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魔法 1

 縄で縛られたマーリーは、〈王の宝物庫〉壁際の床に転がされていた。

 すぐ脇では、ミーネが椅子に括り付けられていた。彼女の額には龍青玉の額飾りが光っている。それは、ババカタラ王の像の額にあるものと良く似ていた。

 部屋の反対側の壁に吊されたルーリーは、相変わらずぐったりと目を閉じていて、マーリー達に気が付いた様子はない。革の猿轡が痛々しく、マーリーの胸を締め付けた。

 大司教と騎士達はどこかへ行ってしまった。〈玉座の間〉では、ララサララとカカパラス王子の謁見が行われているはずの頃合いだった。

「私、上手く陛下を演じられたかしら」ミーネが呟いた。

「うん、上手だった。大司教は完全に騙されていた。作戦は成功だね」

「よかった」

 ミーネが微笑んだ。右の頬に小さなえくぼができる。それはララサララにはないものだ。

「マーリーさん。あなたのこと、陛下から聞いたわ」

「なんて言ってた?」

「歌がとても上手なんですってね?」

「ありがとう。一応、それで食べているからね」

「屁理屈もとっても上手だって」

「……」

「それから、翡翠色の瞳が綺麗で、とても好きだって」

「え?」

「あ、これは言ったらまずかったかしら」

 マーリーはしばし言葉を失い、ミーネは少し悪戯っぽい表情をした。

「ねえ、あなたから見た陛下ってどんな方?」

「意地っ張りかな」

「それから?」

「我が儘」

「うん」

「でも、人一倍責任感の強い、素敵な女の子だよ」

 ミーネが、椅子の上からマーリーを覗き込み、何か言おうと口を開いた。そのとき――

 どーん、という大きな音と衝撃と共に、室内に朦々(もうもう)と煙とも埃ともつかないものが舞った。マーリーとミーネは驚き、目を瞑り、せ上げた。

 やがて室内が晴れると、壁に空いた大きな穴が露わになった。薄暗かった室内に光が差し込んでくる。

 崩れた壁の瓦礫を乗り越えて、まずパウバナ大司教が現れた。大司教はまっすぐミーネの前まで来ると、その椅子を蹴り倒した。

「この女狐が! とんだ恥をかかされたわ!」

 大司教は懐から護身刀を取り出すと、鞘を捨て、切っ先をミーネへと向けた。

「やめておけ、大司教」後から入ってきた若い男の声が大司教を諫めた。「それだけララに似ているのだ。ここで殺してしまうのはもったいない。使い道は幾らでもある」

 大司教は不請不請頷くと、ミーネの顎を蹴り上げ、護身刀を収めた。

「ん? こいつは何だ?」

 床に転がされているマーリーは、このときになってやっと、若い男が誰かを抱え上げていることに気が付いた。あれは――

「ララ!」

 マーリーは、精一杯体を伸ばし、男を見上げた。褐色の短髪と藍色の瞳、大きな体躯。ララサララの兄、アプ・ファル・サル王国第一王子カカパラス・バラオだろう。

「ああ、歌姫の息子か。しかし、魔術師ではないのだろう?」

「〈金翠の歌姫〉に対する人質になるかと……」と大司教。

「ふん」カカパラスは、早くも興味を失ったようだった。

 室内には、深紅の外套をまとった人物が五人、何やら作業を始めていた。ひとりがミーネへと近づくと、彼女の縄を解き、椅子だけを持ってその場を離れた。大司教に顎を蹴られて気を失ったミーネは、その場に放置された。

 外套達は、ババカタラ王の像を部屋の隅へと移動し、代わりに中央に椅子を置いた。カカパラスが椅子にララサララを座らせると、手早くララサララを椅子にくくり付ける。何があったのか、ララサララもぐったりとしていた。

 続いて彼らは、ララサララの体をまさぐり、いくつもの小さな龍青玉を引っ張り出した。護身魔法として、ララサララのドレスに仕込まれていたものだろう。そして、すべての護身魔法を外したことを確認すると、額に龍青玉の額飾りを付けた。それは、さっきまでミーネの額にあったものだ。

 壁に空いた穴からは、金属と金属がぶつかり合う嫌な音が響いてくる。人々の怒声、悲鳴、足音がそれに混じる。マーリーは五感を研ぎ澄ませた。

 ララサララがカカパラスに捕まっている――ということは、作戦は失敗したということだ。このままでは、ララサララが龍青玉にされてしまう――

(魔法返しを……)

 突然、マーリーの耳に女性の声が響いた。驚いたマーリーは周囲を見渡した。ミーネは気を失ったまま。近くにそれらしい人物はいない。

(その首飾りが、また、金翠の子によってもたらされるのも巡り合わせか……)

 唐突に、マーリーの頭の中に映像が浮かんだ。この部屋の中で、赤褐色の髪の女性と金髪の男性が向き合っている。女性の顔には見覚えがある――ババカタラ王だ。王は首飾りを外すと、男性の首にそれをかけた――

「魔法返し……」

 今、自分の首にかかり、服の下に隠れているルーリーの首飾り。ララサララは魔法細工だと言っていた。下げ飾りに龍青玉がはめ込まれ、完全な形となったそれは、かつてはババカタラ王の首にかかっていたもの――〈魔法返し〉の魔法具だというのか。

 マーリーは苦労して首を巡らし、部屋の隅へと追いやられたババカタラ王の像を見た。

(この首飾りでララを守ることができるんですね?)

 微かに青白く光るババカタラ王の像は、しかし、深紅の外套三人に囲まれ、マーリーに対して答えを返してはくれなかった。

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