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終わり、そして、始まり 3

 それから一ヶ月後。

 破壊された王宮の修理が終わった祝典が、王都ファル・バラオで盛大に開催された。

 民達の前に現れたララサララ・バラオ女王は、美しい声で国歌を披露した。その歌声に合わせて王都を満たした萌葱色の〈行幸の御証〉は、人々の心を打った。

 祝典では、旅の歌い手ルーリーが〈麗しの王国〉を、その息子マーリーが〈麗しのララサララ〉を披露して喝采を浴びた。

 祝典の最後、ララサララは民達の前に立った。王宮前の広場には、数千人の王都の民が集まっていた。王宮の魔法使い達は、ララサララの声を皆に届けるべく、各所で〈鸚鵡おうむ返し〉の魔法具を用意した。鳥の形をしたその魔法具は、王宮の露台で発せられたララサララの声を、離れた所で繰り返す。民達は、王の声をすぐに聞くことができるのだ。

「一月前の事件で、この国はまだ弱き国であることを露呈ろていした」

 ララサララは話し始めた。

「百二十年間、一度も他国の侵攻を受けたことがないという我々の矜恃、それはまやかしだった。百年前、〈始まりの母〉ババカタラ王は、当時の隣国マーテル王国の侵攻に対して、アプ・ファル・サル王国への野心や逆心を押さえる魔法を使った。それは、百年もの間、周辺国の野心を押さえ、王国の民達にも影響を及ぼしてきたのだ。

 伝説の守護魔法……それは、本当に存在していた。そして、それはもうない」

 ララサララは広場を見渡した。しわぶき一つ聞こえない。

「我々は、暖かい母の腕の中から巣立つときが来たのだ。

 守護魔法がなくなってみれば、この王国は単なる小さな国だ。騎士団や州軍は戦闘経験が少なく、王族や王宮の官吏も外交経験が少ない。その一つ一つを、我々はこれから積み上げていかねばならないのだ。

 だから……皆で考えて欲しい。余の進む道は間違っていないか? 王宮は? 騎士団は? 各州は? たしかに、王国を運営するのは余の仕事だ。しかし、余が国の頭だとしたら、民は血であり、骨であり、肉なのだ。どちらが欠けても、国としては完全ではない。

 余は、ここに集まった皆や、この国中の皆と、足並みを揃えて進んでいけるような国が作りたい」

 ララサララは、愛しい人々の顔を思い浮かべていた。マーリー、リル、ノース、アリー、ギニー、ルーリー、ミーネ。師や父王や母様、兄上までも。

「四ヶ月前、余は言った。余の望みは常闇である、と。何も見ず、聞かず、考えず、膝を抱え込んでしまえる心地よさは、これまでのこの王国の状態にも通じるものがある。闇をかき消す光は、眩しく、ときには痛みさえも伴う。しかし、その先には、新たな世界の広がりが待っているのだ。その光に目を慣らし、自分の足で進む方向を見定めてこそ、この国は強き国となることができるのだと思う。

 今日は、新たなる王国の門出だ。この先は楽な道ではない。しかし、未来へと続く明るい道だ。さあ、一緒に歩き出そうではないか!」

 嵐のように沸き起こった拍手と歓声は、王宮前の広場から溢れ、王都全体に響き渡った。そしてそれは、いつまでも止むことはなかった。

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