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魔法 3

 大音響と共に王宮の壁面が飛び、中から深紅の外套をまとった魔術師達が飛び出してきた。ノースはそれを見るや、背後のベルルに向き直った。

「真っ赤な魔術師が五人飛んでいったわ。陛下の所に行くのは今しかない。一分隊、付いてきて!」

 ノースは、第八大隊の指揮を参謀のベルルとケネフに託して駆けだした。

「飛翔魔法が使える魔法騎士はいる?」走りながらノースが訊いた。

 穴が空いた〈王の宝物庫〉は地上三階にあたる。今から梯子はしごを用意している暇はない。

「申し訳ありません。我が分隊には……」第五〇二分隊長のクーヒスが答える。

 ノースは無言で周囲を見渡すと、一番近くを飛んでいた第六大隊の飛行騎士目がけて短刀を投げつけた。第五〇二分隊の五人が目を丸くする。

 背後から短刀が飛んできたことに驚いた飛行騎士が、ノースへと鼻先を向けた。鹿毛の馬に魔法騎士と弓騎士が乗っている。弓騎士が魔法の矢をつがえ、ノース達に向かって弓を引き絞った。

 ノースは立ち止まり、剣を下げて、飛行騎士に正対する。

 青白い光を放つ魔法矢が放たれた。それはノースの顔面を捕らえたかに見えた。

 しかし――矢はノースのかぶとをかすめ、背後の壁を砕いただけだった。

 魔法騎士がノースの前に馬を降ろし、弓騎士が飛び降りた。

「第六大隊第九〇小隊のブラバーです」弓騎士が名乗った。「何事ですか?」

「第八大隊長のノース・ブリューチスよ。そっちの魔法騎士にお願いがあるの」

「また、随分と荒っぽいお願いですね。危うく射貫いてしまうところでした」

「でも、ちゃんと外してくれたじゃない。あそこに空いた穴に、私達六人を放り込んで欲しいのよ」

 弓騎士は背後を振り返った。馬上の魔法騎士はまだ若い女だった。

「六人まとめてですか? 随分と無茶ですね?」魔法騎士が言う。

「無茶は承知の上。でも、陛下をお助けするには今しかないのよ」

「わかりました。私はデミーです」

 ノース達六人とデミーとブラバーは、壁に空いた穴が正面に見える所まで走った。

「全員手を繋いでください」デミーが言う。

「おい、連中が気付いた。早くしろ」ブラバーが魔法の矢をつがえながら叫ぶ。敵の飛行騎士が二騎、こちらを指向していた。

 デミーを中心に七人が輪になって手を繋いだ。デミーの甲冑は飛行騎士用の軽量のものだ。その胸と肩に龍青玉が仕込まれている。甲冑そのものが飛翔魔法の魔法具となっていた。

「いきます! 飛翔!」

 龍青玉が光り、ノース達の足が地面から離れた。と、凄まじい勢いで体が飛び、七人は壁に空いた穴に向かって突っ込んだ。

 がんっ、と甲冑が床に叩き付けられる音が響く。自分がどんな態勢なのかもわからない。脇腹の傷が悲鳴を上げる。それでも、ノースは急いで立ち上がると、揺れる頭を振って周囲を見た。七人も同時に飛ばしたため、デミーは魔法の繊細な制御が効かなかったらしい。部屋に飛び込めたのは、ノースを含めて三人だった。デミーを含めた残りの四人はどうなったのか? ノースはあえてそのことを頭から閉め出した。

「陛下!」

 小さな丸い部屋の中では、大司教がルーリーの太股に刀を突き立てていた。

 ノースは剣を構えると、大司教に向かって突進した。しかし、脇から一閃された剣に、立ち止まらざるを得なかった。

「さっきの女騎士か。思い切りが良いな」

 ノースの前に立ちふさがったのはカカパラスだった。

「こちらは三人だ。王子殿下、お諦めください!」

「冗談」

 言うが早いが、カカパラスはノースの懐に飛び込んだ。甲冑を着込んだ騎士と、身軽なカカパラスでは速さが違う。剣の間合いを殺したカカパラスは、ノースの足を払った。

「しまっ……」足下をすくわれたノースは、仰向けに倒れた。

 カカパラスは倒れたノースには目もくれず、次の騎士へと迫る。騎士が距離を取ろうと下がると、途端に方向を変え、もうひとりの騎士の懐に肉迫した。

 カカパラスの背後に回ろうとしていたその騎士は、不意を突かれ、壁際へと追い込まれた。カカパラスは躊躇せず、剣を鎧の隙間へと突き立てた。鎖帷子が千切れる甲高い音と共に、ぐふっ、という嫌なうめき声が漏れ、騎士の腕から力が抜ける。カカパラスは剣を引き抜くと、振り返りもせずに横へと飛んだ。

 カカパラスの背後に迫っていた騎士の剣は空を切り、彼は、倒れた分隊の仲間と正面から向かい合うこととなった。

「分隊長……」

 その一瞬の隙に、カカパラスは騎士の背後へと回り、剣を突き立てた。カカパラスの持つ〈甲冑割かっちゅうわり〉と呼ばれる剣は、騎士の鎖帷子をも軽々と貫く。もちろん、アプ・ファル・サル王国で鍛えられた魔法の剣だった。

 倒れたふたりの騎士に一顧だにせず、カカパラスはノースへと向き直った。ノースは立ち上がっていたが、剣を構えたまま、動き出すことができなかった。

「見ただろう? お前らと俺では速さが段違いだ。それに、もう準備も済んだ。残念だったな」

 壁際では、大司教が、ルーリーの血で壁に魔法文字を書き終えていた。

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