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魔法 4

 飛び込んできたノース達を、カカパラスが手玉に取る様を、マーリーは唇をかみながら見つめていた。やられてしまったふたりの騎士は、マーリーとミーネの側に倒れている。壁際では、大司教がルーリーを傷つけ、流れた血で、壁に魔法文字を書いていた。

 大司教が最後の一筆を終えると、血文字が光を発し始めた。大司教は、ルーリーを緊縛していた鎖などを外し始める。吊り下げるための縄と、猿轡を残して。〈魔法封じ〉が解かれると同時に、吊されたままのルーリーの体から緑がかった金色の光が溢れた。溢れたその金翠の輝きは、やがて部屋中に敷かれた金属板の魔法文字へと波及した。

「おおっ!」大司教が感嘆の声を上げた。

 その魔力のすさまじさに、ノースは壁際へと押しやられた。カカパラスは余裕の表情でルーリーの側、大司教の脇に立つと、ララサララを見据えた。

「覚悟はいいな、ララ」

 マーリーの位置からでは、ララサララの表情を見ることができない。

 ――なんとか、なんとかしてララのところへ――

 後ろ手に縛られ、体を縄でまかれ、足も縛られている状態では、マーリーにできることはなかった。それでも諦めきれず、マーリーは体をよじった。すると――唐突に、体をまいている縄が外れた。

 マーリーは、はっとして頭を巡らせた。

「じっとしててください」

 ミーネだった。さっきまで気を失っていたミーネは、ふたりの騎士が倒れ込んだ衝撃で、気が付いたようだった。甲冑を着た騎士は、剣の他に、脇に何本もの短刀を差している。その一本を手に、ミーネはマーリーの縄を切っていた。

 部屋の中では、ますます光が強くなっていた。金属板に刻まれた魔法文字が光り、溢れた光は波となってララサララに降り注ぐ。ララサララの頭上には青白い輝きが広がっている。輝きの元は、額につけた龍青玉の額飾りだろう。魔法に詳しくないマーリーにも、そろそろ魔法が最終段階に入っていることが感じられた。

 足を縛っていた縄が解けた。マーリーは立ち上がると、後ろ手に縛られたまま、光の中へと飛び込んだ。

 凄まじい魔力の流れは、マーリーの体を押し返そうとする。その力に呼応するように、胸の首飾りが青白い光を発した。服の下にあるにもかかわらず、その光は溢れ出した。そして、マーリーに叩き付ける魔力を、徐々に押し始める。

 マーリーは歯を食いしばり、光の中心へと歩を進めた。一歩、また一歩と、ララサララへと向かう。無限にも、一瞬にも感じられる時間の果て、マーリーはララサララまであと数歩の所まで近付いた。

 そこで、部屋の向こう側にいるカカパラスが、マーリーの行動に気付いた。

 しかし、いかな王子とて、この魔力の潮流の中には入ってくることができない。カカパラスは憤怒の表情でマーリーを睨み付けた。

 しかし、マーリーはそんなことには気付いていなかった。足を踏ん張り、最後の距離を埋めるべく、足を前へと送る。

 ――あと少し。

 ――あと少しでララサララに届く。

 ララサララの額にある龍青玉の額飾り。あれが、ララサララを龍青玉に結晶させる引き金になるに違いない。

 額飾りを外せば、ララサララが龍青玉にされてしまうことは回避できる――できるはずだ。

 マーリーは、手を伸ばせばララサララに届くところまで到達した。しかし、手を縛られたままのマーリーは、手を伸ばすことができない。

 輝きはますます強くなり、ララサララの体は、ほとんど青白い光に飲まれてしまっている。

 大司教が、ルーリーの血で何かを書き始めた。それが最後の呪文なのだろうと思われた。

 マーリーは、力を振り絞ってララサララのかたわらまでたどり着くと、その額に顔を近づけた。

 そして、額飾りにかみついた。

(ララ、ごめん!)

 ララサララの綺麗な顔に傷が付かないことを祈りながら、マーリーは全体重をかけて、額飾りを食いちぎった。

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