツッコミをいれ、再びスタジオがどっと湧き上がる。しかし、私にはその芸人がわからないし、そもそも芸人に詳しくない私には、どうもそのテレビを見てもあまり内容が入ってこないし面白くない。


 なんか、別の番組の方がいいな。


 私は、床のリモコンをとろうと再び床に手を走らせるが、別の冷たい何かが手に当たる。

 冷やっとした金属的な冷たさが私の指を(つた)い、手の根本まで冷えた気がした。

 なんだ……? これは?

 恐る恐るその物体をそーーっと撫でてやると、正体はすぐに判明する。



「なんだ、スマホか」



 ふうっと、安堵(あんど)の息を()らし、私は思わず(つぶや)いた。


 じゃあ、テレビは作業用BGM感覚でつけておいて、スマホをいじるか。

 早速スマホを開くと、『9:43』と表示される。

 時間がただ出ているだけで、通知は一切来ていないらしかった。しかし、通知が来てないっていうのは中々悲しいね。いつもなら、スマホを開くたびにツヨッターからの通知が来ているというのに、今日ばかりは来ていない。

 逆に言うと、ツヨッター以外からはほとんど通知が来ないので、これはある意味心の支えになっている。

 だから、ツヨッターは正義の味方のようなものだとよく思う。

 SNSの中でも好きな人と繋がりやすく、そこそこのお役立ち情報や、面白いネタなどが転がっているような場所だから割とフリーな場所なのだ。

 通知は大体、ここで知り合った方からのメッセージが基本で、面白い情報を仕入れて送ってくださっている。それを見るのが暇つぶしであり、楽しみでもあった。

 いつもなら朝起きたときにはメッセージが溜まっているのだが、今日はどうやら来ていないらしい。

 そういうことがあると少し不安になるが、特に心配することはないだろう。


 慣れた手付きでツヨッターを開くと、いつも通りの青い鳥のマークがでてきた。この鳥はアプリのアイコンでもあり、トレードマークのようなものだ。

 このマークが消え、白い画面が出てくるといつも通りの画面が現れる…………はずなのだが。



「あれ? あれ?」



 スマホを何回タップしても出てくるのは、いつもと違う画面。何度何度タップしても元の画面は出てこない。私のアカウントのアイコンが表示され、その下に何やら文字が小さく書いてある。

 いつも通りの道を歩いているはずなのに、見たこともない景色が目の前に広がってしまったような不安感が私を襲い、やがて引き返そうとしてももう戻れないような……そんな気持ちになる。


 私は一度目を閉じてみた。真っ暗な空間の中、一人考え事をする。

 なんか文字が書いてあったな……。

 なんて書いてあったかは細かく見れていないが、あまりよくないことだというのはなんとなく察しがついた。


 そんなとき、スマホの金属の冷たさがひやりと再び手に走り、はっと目を開ける。

 こんなことをしていても何も始まらない。

 とりあえずしっかり文字を見てみよう。

 考えるのはそれからだ。


 私は目を開け、躊躇(ためら)いも無くそこに書かれている文字を視認した。

 ああ……。

 案の定、私の勘は当たっていて、良いことは書かれていなかったようだ。



「凍結……」



 数ある文字の中から飛び出してきたその二文字。たった二文字なのに、私の脳裏に焼き付いて離れようとしてくれない。

 ただの文字なのに寒気(さむけ)をおぼえる気さえする。スマホも、私の熱で温められないくらい冷たくなっている気がした。

 

 その時、付けっぱなしにしていたテレビからどっと笑い声が飛んできた。

 それは恐らく、芸人に向けられた観客達の笑い声(効果音)だと思うが、ひどく私が笑われてるような気がしてしまう。

 嘲笑(あざわら)っているように感じるその声、私に向けた悪意は一切無いとはとは思うけれど、少しイラッときてしまった。

 私が笑われていないという事実はわかっていても、それでもイラつく。

 なんだろう。この小馬鹿にされている感じ……。


 と、考えても仕方ないのでポチッとリモコンを押しテレビを消した。


 あ〜。

 静かな部屋で私は独りうなだれる。

 今まで関わってくださったツヨッターの方達、そこで出会った面白いネタの数々……。

 それらが頭の中を駆け巡った。

 そして、その日常達が崩れていく映像も鮮明に映し出される。

 私の心の支えがなくなっちゃった……。

 凍結って書いてあるけど、悪いことは多分何もしてないよ……。なんなんだろ本当に。

 う〜ん、凍結解除までもかなり時間かかるだろうな……。

 解除に何日かかるかわからないし、その間ツヨッターを見れないのは辛い。

 だから、今すぐにでも解除したい。

 はぁ……。

 仕方ない、今すぐツヨッターやりたいし、凍結解除すぐにできるか方法を調べるか……。


 私は冷たいスマホをタップしながら、検索エンジンで『ツヨッター 凍結 解除』で調べ始めた。

 様々なまとめサイトやブログが出てきたので、それらを漁るように読んでいく。

 そこそこ有名なサイトから、無名のサイトまで。

 しかし、山のようにあるサイト達を五つほど読んだところで、どのサイトやブログでも出てくる情報は意外と同じだと言う事に気づいてしまった。


 出てきたその情報……凍結解除の方法とは



「ただ待つしかないの……?」



『待つ』しかないそうだ。

 しかし、冷たいスマホも、徐々に崩れていく日常の映像も、テレビのバカにするような笑い声も、凍結解除を待っている間は意識せざるおえないだろう。

 さらにツヨッターを使えない不安感もあり、ストレスは倍増だ。

 そうすると少し落ち着かない。

 だから、私は再びサイトを漁り始める。

 訪れたページに再び辿(たど)り着いても、その扉を閉めて新しい扉を開いていく。

 前のサイトと同じような情報が書かれていたら、すぐにブラウザバック。そして、新しいサイトを開くを繰り返す。

 なんとか解決方法を見つけるために。


 こうして1時間が経った時、私は一つのサイトにたどり着いた。



「凍結解除専門センター……?」



 どうやらそのサイト、ツヨッターやピンスタグラムなどの凍結を無料で、そして当日に解除してくれるそうなのだ。

 一応、電話対応でやってくれるらしい。

 多少の怪しさは(いな)めないが、それでも仕方がないだろう。

 しかし私の場合、当日に解除してくれるなら多少のリスクだって負うさ。

 当日解除なら安い物だ。

 ふぅっと、息を漏らしてから早速電話番号を入力した。

 わずかながら希望の光が見えてきた気がする。あの楽しかった日常もすぐに戻ってくると思うとドキドキした。

 そして、番号を入力し終えた私はすぐに電話をかける。



「もしもし」


「もしもし、凍結解除専門センターの新田です。今日はどうかされましたか?」



『どうかされましたか』と聞かれても、『凍結解除しに来た意外に何があるの?』とツッコミを入れておきたくなるが、我慢。



「えっとですね、ツヨッターのアカウントが凍結してしまって、解除をしていただきたいと思って……」


「なるほど。はい、では、凍結解除の方に移りますので、まずはユーザー名を教えてください」


「ユーザー名は、@Oishiiiipikapikadango

です」


「かしこまりました……。では、早速作業の準備をしますね」


「ありがとうございます!!」



 作業の準備と聞いて、思わず気分が高揚(こうよう)してしまった。これで早くも凍結解除だ。



「あ、すみません。一つ言うのを忘れていました。実は、凍結解除の作業を行う前に言わなければいけないことがありまして」



 そんな事を思った時、凍結解除専門センターの新田がそういった。

 私は『はい』と答えて彼の言葉の続きを待つ。



「えっとですね、凍結解除をした時、アカウントが完全に元通りにならない可能性があることを頭に入れておいてください」


「それはどういうことですか……?」



 少々不安げに私がたずねると、電話の向こうにいる新田は落ち着いた声で答えた。



「まず、凍結というのはその名の通り、物が凍りついてしまったことを指すじゃないですか」


「はい」


「そこで、凍ってしまった物を元の状態に戻すには、まず凍てついた部分を熱で溶かして中の物を取り出しますよね?」


「はい」


「これ、アカウントでも同じ事が言えるんですよ。私達のやり方は、凍ってしまった部分を超高熱で溶かすことで、アカウントを1分ほどで復活させるという物なんです」


「なるほど……。しかし、その方法でなぜ、アカウントが元通りにならない可能性があるのですか……?」


「それはですね、普通なら凍った部分が溶けきるのが何日もかかるところを、我々は1分ほどで溶かしてしまうからです。何か気づきませんか?」


「いえ、何も気づきません……」


「では、答えを言ってしまいますね。

要するに、我々は凍った部分を過度な熱で溶かすんです。しかし、ここで、加えた熱が大きすぎてアカウントが耐えきれず、ダメージを受けてしまうことがあるのですよ。これがアカウントが元通りにならない可能性がある理由なのです」


「なるほど……」


「しかし、もしアカウントがダメになっても、無料でやってることなので私達は責任取れませんが大丈夫ですか? もしダメなら数日間待った方が良いと思いますが」



 私は一瞬戸惑った。うーん、ここでアカウントがダメージを受けすぎて使えなくなってしまったらどうしよう。

 何日もツヨッターが使えないのとこっち、どっちがいいんだろ……。

 うむむ……天秤(てんびん)にかけてみても同じくらいだな……。

 うーん、でも私は



「大丈夫ですお願いします」

 

「わかりました。では、作業に取り掛かりますね」

 


 いよいよだ。アカウントが元に戻る時が来た。私は電話を耳元に当てたまま、じっと待つ。その時、ゴオオオっと言う強い風のような音が聞こえた。



「もう少しで溶けます。溶けるまで少々お待ちください」


「わかりました」


「よし……溶けきりまし……って……あっ!!!」



 風のような音が止んだ時、少しの沈黙が訪れた。あ……まじで?

 これ、最後の「あっ」って絶対に良くないことが起こっちゃったやつじゃん。

 こうなる可能性があるってわかってたのになんであの時の私はここに頼ったんだ……。

 でも、とりあえず話聞くしかないか。

 まだアカウントがどうなったかわからないからね。



「大変申し訳ありません。熱の調整が上手くいかず、アカウントの方が燃えてしまいました」


「いえ、大丈夫です」



 あーやっぱりか。

 表面上の私は平静を(よそお)っているが、彼が失敗してしまったことに対してもちろん怒っている。なんでここに頼んだだろ……。はぁ……。

 (くず)れた日常達が燃える映像も、怒りと体温で熱くなってしまったスマホも、さっきのテレビの映像も……そんな全てに押し潰されそうになる。

 でも私は深呼吸をして、目を閉じた。

 一旦落ち着こう……落ち着こう……。

 ふう……。


 ん……?待って。

 アカウントが燃えてるってどういうこと?



「すみません。アカウントが燃えてるってどういうことですか?」


「そのままの意味で『炎上』です」


「え……炎上? 一体、どうすれば……?」


「今度は消火すれば大丈夫です」


「しかし、どうやって消火をすれば……」



 少しの沈黙(ちんもく)が再び訪れた。

 何か考えているのだろうか、吐息(といき)だけが聞こえる。

 そして、新田は少し間を置いてから静かに言った。



「えっとですねこれは私達では対応できません」


「はい……」


「なので、次は炎上対策専門センターの方にかけてみるといいと思います」  



急がば回れってことですね

そして、私は凍結も炎上もしなくないです

↑「したくない」が正しいです誤字してます

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