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じいさんは、俺の方を見てなんかにこにこ手招きしてる。
…え?マジ?ホントこいつら死神なの?
「こっちさ来いって」
じいさんがだんだんこっちに近寄ってくる。
俺は思わず一歩下がると、柵にぶつかった。
柵を超えたら当然、崖だ。
「ほら、あっちに送ってもらえよ」
黒いやつが生気のない顔をしてこっちを見ている。
いや、やめろよ、そんな顔で俺を見るなよ!
ホントに死神みたいじゃないか。
「え、いやいや、冗談だろ?」
「いや?だって、あとで死ぬって言ってたじゃん」
「そうだけど…」
「じいちゃん見つかったし」
「いやいやいや」
「え、死にたいんじゃないの?」
確かに、そうだったけど。
「…なんか違う」
俺はぽつりとつぶやいた。
「違うってなんだよ」
「なんも。痛くないから。」
じいさんはあいかわらずにこにこ手招きしてる。
「いや、俺が思ってたのは、ほら、なんか凄惨な死に方して、怨霊みたいなのになって恨みつらみをアレして祟りを起こしたりして」
「そんなことできるわけないじゃん」
なんか黒いやつにぶった切られた。
「え?」
「ほれ、送るわ」
いやじいさん、しつこいって!
「人間が死んだら、向こうに行くだけだよ」
「え、でも呪いとか地縛霊とか」
「あー、そんなの無理無理」
黒いやつはあきれたように話している。
「あーいうのはね、因果なんだよ。なる人は前世あたりから決まってるの。あんた違うわ」
なんだよそれ。
「あんたが死んでも、あの世に行って生まれ変わるだけだよ」
そんな。
「あーでも、自殺なら地獄でしばらく「オツトメ」してからかもだけど」
「え?」
刑務所あがりの俺は「オツトメ」という言葉につい反応してしまった。
「辛いぞー、地獄。」
なんだよそれ。
「そういうもんだから」
「ほら、こっちさ来いって」
二人とも、穏やかな顔をして手招きしている。
「マジかよ」
俺は愕然とそれだけつぶやいた。
「なんも、痛い事ないから」
「大変なんだろ?今。」
じりじりと二人が近寄ってくる。
もうこれ以上後ろには下がれない。
「どうして逃げるんだよ」
「だって…」
こんなんじゃない。俺が思ってたのはこんなんじゃないんだ。
「…いやだ」
俺の口から出たのは否定だった。