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ミーネ 3

 ノース達一行は、問題なく王宮へと入った。ノースとララサララは、まず、騎士団第八大隊長室へと向かった。

「お帰りなさい。大隊長」

 参謀のベルルが、普段と変わらない態度でノースを迎え入れた。しかし、広いとは言えない大隊長室が、今日は人で溢れていた。

 第八大隊参謀ベルル・イモコフ。同参謀次席ケネフ・ラーセイ。第五大隊参謀エルス・ベガール。第七大隊長ジャス・ジャジャフ。同参謀次席フナール・トーヌス。

「ご苦労様」と軽く手を挙げて答えたノースに、部屋中の視線が集まった。

 ノースがファル・ベルネの町へララサララを迎えに行っている間に、ベルルは、反王子派――というより、職務に忠実だと思われる騎士団の面々――に声をかけたのだった。

「ブリューチス大隊長」筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)とした第七大隊長ジャス・ジャジャフが口を開いた。「貴殿の参謀殿から話は聞いた。今回のカカパラス殿下の警護計画は、たしかに納得がいかない点が多い。しかし、陛下の偽者の話も信じきれんな」

「詳しい話は、余がすればよいか?」それまでノースの背後に立っていたララサララが、前へと進み出た。「ジャジャフ第七大隊長」

「……陛下」

 ジャスは目を丸くした。他の参謀達も驚きの声を上げる。ノースを含めた全員が、ララサララの前に一斉に膝をついた。

「……となると、今〈奥の宮〉の居室に居られるのは……」

 頭を下げながら、第五大隊参謀エルスが呟いた。彼女の疑問は、その場にいる全員の疑問だ。

「それは余が確かめる」

「陛下?」ノースが驚きの声を上げた。今すぐ居室に踏み込み、偽者を引きずり出すものだと思っていたからだ。

「かの者が生粋きっすいの兄上の信奉者で、何が何でも余に取って代わろうとしているのならば致し方ない。しかし、平原候あたりに上手く乗せられているなら、余の味方にすることもできよう。だから、まずは余に任せて欲しい」

 なるほど、と皆が頷いた。

「皆、大方の事情は聞いているだろう」ララサララは、部屋にいる全員に語りかけた。

「兄上が帰ってくる。しかも、私兵団を引き連れて〈黒の森〉を越えてくる、との情報がある。余の転覆を狙っているとの噂がある。伝説の守護魔法の再現を企てている、との推測もある。大司教、鉱山候に平原候、騎士団長や第二大隊長などが兄上に賛同していると思われる。……偽者は、彼らの駒だろう」

 ざわ、と室内が揺れた。

「卿ら騎士団には戦闘経験がない。しかも、大半が王都から引きはがされた状態だ。〈黒の森〉を越えてくる兵は少数だろうが、敵は身内にこそ多い。万が一戦闘になれば、かなり厳しい闘いになるだろう」

「第八大隊を、すべて王宮の警護に回してはどうでしょうか」発言したのはベルルだった。「そうすれば、他大隊が戻ってくるまでの時間が稼げます」

 しかし、ララサララは首を振った。

「それは駄目だ。第八大隊には、王都の民を守ってもらわねばならない」

 ベルルが言葉に詰まり、それを見てララサララは微笑んだ。

「余のことを考えてくれたのはわかる。しかし、忘れないで貰いたい。騎士団の使命は、王都を、王都の民達を守ることだ。余のことは二の次でよい」

「しかし、陛下!」ジャスが声を上げた。

 ララサララはそれを手で制した。

「ああ、自分をないがしろにするつもりはない。……何と言ったらよいか……つまり、余と、卿ら騎士団は一心同体だということだ。わかるか?」ララサララは焦り気味に言葉を探した。「王は頭で、王国が体で、民達が血だとする。そうすると、卿らは……」

「我らは手足である、ということですね?」まとめたのは、第五大隊参謀エルス・ベガールだった。「手足は、体を守るためにあると?」

「そうだ!」我が意を得たり、とララサララが手を叩いた。

「しかし、最も守らなければならないのは、頭ではないでしょうか?」

「……」

 エルスが微笑んでいる。頭の回転が速い彼女は、口が達者だ。

「陛下もベガール参謀も極論です。重要なのは双方の釣り合いです。」第七大隊参謀次席フナール・トーヌスが割って入る。

 そして、当該の第八大隊長ノースが言った。

「我らは陛下のご意向を尊重いたします。しかし、最低限、王宮に兵力を振り分けることをお許しください」

「……わかった。塩梅は任せる。偽者がどちらに転ぶかで状況は随分と変わるが、味方にできたからといって、それは、ほんの一手だ。予断が許せないのは同じだ」

「どんな状況になれど、不届き者は蹴散らしてご覧に入れます」と気勢を上げたのはジャスだった。

「そうだな」ララサララは笑った。

「余が常闇を望んだのは、今の現状を認めたくなかったからだ。父王も母様も師も、誰もが突然に余の前から消えた――消えたと思った。そのことを信じたくなかったからなのだ。しかし、今にして思えば、あのとき、余が少しでも周囲を見ようとしていれば、事態は違っていたのではないかと思う」

 ララサララの言葉は明瞭だった。

「どこまでできるかはわからない。でも、余は、このアプ・ファル・サル王国を強き国にしたい。幸せな国にしたい。永き国にしたい。明るい国にしたい。優しい国にしたい。……そのためには、まずこの危機を乗り越えなければならない。今日まで何もしてこなかった王としては、卿らにできるのは願うことだけだ。その力を、余に貸して欲しい。王国の未来のために、余と運命を共にして欲しい」

 室内を満たしたのは、熱に浮かされたような沈黙だった。誰もが目を輝かせ、頬を上気させている。

 しばしの沈黙の後、ララサララは小さく微笑んだ。誰も何も言わなかったが、室内の空気を感じ取ったようだった。

「では、余は余の役割を果たそう」そう言うと、ララサララはひとり、第八大隊長室を後にした。

 残された面々は、しばらく頭を下げたままだった。やがて、誰かがぽつりと呟いた。

「〈早春の息吹〉が戻っていらした……」

 ノースは顔を上げた。その場にいる全員が顔を見合わせ、誰からともなく頷きあった。

 まず、ジャスとフナールが飛び出していった。彼らの第七大隊はサリュル州への移動を開始している。急ぎ追いつき、引き返させるつもりだろう。

 続いて、エルスが部屋を出る。「面白くなってきた」とほくそ笑み、足取りが軽い。マーテチス州にいる第五大隊長を、どう言いくるめるかを考えているに違いなかった。

 そして、部屋に残ったノースは、自身の参謀であるベルルとケネフに言い放った。

「さあ、忙しくなるわよ」

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