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終わり、そして、始まり 1

 事態は急速に終結へと向かった。

 ララサララが〈玉座の間〉で呆然としているうちに、ルーリーは王都へと飛び出した。〈魔法のいかずち〉の一撃で、飛行騎士をすべて墜とすと、返す刀で深紅の魔術師達も一瞬で葬った。ババカタラ王の龍青玉は結局発動せず、〈黒の森〉へと落ちた像は、そのまま行方がわからなくなってしまった。

 王都の敵を一掃したルーリーは、その足でアプセン州へと飛んだ。その速さは、もはや飛翔魔法と呼べるものではなく、瞬間移動に近かった。

 上陸寸前だったアニシャ東方三国軍の頭上に突如降り注いだ〈魔法の雷〉は、彼らの戦意をくじくのに充分な威力を持っていた。そして、単身、三国軍の旗艦へと乗りこんだルーリーは、指揮を執っていたブリスター子爵を捕らえ、王都へと連行した。

 後でわかったことだが、元々この侵攻に、アニシャ東方三国の王達は懐疑的だったのだ。しかし、万が一にでも成功したら、との皮算用から、兵だけをカカパラスとブリスター子爵へと与えていた。もちろん、精鋭とは言い難い兵達だ。だから、子爵以外には、三国の王族も、貴族も軍の幹部すらいなかった。そのため、子爵が抜けた軍隊は総崩れとなり、港湾候が指揮するアプ・ファル・サル王国軍――アプセン州軍と騎士団の混成軍――に返り討ちにあうこととなった。もちろん、ルーリーの雷の一撃が、これ以上もなく効いていたのは言うまでもない。

 カカパラスが死んだことで、王宮内の王子派の士気も急速に落ちていった。最後まで〈遠見の間〉で抵抗した、バンダス騎士団長とシュコーチス副騎士団長以下数名も、ノースを筆頭とする騎士団に追い詰められ、観念せざるを得なかった。

 鉱山候と平原候は、自分たちの処遇がどうなるのか震え上がり、彼らの手足だった女官長を始めとする女官達は、いつの間にか王宮から姿を消していた。

 パウバナ大司教は、魔法の失敗に衝撃を受けたのか、一気に老け込んだ。すべての地位を剥奪された彼は、命だけは赦され、サリュル州の寒村へと追いやられた。しかし、誰の目にも、余命幾ばくもないのは明らかだった。

 そして、王宮に連行されたブリスター子爵は、ララサララの前に引き出された。

「そなたがブリスター子爵か?」

「……」

「一つだけ訊く。今回のことは、兄上の野望だったのか? それとも、そなたの野望だったのか?」

 ララサララとしては、すべてがカカパラスひとりの野望だったとは思いたくなかった。たしかに、きっかけはこの王宮にあった。しかし、その先は、ブリスター子爵にそそのかされたと思いたかった。

 しかし、結局、子爵はひとことも言葉を発しなかった。

 王国としては、敗戦の将にかける情けはさすがになく、ブリスター子爵は極刑に決まった。リルの遺体と面会する機会を与えたことが、ララサララのせめてもの温情だった。もちろん、子爵のことを思い遣ったわけではなく、リルのことを思ってのことだったが。

 カカパラスを刺したパパマスカ前王は、多くを語らなかった。ただ、カカパラスの遺体を見つめる目が悲しげだった。カカパラスが自分を騙し、王国をも潰そうとしたことが、父王には信じられなかったのではないか。父親として、何とかカカパラスを止めようと思ったのではないか――それが、ララサララが出した結論だった。もっとも、憶測の域は出ず、憔悴したパパマスカは、また、マーテチス州の離宮へと引っ込んでしまった。

 そして、王宮内が落ち着いて始めて、ララサララはリルと対面したのだった。

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