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「あ、そ。でさ、じいちゃん見なかった?」
は?何だこいつ。
俺は何を言われているか理解できなかった。
「だから、この辺にじいちゃん来なかった?」
「…なんなんですかあなた」
「俺?俺は…」
黒い男はニヤニヤと含み笑いを浮かべている。
俺は無性に腹が立ってきた。
「人が死のうとしてるのに止めようともしないで…」
「まだ生きてるんだからいいじゃん」
「あなたね、なんなんですか!それでも人間ですか!」
「あー、えーと…」
なんか言いよどんでるが知らん!
「そもそもね、自殺しようとしてる人がいたら止めるってのが普通じゃないですか!それをそんな態度で!あんたはいいのかよ、目の前で人が崖から飛び降りても!」
「でもこっちも一大事なんで」
そういわれてみると、人が死のうとしてるのに声をかけねばならなかった理由、というのも気になってきた。
「…人が一人目の前で死のうとしてるのより重大なことってなんだよ」
「だからじいちゃんがいなくなって…」
「…じいちゃん?」
「…どこ行っちゃったのかなじいちゃん」
「…」
「また山登ってるのかな…」
「…こんな時間に?車?」
「徒歩」
「徒歩!?」
「だってじいちゃん免許持ってないし」
「え?」
「まずいなぁ…また山だったら…」
「山って宵高山?」
「そう」
「集団神隠しあったばかりじゃん!」
「あーそれ」
「中国人が100人近く消えたんじゃなかったっけ?」
「まぁ…」
「外交問題になって相当ヤバかったって。一時天津航空止まったらしいじゃん。」
「うわー…」
「今月は駅よりこっち側、週に2-3人消えてるみたいだし。物騒だよな…」
黒い男はなんか頭を抱え込んでいる。
やっぱりお年寄りが神隠しがある地域で行方不明とか、心配だよな…
「困ったな…またなんかあったら…」
本当に困っているようだ。
なんかもう今は自殺って気分じゃなくなってきた。
よし、死ぬ前に人助けだ。
こいつのじいちゃん探してからゆっくり死のう。
俺は大股で柵をまたいで、陸側に戻ってきた。
「仕方ねーなぁ、探すの手伝ってやるよ!」
「え?でもあんた死ぬんでしょ?」
「死ぬのはあとだ、今はじいちゃんだ」
「いやいや、危ないって」
「そんなの神隠しに合う確率なんてあんたも一緒だろ?」
「俺は大丈夫なんだよ」
「遠慮するな。あんたのじいちゃんなんてもっと危ないだろうしな」
「いや、じいちゃんが危険なんだよ」
「は?」
なんか慌ててるっぽいけど…いや、明らかにお年寄りが一番危ないだろ!
「じいちゃーん」
「じいちゃんの服装は?」
「ジーンズに半そで」
「今秋だぞ。寒くないか?」
「いや、だってじいちゃんだぜ?」
「いや、お前のじいちゃん知らねーし」
「ジーンズに半そでシャツにビーサン」
「足元まで夏!まあいいや、シャツは何色?」
「黒」
「黒?!」
「え?」
「いや、夜に黒って…車にひかれたらどうすんだよ!じいちゃんいくつ?」
「487歳」
「んなアホな」
「いやマジだって」
「冗談言ってんじゃねーよ!何歳なんだ?」
「487歳!」
「487歳って人間じゃないだろ」
「そうだよ」
「いい加減にしろ、お年寄りがこんな時間に一人で出歩くなんて危ないだろ。早く探しに行くぞ」
「だから、じいちゃん自体は平気なの」
「だからどっから来るんだよその自信!!!」
「じいちゃんと会った人が危ないんだって!」
「は?」
「じいちゃん、死神なの。」
は?