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待人岬AM0:24  作者: 片上尚
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そして決めた

「なんで?」


黒いやつは、心底不思議そうな顔をしてこちらを見ている。


「だって、こんな終わり方…」



俺は納得できない。



「崖から飛び降りるのと何が違うの?」

「でもだって」

「人間は、自分の最後なんて普通選べないもんだよ」


それはそうだけど、


「それにしたって、こんな、こんな不幸なだけの人生なんて!」

「だからあんたは終わらせに来てたんだろ?」

「それは…そうだけど」

「いいから、こっちさ来いって」


じいさんは相変わらずにこにこしている。


「それにしたって、俺は、俺はなんで死ななきゃいけないんだよ!」


納得できるわけなんてないじゃないか。


「それはちょっと前のあんたに聞いてみたらいいよ?」


黒いやつは冷静に俺を諭す。


「俺は悪くないんだ!何もしてないのに!悪いことなんてしてるやつがいっぱいいるじゃないか!」

「でもさ、悪いやつばっかり送ったら、向こうが大変だろ?こっちには次の悪いやつが出てくるし。」

「それにしたって、俺じゃなくたったいいだろ!」

「うん、そりゃあね。」

「どうして…」

「じいちゃんに送ってもらえば、自殺と違って普通に生まれかわれるよ?」


そうなのかもしれないけど。


「なんも、大丈夫だから。」


じいさんの笑顔が、強烈に恐ろしいものに見えてきた。



「俺は何も悪いことなんてしてないんだ!」

「そうだろうね。そんなの知ってるよ」


黒いやつはいかにも全部知っている、という顔をしているけど…もしかしてホントにわかってるのか?


「じゃあ」

「でもさ」




「これから生きててどうするつもり?」



「それは………それはこれから考える…」




だって、こんな終わり方いやだ。



「考えたって現状は変わらないよ?」

「そうかもしれないけど」

「それでも、生きてたいの?辛いのに?」

「辛いかもしれないけど…でも」



すると、じいさんが突然真顔になって言い出した。


「なぁ、にいちゃんや」


黒いやつは驚いているようだ。


「…なんですか」


「向こうの奴ら、み~んな、「もっと頑張りたかった」って言ってたぞ」




思わず、黙ってしまった。

黒いやつがため息を一つついて指を一本立てた。


「本当に、死ななくていいの?」


俺は、少し迷ったが、決めた。


「うん」

「こんな楽に死ねるチャンス、二度とないよ?」


黒いやつが確認する。


「うん、いいんだ。」


「そっか」

「うん。」


やつの人差し指がゆっくり揺れる。


「今日のところは、家に帰って寝るといいよ。君は自殺するために立待岬に来た。でも、一人で悩んで、思いなおして帰った。」


そう。


「思い直して帰った」


「うん、気をつけて帰るんだよ」

「うん、気をつけて帰る」


「おやすみ」

「おやすみ」




真っ暗な人待岬には、もう誰もいなかった。

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