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#006.お迎え少女

「ゲイザーちゃんは遊ばないです?」

「ん、遊んでも大丈夫なのです。」

「んー、魅力的な提案だけど、私はいいよ。お目付け役だからさ。気にしないで。サボってたらご主人様に叱られちゃうし。」


 私、魔物娘ゲイザーは木の上であくびを噛み殺しながらティフィとフィアに返事をした。ご主人様からティフィとフィアを見ていろ、ついでに怪しい奴が近付いたら容赦せずに排除しろ、って命令を受けた私は一つ目に羽が生えたような姿の眷属モンスター、イビルアイで見張ってるんだけど、こんな真昼間に怪しい奴なんてそうそういる訳がない。全く、ご主人様の過保護っぷりにも困ったものだ。


「ん?」


 やれやれ、と1人溜息を吐いたところで、イビルアイが近付いてくる人を発見した。即座に私と視界がリンクし、イビルアイが見ている光景が見えてくる。こちらに向かっているのはティフィ達より少し年上っぽく見える女の子。近くの道を通る人は結構いたけど、イビルアイからの連絡はこれが初めて。ってことは、こっちに用があるかもしれない。そんなに怪しくは見えないけど、万が一ってこともあるし、私は木から飛び降りた。


「ゲイザーちゃん、どうかしたです?」

「ん、遊びたくなったなのです?」

「違う違う。女の子が近付いて来てるから一応知らせておこうと思って。もしかしたら私たちに用かもしれないから、警戒しておいて。」


 私は一応警告をすると、イビルアイとの繋がりを強化して、こちらに向かう女の子の一挙手一投足までもを見逃さないように目を凝らす。自然な感じで歩いているが、油断はできない。コルトさんみたいなプロの暗殺者は、自然体で対象をこの世から抹消できるからね。これでも私はAランクのモンスターだから、普通の人間相手に後れを取ることはないと思うけど、相手がプロなら話は別。実際、私はご主人様に捕まって使い魔になってる訳だし。


『おい、ゲイザー。聞こえるか?』


 私がより一層目を凝らそうとした時、脳内にご主人様の声が響いた。テレパシーだ。


「ご主人様、どうしました? 何か御用ですか?」

『ああ。今そっちに女の子が向かっているだろう?』

「はい。イビルアイが発見したので、今は警戒しながら監視しています。ティフィとフィアにも伝えました。」

『その子は俺が送った迎えだ。だから警戒する必要はない。だが……』

「だが?」

『これはうちの店で雇うかどうかの試験でもあるんだ。ということで、怪我しない程度に脅かしたりしてくれ。以上だ。』

『え、以上って……ちょっと、ご主人様?』


 テレパシーが切れてしまった。全く、モンスター使いが荒いんだから。


「怪我しない程度に脅かせって言われても……どうしろっていうのよ……」


 もう少し細かく言って貰わないと、どの程度やればいいのか分からないから困る。目の前でイビルアイを膨らませるくらいでいいのか、それとも雷を鼻先3mmのところに落とすくらいしなきゃいけないのか。


「んー、怪我しなきゃいいみたいだし、どっちもやるのが合理的かな。」


 私はイビルアイに【女の子の目の前で膨らめ】って命令した。イビルアイはすぐにその命令を忠実に実行。高速で飛んで女の子の目の前まで行くと、通常形態の3倍程まで膨らんだ。


「ひゃあっ!」


 女の子はその場で尻もちをついた。今なら動かないから危険もない。私は雷魔法を使って女の子の鼻先3mmに正確に雷を落とした。


「っ……!」


 女の子は声にならない声をあげると、その場でひっくり返った。気絶しちゃったみたい。


「あちゃー……やっぱり一般人にはちょっとやり過ぎだったかな……まあ、でも怪我してないし、許して貰えるよね。」

『怪我しない程度といっても限度がある。雷を落とすのはやりすぎだ。』

「ご、ご主人様? でも……というか、いつからご覧に?」

『お前とはいつでも視界を共有できるんだから、ずっと見ていたに決まっているだろう。こうなったら、詫びも兼ねてうちで雇うしかないじゃないか。全く、要らない仕事を増やしやがって……』


 そう言いながらもご主人様の声はちょっと嬉しそう。


「ご主人様、喜んでませんか?」

『喜んではいない。熱心な就業志望者を1人路頭に迷わせずに済んで良かった、と思っているくらいだ。』

「ご主人様は素直じゃないんだから……ま、それはそうと、あの子はどうします?」

『今すぐ介抱しろ。そして意識を取り戻したらその子に従ってティフィとフィアと一緒に帰って来い。以上だ。』

「かしこまりました。」


 私は素直に返事をすると、気絶してる女の子を抱えて公園のベンチに寝かせた。別にダメージを与えた訳じゃないから、しばらくすれば起きるだろうし。


「ゲイザーちゃん、どうしたです?」

「ん、その子は誰なのです?」

「なんか、ご主人様が送ったお迎えみたい。この子が目を覚ましたら指示に従って帰ってこい、だって。」

「ってことは、新入りです?」

「ん、後輩ができるなのです!」


 ティフィとフィアはとっても嬉しそう。まあ、喫茶木漏れ日の従業員の中でティフィとフィアより後に入ったのはグレイスさんだけだけど、あの人はティフィたちの倍以上年上だから後輩、って感じじゃないしね。


「フィア、年が近いからいずれ一緒に遊んでもらえるかもしれないです!」

「ん、そうなったら嬉しいなのです。」


 近くでワイワイ騒いでいると、女の子が目を覚ました。彼女は少し目をパチパチさせてキョロキョロと辺りを見回すと、私たちをじっと見る。


「何でこっち見るです?」

「ん、不審者ならば首を刈るなのです。」

「ちょっと2人とも、ご主人様やグレイスさんなら兎も角、一般人にいきなりそういうこと言わないでよ。お目付け役の私が怒られるから。」

「そうはいかないのです。」

「ん、犯罪者は死すべしなのです。」


 短刀を構える2人。それに対して女の子はビビったように目を潤ませているが、何とかと言った感じで唇を震わせると、


「そ、ソウル・シャインさんに頼まれて迎えに来ました、クレアといいます。」


 と何とか一言発する。すると途端にティフィとフィアの雰囲気が和らいだ。さっきまでの殺気があっという間に霧散し、温かい雰囲気になる。


「そうならそうと言ってくれればいいのです。私はマスターの妹のティフィです。」

「ん、ティフィと同じく師匠の妹のフィアなのです。」

「2人とも勘違いさせるようなこと言わないの。2人とも妹じゃないでしょ。あ、私はゲイザー。ご主人様の使い魔よ。」

「皆さん、ソウルさんの関係者なんですか?」

「そうです。私が言ってるマスターっていうのは偉大なるソウル・シャインのことです。」

「ん、私が言ってる師匠っていうのも偉大なるソウル・シャインなのです。」

「私が言ってるご主人様っていうのもソウル・シャインのこと。」

「ふわあ……」


 女の子……クレアちゃんはびっくりしたように口をぽかんと開けた。でもそれは一瞬で、すぐにクビをブルブルと振ると、


「えっと、一緒に帰って貰えますか?」


 と問う。指示には従えって言われているので、ティフィとフィアは頷くとクレアちゃんと手を繋いだ。


「え? え?」


 戸惑うクレアちゃんにティフィとフィアは満面の笑みを向ける。


「クレアさんはお姉ちゃんです。だからはぐれないように手を繋いでもらうです。」

「ん、ティフィに同意なのです。」


 2人の笑顔に癒されない人はいない。実際、クレアちゃんも緊張がほぐれたような顔になっている。


「あー、じゃあ私は監視しつつ後ろから付いていくね。」


 私は取り敢えずお目付け役の仕事に戻ることにした。さっさと浮遊して、手を繋いでおしゃべりしながら喫茶木漏れ日に向かう3人を守るように周囲をイビルアイと監視する。


「クレアちゃんが入ったら喫茶木漏れ日もにぎやかになりそうだね。」


 私の独り言は、春風に紛れて消えていった。

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