終わり、そして、始まり 4
王宮の中庭は秋の装いを見せ始めていた。
色づき始めた葉を眺めながら、マーリーは口ずさんだ。
――新緑に映える銅の髪
陽光きらめく藍の瞳
春の香まいて野を駆ける
若き清しきその息吹
「それは、余のことか?」
「違いますよ、ミーネさん」
マーリーが振り返ると、茶器を手にしたミーネが立っていた。ミーネは今、ララサララ付きの女官をしている。
「やっぱり、マーリーさんは騙せないわね。未だに、王宮内でも引っかかる人が多いのに」
「僕の前では、ララは〈余〉とは言わないんですよ」
「はいはい」ミーネは笑いながら言った。「〈麗しのララサララ〉随分と流行っているみたいですね」
祝典で歌って以降、〈麗しのララサララ〉は王国全土で流行っていた。マーリーはどこへ行っても、〈麗しのララサララ〉を歌うよう望まれた。
「まあ、ちょっと自信になったよ」
「あれは私も一緒に作った歌ではないか」
いつの間にか、中庭にララサララがいた。臙脂色のドレスを着て、髪を高く結い上げている。ララサララに気が付くと、ミーネは一礼して中庭を出て行った。
「やあ、ララ。久しぶり。……そうだね、君と一緒に作った歌だ」
「だから、歌うときはいつも私のことを思い出すのだぞ」
ララサララが言って、小さな沈黙が降りた。
秋の風が中庭を吹き抜けていく。
「やっぱり、行くんだな?」
「うん。もっともっと、色々な国を見て回りたいんだ」
マーリーとルーリーは、この一ヶ月、アプ・ファル・サル王国内を回っていたのだった。
「魔術師になるのか?」
「……それはわからない。一族のことも、母さんのことも、もっと時間をかけて考えたいんだ」
「そうか。でも、魔術師にならなくても、歌い手としてやっていけるさ」
「ありがとう」
そしてマーリーは、懐から小さな袋を取り出した。
「これ、受け取ってくれるかな」
「なんだ?」
ララサララは袋を受け取ると、その場で開いた。中から出てきたのは、銀色に光る首飾りだった。
「これは……」
「例の首飾りと同じ細工なんだ。ガタナさんにお願いして作ってもらった」
かつてババカタラ王の首にかかっていた〈魔法返し〉の首飾り。それは今、巡り巡ってルーリーの首にかかっている。それと同じものを、マーリーはガタナに頼んで作ってもらったのだった。その下げ飾りには、龍青玉の代わりに翡翠がはめ込まれている。もちろん、龍青玉を使えば魔法具として機能する。現在の魔法細工と随分様式の違うそれは、しかし、力は驚くほど大きい、とガタナは言った。
ララサララは下げ飾りの裏を見た。
〈草原を駆ける早春の息吹へ〉と刻んであった。
「ミーネが余計なことを言ったな?」
「……何のことかな?」マーリーの視線が泳いだ。
ララサララは首飾りをかけると、胸の前で下げ飾りを握りしめた。
「マーリー」
「なに?」
「かつて盟友だった、ババカタラ・バラオとレーヌ・ファブナックは、結局結ばれなかったのだぞ」
ララサララが、悪戯っぽい瞳でマーリーを見つめていた。
「でも、僕らの道は、僕らが選んで歩く道だよね? どうなるかなんてわからないよ」
「そうだな」ララサララは花のように笑った。「ありがとう、大切にする」
ララサララが小さな手を差し出した。
マーリーはそれを力強く握り返した。
「また会おう、マーリー」
「うん。きっとまた会いに来るよ、ララ」
王宮の中庭に降り注ぐ秋の日射しが、柔らかくふたりに降り注いでいた。
上空で、名も知らぬ鳥が、一声鳴いた。




