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ハロウィンの仮装

夜になったので、僕はカボチャのお面を持ち、

黒っぽい服をきて自転車(じてんしゃ)にまたがった。

目的地はジェイクの家だ。


つい1週間前、ジェイクに

「うちでハロウィンパーティするけど来ないかい?」と、(さそ)われたので、(よろこ)んで行くことに決めた。


ただし、知らない人が大多数(だいたすう)だそう。

だが、そんな事は気にしない。

パーティで大学の事や(つか)れなんか忘れて、

全力で楽しんでこようと思う。


自転車を()ぎながら空を見ると、

徐々(じょじょ)に空が(やみ)に包まれてきていた。

パーティをするには丁度いい時間だ。


住宅街(じゅうたくがい)を抜け、公園を通り過ぎて、ようやく友達の家についた。


自転車を止め、インターホンを鳴らす。



「トリックオアトリートーー!

ささ、入って入って」



友達がすぐにでてくると、庭に案内してくれた。


ついていくと、重低音(じゅうていおん)の効いたBGMが流れており、仮装(かそう)した人々が踊りながらケーキやら、

ピザやらを口に運んでいる。

クラブと海外のホームパーティの中間くらいの雰囲気だ。


そして、友達の言っていたとおり、本当に

知らない人しかいなかった。

そして人数が半端ない。

これが小規模ライブと言われてもおかしくない

くらいに。


魔女の格好をしている人、ゾンビメイクを

(ほどこ)している人、包帯(ほうたい)ぐるぐる巻きの人……

などなど、全員知らない。


まあ、そりゃそうか。

最近知り合ったばかりの『友達の友達達』

だからな。


僕はパーティの輪の中に入り、

日頃の事なんか忘れて(おど)りながら

近くのピザに伸ばした。サラミがおいしい。


僕は近くの人とも話し、本当に楽しい

時間が流れ始めた。



……

…………

………………



少し踊り始めてから時間が経った時、

ふと横を見ると誰かと目があった。


その男は目を()らし、人々の中に

消えかけている。


僕は気づいてしまったのだ。彼が仮装をしていない事に。


仮装していない彼は、白の中の赤のように

目立っている……はずなのに誰も彼の事を

気にかけていないのだ。

それが違和感(いわかん)と不思議さを与えた。


僕は彼の事が気になってしょうがなかった。

これはハロウィンの悪戯(とりっく)か?

いや、モヤモヤはすぐに解決したい主義

だから気になっているだけだ。


僕は一緒に踊っていた魔女に「またね」と

伝えると、人混みを()き分けて彼のいた

方向に歩き始めた。


人混みをどけてもどけても、彼の姿(すがた)

現れない。



「どこ行ったんだ……」



そう声を()らしても現れるはずがなかった。

ふーっとため息を吐いて回れ右をする。

そんな時だ。


目の前に彼がいた。



「……!!」



僕と彼の動きが止まる。



「あ、ハ、ハッピーハロウィン!

えっと仮装はどうしたんですか……?」



僕はそう彼に問いかける。

魔法でも使えるのか?なんで周りの人が

気づかないのか?と、言いたくなったが

ぐっと抑えた。



「え……? ワシのことか?」



男はきょとんと首を(かし)げ、小さな声で

言った。



「そうです……」


「…………」



男はしばらく頭を抱えて、目をうるっと

させ、泣きそうな目で僕を見つめる。



「あ、あの……」


「ワシは仮装しとるよ」



僕は何を言っているかわからなかった。

だが、彼は何か言いたそうに、泣きそうな

めでこちらを見つめ続ける。



「えと、僕には仮装してないように

見えるんですけど……。

何かの仮装ですか?」


「そうじゃ。 ワシは人の仮装をしておるぞ」


「人って……。 じゃあもしかして信じられないですけどあなたは宇宙人ですか?」


「違うぞ。 ワシは人間じゃ。

宇宙人じゃない……」


「じゃあ一体……」



僕の頭では処理(しょり)が追いつかない。

理解を(あきら)めて帰ろうか……。

いや、こんなパーティの時にモヤモヤ

しながら帰りたくなんかないぞ。

僕は必ずモヤモヤを解消(かいしょう)するんだ。



「すみません……。 僕では理解できません」


「そうか……」



そうすると、彼はポロポロと涙をこぼした。

そして、彼の体が光に包まれる。



「……!! その姿は!!」



目の前に現れたのは……。

赤い服に赤い帽子、白い(ひげ)を生やした大男『サンタクロース』

だった。



「この姿でワシがだれかわかるかの……?」


「サンタ……さん……」


「正解じゃ……」



サンタは涙を(ぬぐ)いながら、何度も何度も

「そうじゃそうじゃ」と言う。



「でもなんで……? サンタさんがここに?

この姿だったら目立ちますよ…??

魔法で姿をくらましたのですか?」


「違うんじゃ……。さっきも言ったろう。

ワシは魔法なんか使えない。

みんなはワシなんか忘れたのじゃ。

信じられていないのじゃ。

だから誰からも見向きもされないのじゃ」


「……」



僕は何も言えなかった。たしかにそうだ。

ハロウィンだって、年を重ねるごとに、

(さわ)ぐだけになっていた。


クリスマスだって、小さい頃はサンタさん

からプレゼントをもらう楽しいイベントだった。

でも、今の僕達は純粋(じゅんすい)な心を忘れて

騒ぐだけ。サンタさんなんかもう……。



「でも、なんで……なんで僕にはあなたが

見えるのですか?」


「それは君の心にワシがまだ生きとるから

じゃよ」



サンタはまた泣いた。僕も悲しみがこみ上げて、

少し涙を落とす。



「今日ワシがパーティに参加して、

君に会えて良かったよ」


「僕もですサンタさん」


細かい事なんかもう気にしなかった。

パーティの事も忘れた。



「純粋な心を少しでも持っている大人に

出会えて、ワシは嬉しいぞ」


「やめてくださいよ! 恥ずかしいですって」



僕達はハハハと笑い、共に抱き合った。



「じゃ、ワシは行くからな。

また会えるといいな」


「さようなら。サンタさん。

また会いましょう」



サンタは空に飛んだ。僕は彼が見えなくなる

まで手を振り続けた。



「……じゃあね。サンタさん。」



僕もまた泣きそうだ。ずっと空を

見ていたら泣いてしまう。

すーっとと息を吸い吐く。これをすれば

泣かないで済むような気がしていた。



「おーい! お前こんなとこにいたのか」



ふと、声が聞こえる。ジェイクだ。



「あ、うん!」



「パーティはこっからだぜ!

……っておい、足元のそれなんだ?」



僕が足元を見ると、ラッピングされた赤い箱

が落ちていた。



「なんだろ? これ?」



「なんだろうな……?

ハロウィンにクリスマスってか? 気になるぜ」



箱の中を開けて見ると、

何かに包まれている、

さらなる何かがでてくる。



さらにさらにそれを開けた。

すると……。

存在すら忘れていた、

昔サンタさんに貰えなかった物が入っていた。

ハロウィンが終わったらすぐにクリスマス。

怖い。

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